角笛が鳴る 65 お別れの時が来る
戦に勝利したガラル軍は公都グランガラルへと凱旋を果たす。
白馬に乗る大叔父上は熱狂的に迎えられ、紙吹雪が舞った。お祭り騒ぎとはこのことだ。
後ろに続くアイシア、ウルスラ、デューテもすごい人気で、声援が飛ぶ。
ティール侯爵とヘイムダル侯爵、さらにギュスターさん、さらに激しい戦いをくぐり抜けた将軍たちや貴族たち。騎士たちや兵士たちもみな誇らしい顔をしているのだった。
俺たち『Sword and Magic of Time』はパレードに参加せず、そそくさと離れるつもりだったが、主だった人々から是非に、ということで一番後ろについた。
「あれがお孫様の!」
「きゃ~! カサンドラお姉さま~! こっち向いて~!」
「グイネヴィア様だ! 『狂乱の戦女』だぞ! すごい!」
「なんと強者揃いなのか……!」
「リーアさーん! ぜひおれの恋人に!」
「お! アレが『首狩りの鬼女』か!」
声援がすごい。剣神闘技に出たメンバーが特に言われてる。
「お姉さまって、どういうことだい?」
「カサンドラ、こういう時は手を振り返すじゃん」
「ちやほやされるのはいいケドさ、恋人になってって、なに言ってんのよ」
「わたしだけ化け物みたいな言われ方ですぅ。不公平ですぅ」
たしかに。
男性陣は花束なんかをもらっていて、けっこうな人気だ。ダグマさんは鼻の下を伸ばしてたので、奥さんのアニャさんに怒られてた。
特に人気だったのはクロードさんとジョルジオで、女性に囲まれている。
助けを求められたが、そこは諦めてほしい。さっさと進まないといつまでも終わらない。
とはいえ、みんなには百体に近い機械兵と戦ってもらった。ちょっとぐらいのご褒美があっていいと思う。
何時間もかかってようやく尚武宮へと到着。
入り口ではたくさんの官僚が拍手とともに迎えてくれた。その中にはとうぜんミューズさんをはじめとしたウチの事務方が待っていてくれる。
「ただいまです、ミューズさん」
「おかえりなさい。みんな無事よね?」
「ええ、無事ですよ」
彼女は涙をぬぐった。
「ほんとによかったわ」
クロエさん、メリアムさん、サーヤさんにマーカさんとアンヘルさんも大変だっただろう。彼女たちとも再会の喜びを分かち合う。
そして――
「公子さま、やってくれましたな」
「シャンダール伯も、お疲れ様です」
「私など、座って偉そうにしていただけでございますよ」
そんなことはない。この人がいなければ、ガラルは破産していたように思う。
「報酬はすでにご用意しておりますゆえ」
「はい、ありがとうございます」
一人一億アーサルを稼ぐことができた。それを受け取れば、ここでの仕事は完了となる。
「他にも必要なものがあれば、なんなりと」
「いや、約束の報酬だけで十分です」
「ならば、私個人で準備したものをお受け取りください」
「それは?」
「ガラルの特産品や珍味の数々です」
「……!」
くそ! 受け取るを遠慮したいのに、頭が働かない!
「レディたちに聞きましたからな。あなた様は食べ物に弱いと。【神格】を凌駕するお方にそんな弱点があろうとは。はっはっは」
しまった。やられた。
だけど、そこまでしてくれるのなら断るのは失礼だよね? ね?
素直に受け取ることにする。
ウチのメンバーたちをみんなディエンドに帰還させて、俺は宮殿奥の大会議室へと足を運ぶ。
いまから話し合いがもたれる。なんの話し合いかというと、それは今後のことだ。
「わしはこのままガラルに協力しようぞ。ホーライから第二陣も来る予定じゃて、公国内の守りは問題なかろう」
さっそく主上から話が始まる。そこまでしてくれるなんて、すごいことだ。
「主上のおかげで我らティール家は自由に動けまする。残党はヘイムダル侯爵に任せ、本国の救援に向かいたい」
「私もそれに賛成だが、一つよろしいか」
ヘイムダル侯爵が手を挙げた。
「此度の戦いで決めた。息子ギュスターに家督を譲りたい」
これにはびっくり。ここに集った多くの貴族やら将軍やらが驚きの声を上げる。
「待て、セドリック殿。さすがに早いであろう」
「大公さま、私はギュスターに軍権を託したい。ティール侯爵と阿吽の呼吸ができるのは息子だけだ」
そうかもしれないが、ヘイムダル侯爵はまだ五十歳くらいだし、まだまだ元気に思うが。
「無論、私はグランガラル圏を守る。息子には遠征を任せたいのです」
「むう……そうか。シントはどう思う?」
俺に視線が集中する。なんでそうなるんだ。
「いいんじゃないですかね。うん」
「なにやらテキトーに聞こえるが」
「だって俺に聞くよりも、もっと聞くべき人たちがいるでしょう」
「いや、ここに集った我々は、頭を使うのが苦手なのだ」
「そうだな……お孫様は類まれなる智謀の持ち主と聞く」
「うむ! 考えるのは任せたいぞ!」
ダーゲッソ伯爵をはじめとした人たちが大きくうなずいた。
なんなの、この人たち。
「わかりましたよ。主上がガラルを守ってくれるなら、軍の多くをティール侯爵に率いてもらい、本国で動いている敵を攻めたほうがいい。そのためにギュスターさんの力は必要ですし、かといってヘイムダル侯爵の治安維持に対するお力も必要ですから、ある程度の兵士を残し、ギュスターさんに軍を預けるのは、良い手でしょうね」
おー、と声が上がった。
「大叔父上が復帰するまで苦戦していたのは、トップの不在と指揮系統の不統一が原因だと、いまなら思えます。ティール侯爵、ヘイムダル侯爵、ギュスターさんやシャンダール伯爵、さらには公女たち、と同等の権力を持つ人間が多すぎた。騎士や兵士は誰の言うことを聞けばわからなかったはず。なのでティール侯爵を大将、新侯爵となるギュスターさんを副将としておけば、指揮系統はすっきりする。みなさんも新しい若輩侯爵には優しくしてくれるでしょうし、もう負けないでしょう」
ティール侯爵が顔をそむけて笑い、将軍たちはぽかんとしていた。
「ふはーはっは! そうだな! 若輩侯爵にはみな優しく教えてくれるだろう! ふっふっふ……」
ギュスターさんの父親であるヘイムダル侯爵には俺の言い草が刺さったようだ。
「はあ……わかった。ヘイムダル侯爵の願い、聞こう。継承の段取りはつけておく。シャンダール伯、すまないが頼む」
「かしこまりました。大公さま」
話は決まったようだ。
それからいろいろ話が続いて、ようやく解散となる。
俺は残った。大叔父上にお別れのあいさつをするためだ。
「シント、なにか話があるようだな」
「ええ」
この場にいるのは主上と大叔父上だけだ。
「主上、大叔父上、俺たちは発ちます」
「そうか。もう少しゆるりとせよ、と言いたいところじゃが」
「そうだぞ。イエヨシ殿の言うとおりだ」
「いえ、報酬を受け取り次第、出ますよ」
主上に対し、頭を下げる。
「ありがとうございました。この御恩は忘れません」
「なにを言うか。おぬしがホーライにしてくれたことを思えば、まだ足りぬよ」
だけど、ホーライ軍にも犠牲者が出ている。
「義には義をもって返す。おぬしと、それにガラルには助けてもろうた。気にすることはない。おぬしはおぬしの道を進めい!」
おじいちゃんが背中を押してくれる。
だが、大叔父上は不満そうだ。
「考え直してほしいのだがな。このガラルの力をもってして、おまえが総大将として率いればいいのではないか?」
「すみませんが、それはできません」
「オフトフェウス殿、シントはラグナに行きたいのじゃろう。止めることはできんよ」
「しかし……」
「寂しいじゃろうが、わしがそばに居てやるゆえ、我慢せよ」
「ちょっ……別に寂しいわけでは」
焦る大叔父上。
「口惜しいが、しかたないか。ならばせめて宴には参加しろ」
またやるの?
「いえ、出ます。時間がないかもしれない」
「なんの時間だ?」
「ラグナがもう滅んでいるかも」
「うーむ……」
おじい様や叔父上や叔母上がやられるなんて想像できないけど、万が一もある。
「それでは、またお会いしましょう」
「本来であればわしもついてきたいのじゃが、オユキに怒られてしまう。道中は気を付けるのじゃぞ? それと、なにか必要ならば遠慮なく言うがよい」
「はい」
「シントよ、絶対に死んではならんぞ。そしてまたガラルへ来るのだ」
「そうですね。また来ます」
再び礼をして、踵を返した。
「待て」
「大叔父上?」
引き留められたので、振り向く。
「おまえのおかげで、戦に勝利するという経験ができてしまった。礼を言いたい」
「俺の力だけではありませんが、勝ててよかったですよ。まあ、大叔父上は奥さんには運動不足を怒られていましたけどね」
「ええい、細かいことはいいのだ。素直に礼を受け取っておけ。一言多いぞ」
「でも、先代や先々代と会えて嬉しそうでした」
「……父上には言いたいことが山ほどあるが……そうだな。そうかもしれん」
この人はガラル公国と、ガラルホルン本家を憎んでいた。武の国にあって、その頂点たる本家に生まれながら、武の【才能】を持たなかったからだ。
しかし、自ら軍を率いて大勝し、馬が合わなかった父親にも認められた。きっと、大叔父上にとっての復讐は終わったのだと思う。
「お二人とも、お元気で」
今度こそ、お別れだ。
気持ちを切り替えて、次なる目的地へと向かう――




