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角笛が鳴る 61 ガラル公国最終決戦・天下無双

 天から降りて来た天至イズラフェイルは静かなたたずまいで、こちらを見つめている。

 ヤツの肉体を覆うように小さな雷が跳ね、力がみなぎっているようにも思えた。


「シント、ともに戦う。先の雪辱を……!」


 隣に立ったウルスラが神剣インドラを構え、切っ先を向ける。

 しかしその手は震えており、いまだにぬぐえない恐怖があるようだ。


「こいつ……ただ者じゃないさ」

「……シント」


 ウチのメンバーたちも同様に武器を抜き放ち、腰を落とした。


「いや、いい。こいつは俺に用があるんだ」

「待ってよ。全員でやったほうがいいじゃん!」


 デューテもまた、まばたきすらせずに天至を見つめていた。額には汗が伝い、緊張しているのがわかる。


「だいじょうぶだ。みんなは大叔父上と主上の護衛に回ってくれ」

「でも……!」

「やらせてやれ、おまえたち」


 ガディスさんがみんなを止める。


「どのみち、おれたちでは足手まといにしかならない。シントの邪魔になる」

「ガディス、あんた」

「おれとて、シントを一人で行かせることなどしたくはない。だが……」


 彼から圧倒的な闘気が溢れ出す。それを感じても天至は微動だにしない。


「天至、場所を変えさせてもらうぞ」

「構わぬ」


 浮上し、ここを離れていく。


「大詰めも大詰めだ。みんな、ここは頼んだ」

「シントー、絶対に……」


 ラナは途中で言葉を止めた。


「ヤツを倒すだけの準備はしたさ。俺はもう、負けない」


 ディジアさんとイリアさんにまた会うまでは、絶対に死んだりするものか。

 イズラフェイルを追い、飛翔。

 ヤツは戦場から少し離れた、誰もいないところにいた。

 ここなら、みんながいる場所に影響はない。

 降りて、ヨルムリアを展開。いつでも始められる。


「最強のサルよ……貴様はペネキエルとサハリカルを葬った。その強さは驚嘆に値する」


 ずっと見ていたということか。助けに入ることもしないとは、仲間意識などないとみえる。


「驚くのは早いな。やつらはたいして強くなかった」

「ペネキエルは狩猟、サハリカルは遊戯。たしかに天下無双とは程遠い存在だろう。しかしそれでも、サルに負けるはずもない。貴様はそれを覆した。まさしく最強と言える」


 なにが言いたいんだ、こいつは。


「貴様を屠れば、この世界にはもはや私の相手となるものがいない」

「それはどうかな。饗団は負けるぞ」


 事実、ガラルでの戦いはすでに終わりかけている。


「それとも、おまえ一人で逆転できるとでも?」

「貴様が死んだあとならば、そうなる。私一人で全ては片がつく」


 否定できないのがムカつく。目の前にいる天至は神剣を持つ者ですら圧倒する存在なのだ。

 

「願わくば……私が最強たるを証明させてもらいたいところだ。それを貴様に期待する」

「期待だと? おかしなことを言いやがって」


 四つに分かたれたヨルムリアのうち、二つを合わせ、長剣サイズにする。

 それを握り、≪空断くうだん≫を発動。もう二つは宙に浮かせたままにした。


「ゆくぞ」


 急激に魔力が高まり、バリ、と音だけがする。

 次いで来る両手への衝撃。


「受けるか。いいぞ、サル」


 ヤツの剣を受け止められはしたが、スピードがおかしなことになっている。

 まばたきするほどの、一秒にも満たない時間で打ち込んできた。

 空の刃でなんとか守ったけど、次も防げるかは自信がないな。


「≪穿間せんかん≫」

「ほう」


 イズラフェイルは真後ろから迫るヨルムリアを見ずに払った。頭の後ろに目でもついているかのような動き。


「『迅雷じんらい』」


 雷をともなった斬撃。それも受け取める。


「≪衝破ショウハ≫!」


 ヨルムリアからの魔法。超至近距離での衝撃波は回避不可能。わずかにヤツが下がったところへ、二つの【人造神格】が襲う。


 防御不能の≪穿間せんかん≫は、ヤツの翼の一部を削いだ。

 しかしすぐに修復。ダメージはなさそう。


「この程度ではないだろう。『迅雷じんらい』」

「ちいっ!」


 俺のほうが下がらされてしまった。


「剣の専門家には思えぬ。このままでは……死ぬぞ」

「俺は魔法士だから、そりゃ剣は使えないさ」

「そうか。だが手を緩めるつもりはない。対抗できないなら、終わりだ」


 再び剣の応酬が始まる。応酬っていうか、防戦一方。

 天至イズラフェイルはまず、速すぎる。それと誰に習ったのかは知らないが、剣術を使っているのだ。

 この激烈な剣撃。いままでたくさんの剣士を相手にしたけど、凄まじいものだと思う。

 加えて、遅れてやってくる雷。剣と同時ではないのが逆に厄介な攻撃だ。おかげで自由に動けない。


「最強のサルよ、どうした。ほんとうに死ぬぞ」


 横薙ぎの一閃に合わせ、後ろに跳ぶ。≪飛衝マジックフライ≫を用い、大きく距離を離した。同時にヨルムリアを俺たちの間に割り込ませ、防御に回す。


「≪魔弾球マダンキュウ≫!」


 ようやくできた隙をついて、魔力球を生み出す。


「ほう?」


 止まるイズラフェイルめがけて、全魔力球から≪魔弾マダン≫を発動。

 ヤツは牽制など気にすることなく、向かってくる。


「このようなもので止められると思うな」


 俺自身はヨルムリアを振るい、≪空断くうだん≫と≪界斬かいざん≫で対抗。魔力球とヨルムリアによる弾幕は激しさを増し、ヤツの行動を遅らせた。


「むう!」


 だが、天至の気合が稲妻を呼び、俺の攻撃のほとんどはかき消される。


「無駄だ」


 雷をともなう斬撃が、魔力球を()()()()()

 なるほど。高い耐性を盾に、何者にも追いつけないスピードと、異様な攻撃力の剣。天下無双、と口にするのもうなずける。


「こけおどしはやめるのだな」

「ああ、わかったよ」


 ヨルムリアを手放し、≪真魔弾シンマダン≫を撃つ。

 ヤツは一瞬で強力さを悟ったのか、即座に避けた。

 ≪真魔弾シンマダン≫が頬をかすり、光る粒子がこぼれ出る。


「これがペネキエルとサハリカルを撃ち滅ぼした技か」


 ヤツは頬を触り、指をこする。


「当たるわけにはいかなそうだ」


 刹那の間を置いた後、イズラフェイルは動き出した。

 その軌道はまるで稲妻。きらめきが弾け、目がおかしくなる。

 とてつもない斬撃を、ヨルムリアで防御。

 ヤツは止まることなく、幾度も攻撃をしかけてきた。


「とったぞ」


 右方からの斬。


「≪絶対時間遅延中ちょっとまってよ≫」


 それは読んでいた。【神格】神機クロノスに力を借り、時間を遅らせる。

 剣と雷をかいくぐり、さらに下がる。

 かわすのが精いっぱいで、反撃をする暇はなかった。


「……なんだ、いまの動きは」


 教えるわけがない。


「そもそも、なぜ私の攻撃が防御できる。貴様の速さは数段下だ」


 そのカラクリも教えない。


「……違うな。貴様は見てから避けているのではない。なにか、違うものを感知しているようだ」


 さすがにバレたか。

 こいつは恐ろしく強いのだが、純粋なのだ。

 強大すぎるがゆえに、気配や流れを隠さない。俺が見ているのは、魔力。いや、神力だったっけ。


「最強のサルと認めたのは、やはり間違いではなかった。しかし種が割れれば、問題はない」


 またしてもありえないスピードで迫ってくる。

 さきほどよりも速く、強い。全力を出してきたみたいだ。

 ここからは時間との勝負だ。

 ()()()()()()()()、ヤツの剣がこちらへ届くのが先か。


 持てる魔法を惜しむことなく使い、まとわりつかせないようにする。

 炎をばらまき、衝撃波を放ち、ヨルムリアで守る。

 土で足を止め、≪螺旋魔弾ラセンマダン≫で狙撃。

 

「≪烈風之禍ウインドルネード≫!」


 両手を合わせ、唱える。

 暴風が生み出され、竜巻と化した。そこへさらに――


「≪渦波之災タイダルウェイブ≫!」


 大量の水がもたらす渦を追加。

 風と水がミックスされた巨大な魔法に天至は呑み込まれる。

 これで倒せるとは思えない。

 だから、出てきた時を狙う。


「グウウウウウウ!!」


 バカでかい雷の球をまとい、イズラフェイルが水竜巻を吹き飛ばす。

 風と水で雷に対抗するつもりだったが、破られてしまった。

 

「≪螺旋真魔弾ラセンシンマダン≫!!」


 狙いすました一撃。

 ヤツはそれを剣で防ぐ。

 反魔法を含む最大威力の魔法は、ヤツの美しい剣をぶち折った。

 だが、それだけだ。


「すさまじきものよ」


 静かに降り立ち、折れた剣を捨てる。


「ここまで食らうとは、思ってもみないことだ。誇っていいぞ、最強のサル」


 褒められたところで、なんの感慨もわいてこない。


「だが……『界滅巌雷霆かいめつがんらいてい』」


 どこからともなく、雷でできた物体がヤツの手に収まる。

 馬鹿みたいな武器だ。あれは都市丸ごと破壊できそうな力を秘めているのだと、見ただけで理解させられた。


「貴様は手を出し尽くした。しかし私には切り札がある。最強のサルに敬意を表し、最大の攻撃で消し去ってやろう」


 ついに切り札を出したか。


「……なぜ、笑う」


 笑ってなど、いない。


「確実な死を前にして、諦めたのか?」


 さあ、どうだろうな。

 とにかくも準備は終わった。

 これで、終わりにしよう。


「≪魔弾槍柱マダンソウチュウ≫」


 今日のために練り上げた魔法を、いまこそ使う時だ――

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