角笛が鳴る 60 ガラル公国最終決戦・奇妙な戦い
天至サハリカルを仕留め、再度上空へ。
状況を確認するに、饗団軍は追い詰められているように見える。
決定的なところで崩れていないのは、敵の一部が異様な奮戦をしているからだ。
巨漢の老将軍が先頭に立ち、大きな矛を振るう。
あれは正面から相手にしないほうがいいだろう。無駄に犠牲が増えそうだ。
機械兵の数はざっと見てニ十体以上はいそうだが、残骸の数はその倍以上ある。苦戦している様子もない。ならば問題は、あそこだ。
派手にぶち上がる爆炎が、位置を教えてくれる。
ヴィクトリアが放ったものだろう。
すぐに向かう。
「みんな!」
饗団最上級戦士『一桁』のファンタステックフォオと相対しているアイシア、ウルスラ、ヴィクトリアはなんとか無事。でもけっこうボロボロだ。
ガディスさんは顧問官と激闘を繰り広げている。あっちはだいじょうぶ。ガディスさんが負けるはずもない。
「シント~!」
「そっちは終わったのか」
「ああ、こっちはどう?」
上半身が人間で下半身が蛇という人外の化け物から目を離さずに聞く。
「あの化け物……傷を負わせても脱皮をしてキリがない!」
「もう十回くらいやっつけたんだぞ」
なんて回復力だ。
「毒で多くの兵が倒れてしまった。食らうなよ、シント」
「『一桁』ってのはどいつもこいつも、能力がめんどうすぎるんだよな」
むしろ、天至のほうがやりやすいまである。
しかしそうも言ってられない。こいつを倒さなくては、戦は終わらないのだ。
俺とヴィクトリアが魔法で援護し、アイシアとウルスラに攻めてもらうのがいいか?
それとも、俺が前衛になって攻撃を?
「シント」
毒がある以上、うかつには近づけない。どうすれば――
「シント、あれ」
「ん?」
ヴィクトリアが指をさす先は、天。
そこには、雷の塊が浮かんでいた。
なんてことだ。また出て来たのか。
「なんでこのタイミングなんだ!」
思わず叫ぶ。
だが、混乱しているのは俺たちだけじゃない。
ファンタステックフォオもまた神雷ソーを指さし、意味のわからない言葉でわめき散らしている。
いったいどんな関係なのか気になるが、これは好機だ。
≪真魔弾≫を放ち、怪物に風穴を空ける。ヤツは不意打ちに怒り、やたらめったら紫色の液体を全身から噴射した。
「なん……鼻がおかしくなりそうだ!」
「臭くて近づけないんだぞ!」
腕で鼻を覆う。この刺激臭の中でなど、戦えない。
「ウルスラ、神剣インドラで攻撃を。アイシアは毒をなんとかできない?」
「やってるけど~ 全部は洗えない~」
「攻撃してもいいが、結局また脱皮されてしまうだけだ」
ならば、毒ごと焼き尽くすしかない。
魔法の準備に入ろう、と思ったその時だ。
神雷ソーが俺に近づき、雷を放った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお! なんで俺なんだああああああ!」
「うそ~」
「どうなってる」
「シントが死ぬんだぞ!」
全身がびりびりして、やばい。
雷がふいに止んだかと思うと、今度はファンタステックフォオに向かって稲妻を浴びせる。
無差別かよ。マジでどうなっているんだ。
わけがわからないでいると、神雷ソーは上空で8の字を描くように飛び始めた。まるで挑発。なにがしたいのか、理解に苦しむ。
「みと! かなゆらえ!」
ファンタステックフォオが伸びあがり、神雷ソーに手を伸ばす。
いけない。渡すわけには――
「だこ! ギク!」
「おまえがどけ!」
大ジャンプして、俺も手を伸ばす。しかしヤツのほうがでかくて長い。
「いい?」
ファンタステックフォオの動きが止まった。
下を見ると、ヴィクトリアがヤツの野太い下半身にしがみつき、押さえている。
「ひにす! かめせも!」
「なに言ってるか……わからないんだぞーーーーーーーーーーー!」
あれは竜の力か。
彼女の体が薄い魔力の鎧に包まれている。
「すの!!」
毒が噴射されてしまう。だが、竜魔法のよる鎧にはまったく通じていない。
いまがチャンスだ。神雷ソーを追いかける!
「待ってくれ! 君が必要なんだ!」
≪飛衝≫で足裏から一瞬のブースト。
逃げる神雷ソーをこの手で掴み取る。
稲妻がほとばしり、空に弾けた。
またもや全身が痺れる。
魔法がうまく使えず、地に向かって落ちてしまった。
「ぐあ!?」
「がぐ!?」
頭から落ちた先は、ファンタステックフォオの頭頂部だった。
そのおかげで助かったが、頭が痛い。
なんとか着地して、息を整えた。
「シント、さっきからなにをしている」
「真面目に戦って~」
俺のせいじゃない。【神格】神雷ソーのせいだ。
奇妙な感じになっているのは認める。だけど、ようやく神雷ソーを捕まえることができた。
小さい珠と化した【神格】をカバンにしまう。これでいい。
あとはもうやるだけ。ファンタステックフォオを倒す。
「ヴィクトリア、合わせろ!」
「≪ファイアギガシューーーート≫!!」
「≪天上之雷≫!」
「我らも! ≪剣雷≫!」
「≪流々水≫よ~!」
炎、雷、水がファンタステックフォオを襲う。
ヤツは苦しみ、もがき、倒れた。
なんとかなったようだ。
「シント、なんか変なんだぞ」
「うっ、こいつ」
呆気ないと思ったら、これだ。
よく見ると、倒れているのは白くてぶよぶよしたガワだけ。これは脱皮したあとの残骸だった。
「また皮だけ……なんて野郎だ」
「逃げたのか。恐ろしい手合いだった……」
「う~ 疲れた~」
アイシアとウルスラは背中を合わせて、その場に座ってしまう。
「シント、終わったのか?」
「ガディスさん」
彼はなにごともなかったかのように、こっちへ来た。
ぴくりとも動かない顧問官を引きずり、そして投げる。
どうやら、圧勝だったようだ。
「いちおう聞いておきますが、怪我はありませんか?」
「ない。だが、まずまず手強かった」
ずたぼろの顧問官――名前は忘れた――は完全に意識を失い、邪剣も持っていない。
「あの剣は折っておいた。心配するな」
さすがすぎる。
「あらかた片付いたようだが、カサンドラたちのほうはどうなった?」
「ここへ来る前に少し見ましたが、なんとかやっているようです」
「念のため、加勢に行ったほうがいいだろう」
「ええ。みんな、行くよ」
「機械兵、ぶっ壊すんだぞ!」
「もう行くのか……しかたない」
「まだあるの~」
文句はあとだ。
戦いがまだ続く場所は遠くない。すぐに行ける。
到着した戦場では、間違いなくこちらが押していた。
戦局が動き始めてからわずか数時間。大勢は決しようとしている。
俺たちはウチのメンバーたちが戦う箇所へ急行し、戦列に加わった。
残る機械兵は十体を切っている。
そこへ攻撃力の高いアイシア、ウルスラ、ヴィクトリア、されにガディスさんが加わって、一気に加速した。
仕事は大詰め。
最後の一体を≪真魔弾≫で貫き、終了。
ここの戦場は、勝利の一歩手前と言っていい。
「みんな、無事?」
「……問題ない」
「シントのほうは?」
「こっちもだいたいは終わったよ」
メンバー全員がほっと一息つく。
天至サハリカルは消滅し、機械兵数十体も沈黙。『一桁』は逃亡し、顧問官は倒れた。饗団軍もまた追い詰められている。
そろそろ最後の戦いになるはずだ。
さて、いつ来るか。
「シントさん、どうしたのですか?」
アミールが聞いてくる。
思えば、彼はまだ十五歳なのにずっと戦い続けているのだ。俺が同じ歳のころといえば、ラグナを追い出される前後だった。あの時の俺が、アミールのように戦えるとは思えない。
「シントさん?」
「ああ、ごめん。実はまだ残っているんだ」
「それって」
天至イズラフェイルがまだ姿を現していない。
天下無双を求める妙なヤツは、いまどこにいるというのか。
「なにが起こるかわからない。警戒は切らさないように」
「わかってるさ」
「戦はまだ終わってないじゃん」
「……心配ない」
隊長を務める三人に油断はなかった。
「シントー!」
「デューテ」
「いーっぱい壊したよ!」
デューテが来て、神剣シャルウルをぶんぶん振り回す。
まだまだ元気いっぱいだな。
この前は殺されかけた敵だ。借りを返せた、といったところか。
「聞くまでもないけど、平気?」
「らっくしょー」
ほんとうに聞くまでもなかった。
戦いはまだ続いているものの、俺たちの仕事がだいたい終わったことで、和んだ空気が訪れる。
しかしそれは幻想にすぎない。
とつぜん起こる大きな雷鳴。爆発的に広がり、天を裂くかのよう。
ここで来るか。ずいぶんと待たせるものだ。
「な、なにいまの!」
「ハイマス! まさか!」
「終わったと思ったのに~」
雨雲もないのに、稲妻が閃き続ける。
「……なにかいる」
「え? アリステラ、どこ見てるのー?」
みんな上を見た。
青い空のはるか彼方に、黒い点がぽつりとあるのがわかる。
ソレは少しずつ高度を下げ、こちらに向かって来ているのだった。
「みんな、下がれ」
やがて、そいつは俺の前に降り立った。
真っ白な外套に身を包み、光り輝く翼を持ち、美しい剣を持つ。
天至イズラフェイルだ。
「ずいぶんと待たせるじゃないか」
「最強のサルよ、いまこそ剣を交える時」
ひしひしと感じるこの力。これまでに戦った天至とは格が違うと直感する。
「ああ、やろう」
答えると、その天至は不敵に笑ったような気がした――




