角笛が鳴る 59 ガラル公国最終決戦・天至サハリカル
「急ぎ大公さまのもとへ! お孫様の足手まといにはなるなよ!」
「離れろ! 巻き添えを食うぞ!」
騎士や兵士たちが慌ただしく動く。
あっという間に空けられた場所で、俺は天至と向かい合った。
「ど~れ、まずは……ホオ!」
余裕の態度を崩さない天至が動き出す。
とてつもない踏み込みで地面がえぐれ、爆速で殴りかかってきた。
こちらは≪魔衝拳≫を発動し、対応。
「ぐう!」
ガードした腕に伝わるありえない衝撃。頭の芯まで痺れるようだ。
完全にガードしきったにも関わらず、数メートル下がらされる。
見れば、ヤツの拳には土のようなモノがまとわりついてた。
この前逃げた時には風を使っていたはずだが、いまは土か。
二属性を操ると仮定し、想定する戦闘力を修正。
「この程度ではありませんよ! ホオッ!!」
速い。そして強く、重い。
「『土岩』!」
さらに拳がでかくなる。上体を反らし、顔面へのパンチを避けた。
そして今度はボディブロー。腹を引っ込めて、やり過ごす。
「ホホォ! 器用なものです! だが!」
風が巻き起こり、体が浮いたような感覚。身動きの取れない俺に対し、鉄の翼が土をまといサイズをアップする。
翼と拳による多重攻撃か。上等だ。
拳を構えたまま体を揺らし、回避。頬を、肩をかすり、鋭い痛みを感じる。
こちらもわずかな隙を突き、ジャブ二発からの右ストレート。当たったがダメージはさはどない。しかし天至は少し驚いているようだった。
「ホオ! ホオ! ホオオ!」
ヤツもお返ししてくる。
互角に見えるけど、だいぶ分が悪い。こっちは喰らえばやられる。あちらは当たっても大したダメージがないのだ。
「どうしました? この程度で終了~ ですか?」
「いいや、ここからだ」
その場で小さく跳び、リズムを整える。
まさか今日ここで習ったことをやるとは思いもしない。
≪魔衝拳≫を強化。反魔法を含む、新たな魔法だ。
右腕一本の魔力を高め、左手で別のものを用意する。
「ホホォ……雰囲気が変わりましたか。ですが、そんなちゃちなこけおどしなど通じませんヨォ!」
至近距離での攻防が再び始まる。
激しさを増すラッシュではあるが――
「フゴッ!?」
あごを打たれ、天至は下がった。
「な、なんだ……ホホォ!」
理解しないまま、突っ込んでくる。
それをジャブで牽制。そしてさらに踏み込み、左の拳で目を狙う。
首をひねり、回避する天至だったが。
「ブフォ!!」
右フックが刺さり、鉄仮面にひびが入った。
よろけるヤツに対し、アッパーカット。
天至は宙に浮き、そこを≪真衝破≫で吹き飛ばす。
地面を転がるのは一瞬だ。倒すには至らない。
「おかしい……」
「おかしいって?」
「私は確実に避けたはずです! なぜ!」
俺は拳闘士じゃない。魔法士だ。パンチの打ち合いだけど魔法は使わせてもらう。
ヤツが見切ったと思った俺の拳はフェイント。しかもただのフェイントではない。
ガディスさんから指摘され、そこから試行錯誤を繰り返した。ダグマさんやジョルジオにも手伝ってもらい、『実直の拳』と評されたものに、魔法を用いてのフェイントを加えたのだ。
俺には魔力による気配を作り出す≪魔分身≫という魔法がある。
これは気配を誤認させるだけの威力を持たない魔法だ。しかし使い方をよく考えれば、いまみたいなことができる。
ヤツは俺の拳の気配を、本物の攻撃と錯覚し、ありもしないものを回避した。それがカラクリだ。
「第三ラウンドだ。来いよ」
指をくいくいさせて挑発。天至は翼をはためかせ、がくがくと震えはじめる。
「この虫けらめがーーーーーーーー! 絶対に許さんぞーーーーーーー!」
今度は虫けらか。サルじゃなくなったけど、もっとひどい。
「『旋塵』! 『土乱杭』!」
吹きすさぶ風と、浮かぶ土の杭たち。
「舞いなさい! 『岩錬土導球』!!」
さらには黒光りする球が召喚される。本気を出したようだな。
人の頭ほどはある球は、ヤツの周囲を回り、凄まじい力を放つ。
「こうなれば……楽しむのは終わりです! 押し潰して差し上げましょう!」
ゆっくりと空へ浮上する天至。
俺もまた飛翔し、目線を合わせる。
「殴り合いはもう終わりなのか?」
「あれは余興! ここからは一方的な殺戮!」
「おまえらはみんな同じで、愚かだ。初めから全力でやればいいものを」
「なに?」
ヤツは、おまえら、の部分に反応する。
「ゾフィゼル、アバディオク、ペネキエル……俺たちをサルと侮り、出し惜しみをして、死んだ」
「ばぁかな……くだらないことを」
「じゃあペネキエルはどこにいるんだ? 呼べよ」
「ペネキエルは狩りに行っているはず! 貴様らサルを狩るのが彼の趣味ですからねえ!」
そういえば俺を獲物だと言っていたな。この口ぶりだと、狩りとやらをずっとやってきたわけか。
握る拳に力が入る。こいつらは、どうしたって生かしておけない。
「だとしてもヤツは三流の狩人だ。俺に狩られたのだからな」
「どこまでも減らず口を……! 思い知らせてやりましょう!」
空中戦が始まる。
サハリカルが生み出す風は鋭さを帯び、こちらの飛翔を邪魔してきた。加えて、際限なく飛んでくる土の杭。先の尖ったおぞましい土の魔法だが、だからどうした。
「ヨルムリア!」
意志に反応して素早く展開される【人造神格】が輝きを放った。
それぞれが≪空断≫≪界斬≫≪穿間≫を発動し、対抗する。
「≪次元歪曲≫」
歪んだ空間が、ヤツの放つ全てを逸らしていく。
落ち着いて呼吸を整える。狙いを定め、待つ。
「『岩錬土導球』よ! おも――」
「≪真魔弾≫――」
突き抜ける一撃は、岩錬土導球と呼ばれた武器のど真ん中に穴を空けた。
「……は?」
黒光りする球に亀裂が入り、広がっていく。
サハリカルはそれをただ見ているしかない。
砕け散る岩錬土導球。切り札は潰えた。
「おまえを撃つこともできた」
「なんの……冗談ですか、これは」
「冗談に見えるか?」
天至はわなわなと震える。
「貴様は、サルです。下等生物です! なぜ! どうして!」
「おまえたちは経験が浅いんだよ」
「あ、浅い……」
地上戦を続けられたほうが、俺は嫌だった。まとわりつかれると、やれることがぐっと少なくなる。
ペネキエルもそうだったが、素人が魔法士に魔法戦を挑むなど愚の骨頂。
「……ホホォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
奇声を発し、背を向けてどこかに飛んでいく。
逃がすものか。
全速力での飛翔。音を置き去りにし、一気に追いつく。
鉄の翼を掴み、折る。
「貴様ーーーーーーーーーーー! やめなさい!」
「おまえが死んだら、やめてやろう」
思い切り握ったら、手から血が出た。
でも関係ない。両手から≪真衝破≫を放ち、強引に引きちぎる。
「ホオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
落ちる。
翼を失った天至は飛翔能力がなくなったのか、急降下した。
もちろん、俺もいっしょだ。サハリカルの上に乗ったまま、体重をかける。
背丈の低い草ばかりの野原に衝突。地面はえぐれ、盛大に土煙を巻き起こす。
サハリカルはまだ死んでいなかった。翼を失ってもなお、這いずって逃げようとしていた。
「くおお……私は、神の分身……下等なサルなどにぃ!」
まだ言うのか。
「おまえたちの負けだ。結局、サルと侮って死ぬ。俺の言ったとおりだろ?」
「だ、黙りなさい! 死ねえ!」
振り向き、両手を広げて襲ってくる。
だが、これで仕舞だ。
「≪真魔裂弾≫」
こっちはすでに構えている。苦し紛れの攻撃など通用すると思うなよ。
「カハッ!?」
≪真魔裂弾≫は内部から致命的な破壊をもたらす。
魔力でできた肉体をずたずたにし、死ぬ直前まで苦痛を与えるのだ。
魔力弾はヤツのみぞおち辺りに穴を空け、吸い込まれた。
天至に体にひび割れができ、そこから少しずつ広がっていく。
「どう……なっているのです……なぜ……」
「少しは自分で考えたらどうだ? 外導神の分身なんだろ?」
「ま、まさか……女神どもの……ホ、ホ、ホホォ!?」
内側から爆散する天至。
絶望に彩られた最後だったと思う。
四体目も撃破。ガラルに残る最後の一体もさっさと出てくればいいのだが。




