角笛が鳴る 51 ダルメシアン攻防戦・天至ペネキエル
空から戦場を見る。
ダルメシアン市からわずかに離れた草原では激しい戦闘が行われていた。
ざっと見て兵の数には差があるはずだが、エーギル軍は明らかに押されている。
最前線にはティール侯爵家の旗。
本陣にはヘイムダル侯爵家の旗。
侯爵たちは役割を分け、交代と前進を織り交ぜて、見事に連携していた。
対するエーギル軍は、その攻勢に苦戦し、軍全体の動きがもたついているようにも思える。
ただ、一部の隊は善戦しているか。あそこにいるのはおそらくダヴィド・エーギルか、ギヨーム・エーギルのどちらかだろう。
「ん、やはりいるか」
エーギル陣営の最後方に並ぶ人ならざる兵。
いないわけがない。あの機械兵たちをどこかのタイミングで投入する気だ。
俺と王子は後方に待機しているウチのメンバーたちのもとへ降りた。
「シント!」
「……と王子様だっけ?」
王子は俺の背に隠れた。
「戻ったよ。ホーライ軍は港に無事たどり着いた。あとはここだけだ」
「じゃあもう」
「かなり有利にはなったけど、かなりの数の機械兵がまだ控えてる」
全員の顔つきが変わる。出番が近いと感じとったのだと思う。
「俺は少し考えがあって、上空で待機するよ。機械兵が出てきたら光の魔法で合図する」
「ああ、わかったさ」
「……問題ない。やる」
「アルクルス君を置いていくから、アリステラ、面倒を見てやって」
「わかった。こき使う」
「ちょおっ!」
後ろでぎゃーぎゃー言ってるが、いまは無視。
その場を離れ、戦いの場を全て見える高さまで上昇する。
俺はここでじっと時を待つ。
真下に広がる戦場は、少しずつ変化し、まるで巨大な一つの生き物のようだ。
「さあ来い……俺はここにいるぞ」
来なければ、このままガラルとホーライの連合軍が勝つ。それをみすみす許すような真似はできないはず。
やがて、エーギル軍は前線が崩壊した。ティール侯爵率いる中核の軍が凄まじい勢いで中央を突破。
さらには遅れてやってきたギュスターさんの部隊千騎が横から突撃を開始したのだ。
「そろそろだな」
エーギル軍が奇妙な動きを見せる。左右に分かれ、真ん中を開けた。
最後方に控える機械兵が動き出し、進軍を始める。
用意していた≪光輝弾≫を発動。ウチのメンバーたちに合図をした。
機械兵の数はおおよそ二十体ってところか。
普通に考えたら絶望的な戦力だろうけど。
「ふっ」
問題などない。俺たちはこの時のために準備をしてきた。
「シント! 来たんだぞ!」
ヴィクトリアがやってくる。彼女には俺が≪光輝弾≫を使ったら来るように言っておいた。
「ヴィクトリア、君は機械兵を一体ずつ、端から相手をするんだ。みんなを助けてやってくれ」
「わかったんだぞ!」
力をみなぎらせるヴィクトリアは、一気呵成に戦場へ突っ込んで行く。
気合は十分だろう。いまの彼女の戦闘能力を思えば、心配はない。
ウチのメンバーたちが最前線へ向かっているのが見える。
すぐにでも戦いになるだろう。
あとは――
「……!!」
おぞましく巨大な気配。あまりにも禍々しい、破壊的な力が急速にこちらへやって来るのを感じた。
襲いくるソレをぎりぎりまで引きつけ、急上昇。
足の下を燃える『なにか』が通りすぎていく。
「サルゥゥゥゥゥゥ! 狩りに来たぜ!」
燃える翼をはためかせ、鉄仮面によって覆われた顔で、俺を見ている。
天至がようやく出て来た。
「待っていたよ」
「はーはっはっは! そんなに狩られたかったか! クソサル!」
馬鹿なことを言う。
こいつはたしか『ペネキエル』とかいう名前だったはずだ。
いいさ、こっちも言いたいことがある。
「狩られるのはどっちかな」
「はあ?」
「ゼフィゾル、アバディオク」
「……おい、貴様、なぜその名を知ってる」
「殺した。俺が」
天至は鼻で笑う。
「そんなわけがあるか。サルごときに――」
「みじめな最後だったよ。おまえたちのようなクズにふさわしい、な」
言葉をさえぎり、今度はこちらが笑ってやった。
「貴様……カスが吠えやがって!」
空気が震える。ヤツの怒りが力と変わり、振動となって伝わってくる。
凄まじい力だ。地上で戦う人々も天至の存在を認識せざるを得ないだろう。
魔法を使ってもいないのに、ヤツの周囲が燃え上がるような錯覚。
人知を超えたパワーであることは疑いない。
「貴様の首は我のトロフィーにしてやるぜ! 『焔』!」
掲げられた手から放たれる強烈な炎の塊。その数は千を超える。
しかしたいしたスピードじゃない。飛翔を駆使し、全てを避けた。
「せいぜい足掻け! 獲物がーーーーーーーーーーー!」
「追尾か!」
炎の塊が俺を追ってくる。
上等だ。全部かわしてやるよ。
炎の数が多すぎて、空が朱に染まった。
しつこく追いすがってくる炎塊を全部回避。
しかし、天至ペネキエルはまたしても鼻で笑う。
「その程度で調子に乗るんじゃねえ! 『焔杭』!」
今度は炎の杭。
両腕を音楽隊の指揮者みたいに振るい、炎の杭を操る。
当たれば致命傷は必至。でも遅い。喰らったりはしない。
「串刺しだーーーーーーーー! サルーーーーーーーーーー!」
面白いことを言う。串刺しにして俺を食おうとでも?
さて、このまま攻撃され続けるのは面白くない。そろそろ反撃といきたいところだ。
連打される炎は終わりが見えないし、調子に乗られまくるのもムカつくだけだ。
「かわすだけか? ええ? 口だけのクソサルがーーーーーーーーー!」
そう言われるとさすがに心がざらつく。
もう回避はやめだ。方向を変え、真上に移動。限界まで速度を上げて、雲をすら突き抜ける。
天至の魔法はもうついてこない。消えてしまったようだ。
「なんて景色……」
夜空なんだけど、明るい。ひどく奇妙な光景だ。星がよく見えて、胸がすっとしてくる。
ずっと下に大陸があって、世界は実のところ、そこまで大きくはないのだと思ってしまった。
俺を追ってくると考えたが、天至の姿はない。
降りるのを待って狙いを定めているのか、それともでかい一撃を放とうとしているのか。
どっちだろうと関係ない。いまから叩き落としてやる。
「さあ、反撃だ」
力を抜き、落ちる。冷たい風が頬に当たった。
そこから魔力を高め、≪漆黒ノ翼≫全開。
直下にいるだろう天至めがけて、音の速さすら超える。
「――っ!?」
ヤツが見上げた瞬間には激突。とんでもない衝撃が全身にのしかかる。
超高高度からの体当たり。いま俺の体重は数百倍、いや数千倍にもなって、ヤツにぶつかったのだ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
天至といえど、見切れる速さではないだろう。
一秒にも満たない時間で地面に到達し、大爆発を引き起こした。
悲鳴や驚愕の声が聞こえてくる。エーギル軍がいるところに突っ込んだから、ぶっ飛んだ敵兵も多いみたいだ。
「き……貴様ァァァァァァァ!」
「ああ、まだ生きてたか」
「黙れ! 下等生物!」
ヤツは俺の襟首を掴んで立ち上がり、強引に投げようとする。
「甘い!」
右腕を使い、天至の肘を下方に押し込める。そして左手から超至近距離で魔法を発動。
「≪真衝破≫」
「ぐがっ!?」
反魔法を帯びる衝撃波。≪真魔弾≫に比べ威力ははるかに劣るものの、命中率はそうとうに高い。
なともにくらったペネキエルは鉄仮面にひびが入り、苦痛にあえぎながら下がる。
「なぜだ……なぜサルごときの魔法が我をっ!」
うるさい口だ。黙って戦えないのか。
「おまえはこれから、サルと呼ぶ存在の魔法で死ぬんだ」
「黙れっ! 殺されるのは……貴様だ!」
「だったら喋ってないでさっさと来いよ。俺を狩るんだろう? さっきまでの威勢はどこにいったんだ?」
ペネキエルは悶え始めた。ヤツの翼が大きく燃え上がり、激しい怒りを表している。
「う……オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ヤツは空に向かって咆哮。力が解き放たれ、土煙が一瞬にして吹き飛ばされる。
そんな無意味な威嚇に付き合うつもりはない。すぐさま≪魔弾球≫とヨルムリアを展開。
「じっくり狩ろうと思ったが……クソサル、貴様はもう消し炭だ!」
ペネキエルの周囲に炎球が生じる。そして――
「『炎骸狂槍』! 来い!」
この世全ての炎を凝縮したかのような力を持つ炎槍が召喚される。
場の気温が急激に上がり、息をするのもつらくなってきた。
なるほど、切り札を出してきたようだ。
決着の時は近い――




