角笛が鳴る 50 ダルメシアン攻防戦・大公の息子と女王の息子
ついにダルメシアン港が見えてきた。
時刻は朝。太陽の光と荒々しい風が船上の俺たちを歓迎している。
昨夜からここまでにエーギル家の哨戒船を三隻破壊。乗員は全て捕虜にしてある。
問題はここからだ。そろそろ向こうからも、こちらの艦隊が見えるだろう。
「軍旗を上げい!」
主上の声が高らかに響くと、ホーライ家の旗が掲げられる。それに習い、続々と他の船も旗を上げた。
艦隊は速度を上げ、埠頭にどんどん近づく。
聞こえてくるのは、太鼓の音や、人の怒鳴り声だ。
ガラル軍もすでにダルメシアン市に対し、攻撃を開始している。
この時点で、陸と海からなる挟撃は成功した。
しかし――
「シント、なにかやばい」
隣の王子が言う。
俺もまた前方から急激な魔力の高まりを感じた。
「主上! 伏せて!」
「なに?」
閃光が走り、爆風が生まれる。
港から莫大な光量と魔力をともなった魔法らしきものが発動され、一気に突き抜けていった。
「なにが起こったのじゃ!」
熱気が立ち込める。船上は騒然となった。
俺たちが乗る旗艦の脇を進んでいた船が数隻、焼き払われてしまったのだ。
「いまのは……魔法……なのか」
「どうなっている……」
「このまま固まっていては!」
兵士たちが慌てだした。これはまずい。
「ええい! 艦列を乱すでないぞ! 速度を上げ、殴り込みじゃあ!」
主上は激高し、軍配を掲げた。この声で兵士たちはなんとか我に返り、持ち場に着く。
「アルクルス君、なにか見えた?」
「魔法だとしたら、個人のものじゃないと思う。あの規模の威力を出すには……最低でも十人は必要だよ」
「撃つまでの時間も速すぎる。なにかタネがあるな」
対策は用意していたか。舐めてかかったつもりはないが、エーギル家はやはり強敵だ。
「主上、俺たちは先に港へ」
「なんじゃと!?」
「ええ、さっきの光の正体を確かめてきます。アルクルス君、行くよ」
「はあ!?」
「飛翔できるのは俺たちだけだ。ほら、早く」
「も~」
渋る王子を無理やり連れて行く。
二人で飛翔の魔法を使い、浮上。
「なっ……空を飛んでる!?」
「し、信じられん! あれがキヨミズの戦いを制したアーナズ様……」
「もう一人の若武者もすごいぞ! あれは誰だ!」
みんなして空を見上げている。
「シントよ……おまえはなんたる魔法を」
「旗艦は少し下がったほうがいいでしょう。気をつけて!」
速度をどこまでも上げ、埠頭へとたどり着く。
下にあるモノを見て、ぞっとした。
いつか見た『爆砲』に似たモノがある。
「シント、なにあれ」
「大砲……なんだろうけど」
土台となっているのは、機械兵の体だった。実に四体もの機械兵が真っ黒で巨大な鉄筒を支える形で、膝をついている。
各所につながった管からはかなりの魔力を感じた。おそらく、機械兵を動力源とした魔法による兵器と推測できた。
「うわーーーーーーーーー! 矢! 矢がいっぱい!」
おっと、じっくり眺めている暇はないようだ。
俺たちに気づいたエーギル家の兵が、矢を一斉に放ってくる。
即座にシールドを張り、王子ごと自分の身を守った。
「アルクルス君、あの兵器を破壊するんだ。守りは俺がやろう」
「ここまできたらしょうがないかあ……≪ファイアウィンクラッシュ≫!」
炎と風が合体して球となり、撃ちだされる。
空からもたされる圧倒的な破壊の力に、エーギル兵たちは吹き飛んだ。
しかし、肝心の大砲は壊せていない。たいした強度だと思う。
「降りよう。直接ぶっ壊す」
「マジ!?」
マジもマジだ。あんなものを何発も撃たれたんじゃ、たまったものじゃない。
急ぎ埠頭に降りて、機械兵大砲を爆破。修復されるのも嫌だから、粉々にしておく。
「シント……」
「ん?」
「シント! 囲まれたけどぉ!」
気がついた時には、俺たちをエーギル兵が取り囲んでいた。
「ひぃ! 後ろからも!」
自然、俺と王子の背が合わさる。
三百六十度を包囲されてしまったようだ。
「おい……若造ども、やってくれたなあ」
大柄な戦士がずいっと前に出てくる。肩にかつぐ大剣が凶悪な雰囲気をかもし出していた。
「ありゃあホーライの船か。だが……まずはてめえらをぶっ殺してホーライ人を返り討ちにしてやらあ!」
相手はそうとう頭に来ているようだ。
「シントぉ、これって、あれでしょ? ピンチ……ってやつじゃ」
「ここまで囲まれたらなにしても敵に当たる。だいじょうぶだ」
「絶対だいじょうぶじゃないでしょこれぇ!」
「行くぞオラアアアアアアアアアア!」
「死ねええええええええええ!」
「クソ魔法士めが!」
どう考えてもならず者としか思えない敵兵が一斉に襲いかかってくる。
「≪魔衝拳≫!」
拳に魔法をまとい、反撃。
「うわわわわ! ≪ファイアボール≫! ≪ウインドボムゥ≫!!」
「≪魔弾≫!」
「くおおおおおおお! ≪ファイアアロー≫! ≪ウインドカッター≫!」
飛びかかってくる者を片っ端から倒す。
猛攻を耐えしのぎ、撃って撃って撃ちまくる。時がたつにつれエーギル兵の人数が減り、楽になってきた。
「アルクルス君、シールドを頼む」
「わかったよぉ~! ≪ウインドシールドォ≫!」
泣きっ面の王子が生み出した障壁はとてつもない風を放ち、エーギル兵を後退させた。その隙に他の兵器を壊しにかかった。
機械兵を用いた大砲は一つのようだが、大弩に普通の大砲にと、たくさん配備されている。それを片っ端から破壊。
「く……くそ! いったん引け! 引けい!」
「しかし隊長! もう敵船が……」
「もう来たのか!」
ホーライの高速船はものすごい勢いで、港に迫ってきている。兵器は大方壊したし、埠頭を守る兵もそこまで多くはない。なんとかクリアできた、と言っていいだろう
「俺たちも引こう」
「ふいー……なんか忙しかった」
「怪我はない?」
「なんとか。でもこんな喧嘩みたいな接近戦なんて、初めてだよ。おじさんたちも怖いし……」
「けど、勝った」
「うん、そうだ。母上のおかげかも。認めたくないけど」
認めたくないとは言うが、顔はそうじゃない。
「とにかく速く魔法を撃てって、ずっと教えられた。接近されても早撃ちができれば戦えるって、やっと今日わかったよ」
「それはなにより」
確信に満ちた表情だ。彼はまた一つ強くなった……のかもしれない。
そうこうしているうちに、ホーライ軍が港へ到着。続々と甲冑を身に着けた兵士の方々が降りてくる。
「皆の者! 油断するでないぞ! 整然と攻めよ!」
主上の声が聞こえてくる。無事に来れたようだ。
「シントよ! それに王子! よくやった!」
お供を引き連れ、颯爽と現れる。かなりの歳だというのに、歩みは若者のそれとあまり変わらない。
「おかげでたいした損害もなく来れたわ! あとは――」
雄叫びを上げて、エーギル兵たちが再びやってきた。
「あとは任せい! この勢いでダジリン港も落とす!」
ここダルメシアン港は大河の河口にある。その対岸に位置するのがダジリン港だ。いまはそこもエーギル家の支配下にある。
予定通りならばゴエモンさんたちもすでに来ているはずだ。すでに主上には話してあるから、うまくやってくれるだろう。
「俺はガラル軍と合流します。主上、ご武運を」
「うむ! 行くがよい!」
堂々たる姿だ。キヨミズの戦いでも、主上は決してあきらめず、引かなかった。そんな人と一緒に戦えるのは幸運でしかない。
「アルクルス君は休憩だ。魔力をかなり消耗しているから、無理はしないように」
「え、でも」
「手伝ってくれてありがとう。あとは――」
「そんなこと言わないでくれ。なんだかいま……いい感じなんだ。もっと魔法を深く知るチャンスだから、僕もやる」
決意は固いか。
「わかった。王子はウチのアリステラと合流して、彼女の隊に加わってくれ」
「……いや、あの人はちょっと」
アリステラがだいぶ苦手みたいだな。
「じゃあカサンドラかグイネヴィアさんで」
「それどっちも怖いじゃん!」
「文句はあとでいくらでも受け付けるから」
「え~」
しょうがない人だ。でもあきらめてもらうしかない。
「さあ、行くよ」
「わかったよ~」
その場から飛翔を開始。次なる戦場へと向かう――




