角笛が鳴る 47 凶報、そして
ギュスターさんが敗れた、との凶報はさすがに予想していなかった。
いったいなにが起きたのか、と焦ってしまう。
「急使とやらは?」
「かなり疲労している様子でして、いま休ませています」
「わかった。案内せよ」
俺とティール侯爵もヘイムダル侯爵のあとについた。
すでに陣の一角は騒ぎになっていて、集まりができている。
「閣下! 閣下が来たぞ! 空けろ!」
ざーっと兵士が分かれ、地面に座り込む一人の男性が目に映る。かなり疲労しているようで、顔色はよくない。
「ペールゼンか。なにがあった」
このペールゼン、という兵士はヘイムダル家の兵士みたいだ。
「閣下! も、申し訳ございませぬ!」
「謝罪はいい。詳細を話せ」
「はい。若は――」
ギュスターさんは予定通りに進軍し、かなり速い段階で、町を一つと、小さな砦一つを取り戻した。これは昨日にも来た連絡でわかっている。
その後、さらなる進軍を行っていたところ、奇妙な部隊と遭遇したのだという。
「その……なんと言いますか、人ではなく……」
「人ではない? 天至か?」
「いえ、正直、気が狂いそうです。蛇、と、人が……その、合体……」
「しっかりしろ。ちゃんと話せ」
ペールゼンさんは恐怖に怯えているようだ。
「若はこのことを閣下とお孫様に至急知らせろと言って、私を」
「わかった。おまえは休め」
「は、はい……」
いったんこの場を離れ、三人になる。
「かなり怯えているな。どういうことだ」
ティール侯爵もまた、怯えているのに気づいたようだ。
「蛇と人? モンスターが出たとでも言うのか」
いや、おそらく違う。
蛇と人が合体、ということは、饗団の人間だろう。邪剣を使ったか、あるいは――
「お孫様、なにか知っているのか?」
「ええ、おそらく『一桁』が出たのかも」
「なに? それは……たしかモンスターウォーズで貴殿が遭遇した……?」
うなずく。
こうなると、俺の出番だな。『一桁』が出て来たなら、叩く。
「ちょっと行ってきます。ギュスターさんはまだ生きているかもしれない」
「待て、私も行こう」
「ティール侯爵、ここを離れるというのか」
「いや、そうではない。公子がいればすぐに戻れるだろうしな」
あんまり賛成できないが、ギュスターさんの安否しだいでは、ティール侯爵もいたほうがいいだろう。
「言い合っている時間はない。公子、頼む」
「ええ、わかりました」
もう一度、ペールゼンさんの元へ行き、手に触れる。思い浮かべてもらうのは、ギュスターさんがいた場所だ。が、恐怖のせいでうまくイメージできておらず、魔法を使えそうにはなかった。
「しかたないか。≪魔弾球≫」
魔力球を展開し、ティール侯爵のたくましい肉体にくっつけた。
「なんだこれは」
「飛ばします。しっかり掴まるように」
「む!」
ティール侯爵とともに飛翔を開始。
「これは……下を見れん!」
侯爵も高いところが苦手なのか?
あとで聞いてみよう。
全速力で飛ぶ。
目的の場所は、ギュスターさんが落としたという砦だ。
そう遠くはないから、一時間もあれば着くだろう。
「くっ……高さなどに……私は負けん!」
なんか面白いこと言ってるけど、いまは無視しよう。
無事砦を発見し、降りる。
多くの傷ついた兵士や騎士が体を休めているようだった。
「ティール侯爵閣下!」
「おお! 来てくださったのか!」
彼らはティール侯爵を見て、立ち上がる。たいした人気だ。
「ギュスターはどこにいる?」
「は! こちらに!」
どうやら無事のようだ。
砦内の一室に案内され、入る。そこでは――
「その包帯の巻き方……美しいな。君の指もだ。それでおれの体のもっと中心を治療してくれないか?」
「そんな、だめですわ……そんなところを治療したら……」
まーた女性を連れ込んでる。
「ギュスター!!」
ティール侯爵は目をくわっと開き、怒鳴りつけた。
「おお、義兄にシント・アーナズ、来てくれたのか」
「おまえは……! 心配したというのに――なんだ? かなりやられているな」
たしかにギュスターさんの上半身は包帯だらけだ。
俺たちの登場により、女性の看護師さんが慌てて出て行った。
「いまの女性は?」
「近くの町から医者と助手に来てもらった。けが人も多いからな」
「おまえがここまでやられるとは、なにがあった」
「ふむ……少々、いやかなりとんでもないモノと遭遇してしまったのだ」
話を聞く。
彼らは次なる標的を落とすべく、進んでいた。
だが、ひとけのない細い街道に入ったあと、モンスターに襲われたのだという。
「蛇型の、見た事もないモンスター群だった。しかし、それだけならたいした問題ではない」
ギュスターさんが率いるのは、三千ものヘイムダル騎兵だ。そうそう遅れをとったりはしないはず。
「ヤツが……いったいなんだったのか、いまでもわからん。上半身が人で、下半身は蛇。悪夢かと思ったぞ」
やはり『一桁』。間違いない。
「なにか言っていました?」
「言っていることも意味がわからなかった。ヤツは蛇の化け物をけしかけてきて、戦闘になったのだがな」
しかも蛇は毒を持っていた。それでかなりの人数がやられてしまったらしい。ギュスターさんは『一桁』の戦士と戦い、兵士たちが撤退する時間を稼いだのだという。
「さすがです。『一桁』を相手にして無事なんて」
「そうか。あれがおまえの言っていた『一桁』とやらか。褒めてくれるのは嬉しいが、そうではないのだ」
「そうではない?」
「ああ、とても……奇妙なことが起こった。劣勢になり死を覚悟したが、突然、強烈な光が発せられ、遅れて音が響いた。おれは最初、公女ウルスラが助けに来たのだと思ったぞ」
ものすごい雷が発生し、モンスターを蹴散らした。
「あれはなんだったのか……なにか、球体のような……とてつもない力がいきなり出て来たのだ。そしてそれは去り、あの化け物はそれを追っていった」
そのおかげで難を逃れた、ということらしい。
なにかが現れ、モンスターを倒し、逃げた。そして『一桁』の戦士は、ソレを追い姿を消した。
胸がドキドキしてきた。とうぜん、不安によるものだけど、それだけじゃない。
雷に、球体。モンスターに仇なすモノ。
まさかもまさかだが、もしもそのまさかが当たっているとしたら、なぜこのタイミングで現れるんだ?
「どうした、シント・アーナズ」
「……」
どのみち、『一桁』は放っておけない。
いるかも、とは考えていたが、やはりいたのだ。
モンスターを生み出し、かつ自身も強大な力を持つ饗団の最上級戦士。
「遭遇したのはいつのことですか?」
「昨日の早朝だ。時間にして十八時間前、というところだな」
「この近くなんですよね?」
「そうだ。追う気か?」
「追います。これはかなり重要なことだ」
確かめなければならないことがある。
「ならば、おれも行こう」
「ギュスター、おまえは休んでおけ。公子とは私が行く」
「義兄、それはないだろう。そもそもたいしたケガではない」
たいしたケガに見えるけど。
「急ぎます。すぐに出発を」
「……しかたあるまい。少しでも苦しそうにしたら、戻すぞ」
「そう来なくては」
騎士たちは連れていかない。無用な犠牲は避けるべきだ。
俺たち三人だけで行く。
「当てはあるのか?」
「モンスターの瘴気はすぐにわかります。それをたどる」
痕跡はまだ残っているはずだ。
「これはチャンスだ」
「チャンス?」
「『一桁』は天至よりも上の強さ。いまここで叩けるなら、かなり有利となる」
「相手にとって不足はない。ギュスター、行くぞ」
「ああ、馬を用意させる。それにしても、楽しくなってきたぞ。シント・アーナズとともに化け物退治だ」
まったく、呆れたものだ。この人は常に女性を口説いているし、やっぱりムンゾォさんみたいなお目付け役が必要なようにも思えてくる。
でも……もしかしたらムンゾォさんは『神の原野』にいて、俺がいま抱いている気持ちに同情してくれているかもしれないな。




