角笛が鳴る 44 スーパートレジャーハンター
早朝――
砦に向かうティール侯爵たちや、ウチのメンバーを見送ってから、俺もグランガラルを出る。
「ようし、全速力を試してみるか」
≪漆黒ノ翼≫を発動し、上空へ。
目的の場所はかなり遠いから、全力で飛ぶ。目覚めてから一度も最速を試していないから、ちょうどいい。
「メイン島がどんなところか、楽しみだ」
集中を開始。はなから全速だ。
空を切り裂き、青い空を飛翔。秒でグランガラルが見えなくなる。
一人だと気を遣うこともない。どこまでもスピードを上げ、十分が経ったころには大河が見えてきた。
ダルメシアン港の上空は避けて、ちょっと迂回。
そこから沿岸部を南へ進む。
スピードは落とさない。音さえも置き去りにしそうな速度で突き抜けた。
そうして目的地へと到着。
だいぶ消耗したけど、いい感じだ。一時間で来ることができた。
息を整えてから、ゆっくりと地に降りる。
「はー……綺麗な島だな」
白塗りの建物が多く、青い空とマッチしてる。斜面に沿って段々と高くなる丘に家々が並ぶ。合間にある緑も絶妙な配置で、あまりにも美しい。
今回、俺はここにゴエモンさんを探しに来た。
以前、呪われた島でともに冒険をした人だ。
ここメイン島で運輸業を営んでいると言っていた。
というわけで、そこらへんでたむろしている若者の集団に聞いてみた。
水の民アクーの人だ。
アクーの人々はみな肌が青白く、泳ぎが上手いという。彼らが住む南東沿岸部では特に漁業が盛んで、魚料理が最高だと聞いた覚えがあった。
「あん? ゴエモン……だと?」
「ええ、イシカワゴエモンさんです」
若者たちは顔を見合わせ、次いで俺をじろじろ見る。
「あんた、帝国人だろ? 黒髪に黒瞳……」
「……あの人に何の用だよ」
「商売の話です。知っているのなら、教えてほしい」
彼らはひそひそと話をし始めた。嫌な予感がする。もめごとになるのは避けたいのだが。
「な、なあ……ちなみに名前はなんてんだ?」
態度が妙だな。気になるけど、いちおう名乗ってみる。
「やっぱり! あんたが財宝を見つけたシント・アーナズ!」
「マジかよ! あのスーパートレジャーハンターだろ!」
「ねえ、海の怪物を一人で千匹も殺ったってほんと?」
スーパートレジャーハンター……?
「財宝を見つけたのはほんとうですけど」
「うおお! 今度おれたちも一枚噛ませてよ!」
「いやー、マジだったんだな!」
俺を置いてけぼりにして盛り上がってる。
「わかりましたから、案内をおねがいします」
「おお! じゃあいっしょに来いよ!」
理解に苦しむ状況だが、案内してくれるならそれでいい。
若者たちの案内の元、埠頭へと到着。
たくさんの桟橋に、たくさんの船。潮の匂いと海の音。降りそそぐ太陽の光がまぶしい。遠くに見えるビーチには、観光客らしき人々がいっぱい見えた。あっちはもう秋だというのに、大陸北部との温度差がすごい。
「兄貴!」
先頭の男性が大声を出す。
すると、大きな船から一人の男が顔を見せた。
「なんだあ? てめーら、まーた昼間からぶらぶらしてんのか。母ちゃんが泣くぞ、こら」
「へへへ……すいません。でも今日は客を連れて来ましたよ」
ゴエモンさんはあいかわらずだ。感覚的には二か月ぶりくらいだけど、向こうからすれば九カ月ぶりになるのか。
「お! シントじゃねえか!」
細長い体をひょいっと動かして、桟橋に飛び降りる。
「おー、久しぶりだな。ガディスさんは元気か?」
「ええ、元気ですよ」
「北はやべえみてえだが、わざわざ会いに来てくれたんか」
頭に巻いたバンダナを取り、笑顔を見せる。
「おっと、連れてきてくれた礼だ。これでうまいもんでも食え」
「ありがとうございます! うひょー!」
若者たちはお小遣いをもらって、嬉しそうに去って行った。
「まずはメシでもどうだ?」
「いえ、時間があまりないので」
「つーことは、またお宝探しか? だったら答えはイエスだ」
お宝探しか。それは今度だ。
「運搬の仕事の依頼をしたくて来ました」
「へえ、いいぜ」
「即答ですか」
「おまえさんの仕事なら、面白そうだしな」
「ありがとうございます。物資や武器を積んで、ダルメシアン港を攻めてほしい」
「おう! ……って、ん?」
ゴエモンさんは目が点になってしまった。
ちょっと早口だったかな。もう一度言おう。
「物資と武器を積んで、大河の河口へ南から攻めてほしいんですよ」
「ぶふっ!? な、なに言ってんだあ!」
「引き受けてくれてありがとうございます」
「ちょっと待て! 待ちなって!」
え、でもいましがた引き受けてくれたはず。
「はい、待ちます」
「……いや、やっぱ待たなくていいわ。なにがどうなってんのか、話してくれ」
彼は気温が高いせいなのか、額に大量の汗をにじませている。
日陰に移動して、商談を続けた。
ガラルはいまダルメシアン港の陥落を目指しているのだが、東からはホーライが、陸からはティール侯爵が攻めるつもり。で、南からはゴエモンさんが攻めるってわけ。
「ここからダルメシアン港まではどのくらいかかりますか?」
「まあ……風次第だが、長くて一週間ってとこか……ってそうじゃねえよ。まじ戦争じゃねえか。そもそもおまえさん……実はガラルの貴族だったわけか?」
「いえ、ぜんぜん」
「じゃあアレか。仲介か」
「そんなところです」
ゴエモンさんは俺をじっと見ながら、考えているようだ。
「一つ、条件がある」
「なんでしょう」
「人を詮索するなんぞ、おれの流儀じゃねえが……どうしても気になる。シント、おまえさんの出自を教えてくれ」
「なぜ、そんな条件を?」
「だってよ、要は援軍を頼みに来たんだろ? おまえさんは冒険者なのに、そんな重要な仕事を任せられてる。普通じゃねえ」
隠しているわけではないから、言ってもいい。ただ、偏見があるとキツイんだよな。とはいえ、ゴエモンさんの信頼を考えるなら、言うべきだろう。
「母さんはガラルの元公女でした。アンナと言います」
「……おいおい。その人ってたしかラグナに嫁いでたよな? じゃあジークハルト大公の息子じゃねえか」
「そうなりますね」
「ガラルの先々代の孫で、ラグナの嫡流か。聞いてみるもんだな」
「それはかつての話ですよ。いまはもうただの冒険者です」
「訳ありかよ。だが、納得したぜ。それによ、おまえさんに妙な親近感があったんだが、それはおれと似たようなもんだったからだな」
「似たようなって、なんですか?」
彼は、へへっ、と笑った。
「おれの母ちゃんは、ウンディーネの議長の娘なんだよな。あ、議長ってのは王様みてーなもん」
かなり驚いた。
「まっ、そうは言っても、三女? いや、四女だったか。たいした地位じゃねえけど。議長だって世襲じゃねえし」
ウンディーネはアク―の都市の中でもっとも大きなところだ。そこの議長はそうとうな権力を持つはず。
「親父に惚れて、勝手についてきたってよ。んで、おれが生まれたわけ」
そんな事情があったんだな。非常に興味深いところだけど、いまはいい。
「ガラルの依頼ってこたぁ報酬も期待できらあな」
「やってくれるんですね」
「ああ、いいぜ。それに……おまえさんのおかげでうちはでかくなった。今じゃおれぁ八隻も持ってる『イシカワ商社』の社長よ」
前に会った時はザルゲイゾ一家に押されて、零細だったはずだ。それがいまや八隻だって?
「島で回収した財宝でよ、事業拡大したってわけ」
なるほど。納得。
「恩があれば返す。仇があればそれも返す。おれの流儀よ」
なんとか話はまとまったか。しかし帰る前に聞きたいことがある。
「ところで、スーパートレジャーハンターというのはなんですか」
「財宝を持ち帰ったらわけを聞かれるだろ」
「そりゃそうですが」
「んで、黒髪黒瞳のスーパートレジャーハンター、シント・アーナズの伝説を作ったんだよ」
なんでそんな迷惑なもん作った!?
「ちょっとした伝記を書いて出したらよ、バカ売れだぜ、バカ売れ!」
なんてことしてんだよ!?
「なんだ? 分け前がほしいんか? まあ、おまえさんを主人公にしてっから、出してもいいけどな」
「いえ、いりません。代わりに出版を停止にしてください」
「無理なこと言うんじゃねえよ。どのみちここじゃおまえさんは有名人だ。諦めろ」
くそー、この人、ほんとに抜け目ない。
「それで、いつの予定だ?」
「もうすでに各所で動き出しています。早いほうがいい」
「一週間後でいいか? ただ、必ずしも間に合うわけじゃねえってことは先に了承してもらうぜ?」
「はい、それでおねがいします。報酬についてですが――」
「そいつは成功してからでいい。おまえさんらが負ければなくなるしな。期待はしたくねえ」
「いいんですか?」
「いいさ。でも成功したあかつきにゃ、たっぷりもらう」
さすがだ。
それから航行ルートの詳細を聞き、予定を合わせる。イシカワ商社にはさまざまな物資と武器を積んでもらい、さらに港の一部を攻めてもらうつもりだ。ただし、敵は饗団軍のみ。一般人には手を出さないことを約束してもらう。
「それではまた」
「おう、嬢ちゃんたちとガディスさんらによろしくな」
「ええ、必ず伝えます」
嬢ちゃんたち、というのはディジアさんとイリアさんのことだ。
ほんの少し、心がぐらつく。
頭を振り、暗くよどんだ気持ちを振り払うのだった。




