角笛が鳴る 43 剣神門で得たもの
「シント、シールドを張ってくれ」
これからガディスさん、クロードさんとの訓練……なのだが、最初に言われたのがコレだった。
「ええ、それはいいですが……」
「おまえのシールドにどれだけやれるか、試したい」
どういうことだかさっぱりだ。いちおう、言われたとおりにする。
「クロード、おまえも見ておけ」
「は、はい」
彼は大斧を取り出し、振りかぶる。
「――!」
魔力の蠕動を感じる。今からなにが起こるというんだ。
「フウッ!」
踏み込みが地を揺るがす。続いてくる大きな衝撃。
全力で張った障壁が、割れた。
これは……なんなんだ!?
「ガディスさん、いまのは?」
【神格】の攻撃に耐えた俺の障壁が、一撃で砕かれてしまった。ありえない威力だ。
「武閃は『浸透撃』と呼んでいた」
『浸透撃』?
衝撃を浸透させるってことかな。どういう仕組みなんだろう。
それとも魔法なのか?
「いま、魔力を使っていたようにも見えました。魔法……なのですか?」
「魔法ではないだろう。術式やら詠唱など、おれにはさっぱりなのでな」
「任意発動型の【才能】……でしょうか」
クロードさんがとても興味深そうに言った。
「それに近い。溜めた力を爆発させる要領だ」
「しかし、あなたも僕も限定発動型です。どうやって」
【才能】にはさまざまあるが、いくつかの型にざっくりと分けることができる。
まずは『常時発動型』。常に発動していて、多くの【才能】がこれに該当する。体力や魔力を消費することもなく、燃費は抜群。例えばそこで寝ているアイシアがそうだ。彼女が持つ『自在の神撃』は、尋常ではない柔軟性と恐ろしいほどの平衡感覚をもたらし、どのような姿勢からでも必殺の一撃を放てる。
クロードさんの言う『限定発動型』は、条件をクリアした時に常時発動し、高い効果を得ることができる。例えばフランが持つ『剣の勇者』などが代表例で、剣を手にしている間は全ての能力が跳ね上がり、最強の戦士と化す。ウチで言えばカサンドラの『撃槍』がこれに当たる。
もう一つの『任意発動型』という【才能】は、恒常的な能力の上昇がない代わり、自分のタイミングで発動できる技みたいなもの。強力である一方、体力と魔力を消費する。そこで横たわっているウルスラが持つ『縮地』がそうで、発動すれば肉眼では捉えられないスピードを発揮することができる。
他だと、『複合型』というものがあり、これは常時発動しながらも任意で発動を可能。非常にレアで強力な【才能】だ。すぐそこで大の字で寝ているデューテの『金剛変』が該当し、常時肉体が硬く、力を込めればさらに硬くなるという。ダイアナの『細の眼』もそうだ。常に目が強化され、集中すれば肉眼で見えないものが見えるようになる。
「武閃は、『勁』という言葉を使っていた。魔力の流れを操作し、力に変える」
「聞いたことはあります。しかし、使用できる人間を見たことはありませんでした」
俺としても興味深い話だった。話を聞く限りだと、魔力で肉体を強化している風にも聞こえる。
たまに使う魔力の集中による強化だろうか。俺も声をでかくできたりする。
「すごいですよ! 【才能】でもない、魔法でもない技!」
「前にも言ったが、おまえの戦い方がヒントになった」
ガディスさんはこの前、俺の≪魔衝拳≫について言及していた。
「おまえは拳に魔法を纏わせ、敵の守りを突破する。アレが使えないかと、ふと考えた。剣神門の人間が不思議な技を使うという話を聞いていたからな。ピンときた」
感動で震えているんですけど。
「僕にも手解きをおねがいします! ガディス殿!」
「俺にもおねがいします」
「まずはこれから試合だ。実戦で使えないなら意味がない。本気で頼む」
「わかりました」
「ええ、そうしましょう」
楽しくなってきた。ガディスさんとクロードさんとは、ほとんど手合わせしたことがない。
そうして俺たちは日が暮れてからも、たっぷりと試合を行ったのだった。
ガディスさんもクロードさんも、とにかく強い。次から次へと見たことない技を連発され、少しも油断ができなかった。
気が付けば、ウチのメンバーたちが食事を用意して、俺たちの試合を見物している。みんな、もの好きなことだ。
「ぐっ……参りました」
「ふぅ……また腕を上げたか」
クロードさんが、参った、を行う。
ガディスさんがまだ一枚上手、ということだ。
「『勁』をまだものにできません」
「一日で使われたらおれの立場がない」
しかしクロードさんは、教えを受けてすぐに、わずかだが使っていた。
「おれたちは似たような【才能】だ。武器を手にした時の、力がわき上がる感覚を思い出せ。あれを爆発させるような感じだ。おまえならば、すぐに使えるはず」
「は、はい……ありがとうございました」
みんなから、おー、と拍手が起きる。
さすがに夜も遅いから、これで終了かな。
ちなみにガラルの子たちは動けなかったので、ディエンド内の部屋に放り込んでおいた。
「そしてシント」
「はい」
「おまえは少し、直線的すぎる。最短を詰める実直の拳はたしかに恐ろしいが、フェイントがなさすぎるだろう」
見抜かれてる。
今回、ヨルムリアと≪魔弾球≫を使用せず、近距離での訓練に挑んだのだが、けっこうやられた。
魔法戦ではいろいろ小細工を使うけど、拳闘となると、これがなかなか難しい。
「たとえば、こうして、こうだ」
「なるほど、こうやって、こうですね」
その場で体をくねらせ、拳を振るう。
「あとは、これで、こういうふうにやる」
「こう……これですか」
「こんなかんじ?」
俺の隣にミコちゃんがやってきて、俺たちの真似をし始めた。ぴょこぴょこして可愛い。
「ミコ、おまえは魔法だろう」
「おにーちゃんとおなじにやりたい」
そういやこの前も言ってたな。これはますます楽しみだ。ミコちゃんの光魔法と拳闘が合わされば、新たな戦闘スタイルが生まれるだろう。
「≪フラッシュ≫!」
おお! ほんとに光るパンチだ。これはまぶしくて防げないぞ。
「わたしもやりたい」
今度はミリアちゃんがやってきた。彼女は、しゅっ、と蹴りを出し、風が生まれる。これは……神馬ザンザスの力だろうか。ミコちゃんは『光パンチ』でミリアちゃんは『風キック』。成長したら悪党なんか一撃でぶっ飛ばせそうだ。
「明日にしろ、二人とも。もう寝る時間だ」
「やだ」
「……やだ」
二人は仲良しだから、息もぴったりだな。
「パンチとキックならわたしが教えるんだぞ」
「ヴィクトリアおねーちゃん、てとあしながいから、ずるい」
「ずるい」
「ギルドでも一番長いんだぞ。ふふーん」
なんの自慢なんだ。
それにしても、女児に勝ち誇るとは。そこはある意味さすがだと言っておこう。
「いまならシントにも殴り合いで負けないんだぞ」
俺を挑発的な目で見る。
あの大白虎という聖獣。アレに素手で勝つんだから、その自信もうなずける。≪ドラゴーンマショウレツハ≫はそうとうな威力だったし、うかうかしていられない。
「さあ、片付けるよ。明日も早いんだ。みんな、休むのさ」
カサンドラの指示で、お開きとなる。
俺たちはティール侯爵とともに、グランガラル近郊の砦に行く予定だ。
「今度はおれも混ざらせてもらうぜ、ガディスの旦那よ」
ジョルジオはうずうずしていそうだ。
ガディスさんはニヤリとして、承諾した。楽しそうにしている。
武の国ガラルは、ウチのメンバー全員に多くの刺激を与えていると思う。
そしておれは俺も同じだ。
これまでノリが合わないせいで敬遠しがちだったが、勉強になることばかりである。ウチのギルドはまだまだ成長できそうだ。
明日は最後の切り札を用意しに行くつもり。
俺も早く寝ておこうと思うのだった。




