角笛が鳴る 41 なんだこの戦績
再びガラルからホーライへ舞い戻り、主上たちと合流。
そこでクキガミ将軍と顔を合わせる。顔が傷だらけで、見た目がいかつすぎる人だったけど、とても気さくなおじさんだった。
それから作戦の会議に、どのくらいの時間がかかるのか、どういうルートでの侵攻を行うのか、現在のダルメシアン港はどうなっているのか、などなど、話すことはいくつもあった。
夕食をとるころには、深夜だ。オユキさんにはそうとう呆れられてしまったけど、疲れを察してくれたのか、怒られはしなかった。
「ふいー……気が昂るのう」
「お父さま、お酒はほどほどに」
「わかっておるわかっておる。明日も忙しいしのう」
主上は上機嫌だ。
「シントさん、おかわりはいりますか?」
「はい、できればその」
「大盛、でございますね。はいはい」
ホーライの料理は見たことないものばかりだけど、とにかくうまい。ついついたくさん食べてしまう。
「はっはっは……よく食べるとよい。ユキネの孫ならば、わしの孫も同然。食べて大きくなるのじゃ」
「お父さまったら、シントさんはもう大人ですよ」
「わしからすれば、赤子のようなものよ。まあ、ありえんほどに強き赤子だがな!」
そりゃそうだけど。
それにしても、ユキネおばあ様ってどんな人だったのか。前は聞けなかったので、ちょっと聞いてみよう。
「おばあ様ってどんな人だったんですか?」
「おお、そういえば話すと言ってそれきりじゃったのう」
覚えていてくれたみたいだ。
「ユキネはのう、優しい女子じゃった。王家の者はどうしても気が強くて、誇りが勝ちすぎる。その中では変わり者、じゃったかもしれん」
「母さんも優しい母だった、と言ってました」
ホーライの王家には、トーオンジ家とサイガンジ家という二つの分家がある。おばあ様はそのうちのトーオンジ家出身だった。ガラルでいう御三家みたいなもので、ラグナにおける六家みたいなものだ。
「幼き頃よりよく遊んでおったのー……懐かしい。そのまま自然に夫婦となるのだろうとも思ったが……」
主上のお父さん、つまり前主上は別の有力な家から主上の婚約者を選んだ。
そして、ユキネおばあ様には武の【才能】があったため、ガラルの目に止まったそうだ。
「あのころは、ホーライの他にもたくさんの勢力がひしめきあっていたからのう。父としてもガラルとの関係強化は是が非でもしたかったのじゃろう。わしはそれを指をくわえて見ているしかなかった。わしにもっと力があれば、と悔しかった。いや、いまでも悔しく思っとる」
この島は戦国時代だった。ホーライは強国だったものの、油断はできない状況だ。となれば、海を挟んだ大国ガラル、さらにはその先の帝国とつながっておくことは、最上の策だろう。
「しかしな、いまとなっては、それがよかったのかもしれぬ。ユキネがガラルに嫁がねば、おぬしは生まれんかったじゃろう」
「たしかにそうかもしれませんね」
「人生とは……巡りあわせとは、まことに不思議なものじゃ。いまこうしてユキネの孫がわしの力を必要としておるのじゃからな」
「はい、ありがとうございます」
巡りあわせ、と聞くとウチのメンバーの顔が思い浮かぶ。
「子どもの頃はどんな感じだったのですか?」
「わしはガキ大将じゃった。それはいまも変わらぬかもしれん」
うん、そんな感じがする。
「ユキネは本が好きで、暇さえあれば城の書庫に入り浸っておったな。わしが連れ出さねば、外に出ようともせん」
本好きだったのか。どんな本を読んでいたのか、気になる。
「本の虫だなどと、周りの大人たちは呆れておった。それこそ、肌身離さず書を持ち歩いていたくらいじゃ」
それはそうとうなものだ。
「ある時など、無理やり戻して外で遊ぼうとしたのだが、激烈に怒りおってのう。いまにして思えば。あの書はきっと日記かなにかだったのじゃろう。触ろうとするととてつもなく怒りよる。女子は詩などをしたためると聞くし、恥ずかしかったのじゃろうな」
ポエムってこと? それはさすがに他人には見せられないでしょうね。
「お父さま、人の趣味をそのように言うのは」
「なんじゃ? まさかおまえも……」
「べ、別にそういうわけではございません!」
怪しい。オユキさん、誌を書いていたのかもれない。
「なんだか、ちょっと変わっていたのですね」
「おぬしの母は、本を読まなんだか」
「そうですね。読んでいるところは見たことがありません」
どちらかと言えば、花を育てたり、庭を散歩したり、俺と遊んだり、って感じかな。
「そうなると、ユキネの本好きは娘のアンナでさえも呆れておったのかもしれんな。はっはっは」
そーだったのかー……もう会えないのが残念だ。会ってみたかった。
そんなこんなで話を続けていると、主上は酔いつぶれてしまう。
「だいぶお酒が回ってしまったみたいですね」
「しかたありませんわ。お父さまは、普段お酒を飲みませんの。ですが、今日はシントさんと話せたことが嬉しかったのでしょうね」
「そうですか」
「私もなんだか、酔いたい気分でしたわ。シントさんが生きていて、ほんとうによかった」
「なんか、すいません」
かなり心配をかけてしまった。
「でも……あなたがなさろうとしていることは、あまりに恐ろしいことです。悪神に挑むだなんて」
「必要なことなんです。俺は……そうしなくては」
「無茶はしないでください。もういなくなったりは、しないで、シントさん」
「いなくなりませんよ」
笑みを作る。
しかし、そうはならないかもしれない。ディジアさんとイリアさんでさえ、封印するのがやっとだった存在だ。
全身全霊で挑んだとして、勝てるかどうか。
でもやる。絶対に――
「シントさん……?」
「今日はもうこれで解散ですね。主上を寝室にお連れしましょう」
「え、ええ」
二人でかつぎ、部屋まで持って行く。俺もこのままワカサ湾のお屋敷に泊まらせてもらう予定だ。
オユキさんと別れ、部屋に戻る。
おおよその準備は整えたが、まだ足りない。饗団を出し抜くには、どこまでもやる。やってやる。
★★★★★★
朝を迎え、さっそく会議を再開。終わったあとはすぐにガラルへ戻る。
ホーライ水軍には、こちらと歩調を合わせてもらわないといけない。そのために俺はティール侯爵と主上との間を行き来し、可能な限り情報を共有する必要があった。
ティール侯爵、ヘイムダル侯爵の二人が出立するのは明日だ。
砦についた後はじりじりと進軍してもらう予定だったが、ホーライの参戦がかなり早まりそうなので、ガラル側も早めてもらおう。
剣神闘技場へと戻り、戦艦ディエンドで食事でもとろうとしたのだが、様子がおかしいことに気づく。
アイシアとウルスラが、昇降口の脇で膝を抱え、足の間に顔をうずめて、なんなら泣いているようにも思う。
「いったいこれは」
「ハイマスター、戻られたのですね」
「クロードさん」
彼を俺を見つけ、ダッシュで来た。
「二人はなぜこんなアレな姿に」
「はい、公女殿下方は朝早くにダイアナさんとヴィクトリアさんに再戦を挑みまして。これを見ていただいたほうが早いでしょうね」
と、彼が手帳を見せてきた。
昨日の日付だと……ダイアナ対アイシア、30-0。
ダイアナ対ウルスラ、31-0。
ダイアナ対デューテ、29-0。
ヴィクトリア対アイシア、30ー0。
ヴィクトリア対ウルスラ、30-0。
ヴィクトリア対デューテ、30-0。
まさかの全敗か。八二くらいかと思ったが。
そして今日の日付に続く。
ダイアナ対アイシア、25-0。
ダイアナ対ウルスラ、25-0。
ダイアナ対デューテ、25-0。
ヴィクトリア対アイシア、25ー0。
ヴィクトリア対ウルスラ、25-0。
ヴィクトリア対デューテ、23-2。
お、デューテが二回勝っている。えらいえらい。
「あまりの戦績に、アイシア様とウルスラ様がこのようになってしまって」
内容もダイアナ戦にかぎっては、ボロ負けだったようだ。
ぶっちゃけ驚きなのはヴィクトリアの方だと思う。かなり腕を上げている。
「僕も驚きですよ。ヴィクトリアさんは、ときおりハイマスターのようでしたからね。見ていて勉強になるところもたくさんありました」
「やっぱりあの大虎……」
「大虎?」
「え、ええ……大叔父上を救出する前にヴィクトリアを森の中で回収したのですが」
「そうでしたね」
あの白い虎、マジでやばい相手だったのだろうか。何日も戦っていたと言っていたし、死闘が魔法を進化させたとしか思えない。
「ヴィクトリアが巨大な白い虎と戦っていたんですよ」
「……なんですって?」
クロードさんがびっくりしている。
「ちなみに……その虎はどうしたのでしょう」
「負かしたあと、ヴィクトリアに懐いていました」
「な、懐いた!?」
「俺も撫でようとしたら、逃げましたけど」
「まあ、それはわかる気がします」
なんで!?
「そうだったのですか……信じられませんが、だとしたらこの勝利数も不自然ではないのかもしれません」
「クロードさんはあの白虎を知っているのですか?」
「知っているというか、おそらくですが『ガラル護聖獣』ではないかと」
なにそれ。『ガラル護聖獣』ってなんかかっこいいんですけど?
いきなり妙な話がぶち込まれてきた。気になるので続きを聞こう――




