角笛が鳴る 40 『金剛ノ小公女』
ディジアさんとイリアさんの復活はまだ叶わなかった。
しかし、着実に力は増していると感じる。俺たちの旅はまだ半ば。だけど、焦りたくないのに、またしても焦りばかりが募る。
ここで気落ちするわけにはいかない。こういう時は、深呼吸だ。
「ダイアナ、少しデューテと手合わせを頼みたいのだけれど」
「え? う、うん、いい、けど」
それと、もう一人いくか。
「ヴィクトリアも頼む」
「なにをする気なんだぞ」
「訓練だよ」
ただし、普通の戦闘訓練ではない。
「みんな、さっさと準備するさ」
「……魔法士組、集まって」
カサンドラとアリステラが、それぞれに人を集め、出立の準備を進める。
二人とも、リーダーシップを発揮しているし、こうやって俺を自由にしてくれるのだ。ありがたいというか、なんというか。
「デューテが教えを乞う……だと?」
「珍しすぎ~」
アイシアとウルスラも見物に回るつもりのようだ。そういえばこの二人、どうするつもりなんだろう。新たに軍を率いるつもりはなさそうだが。
「まずはダイアナとデューテ、手合わせを。危ないと思ったら止めるから、できれば全力で。【神格】もありで頼むよ」
疑剣サナトゥス対神剣シャルウル。幻惑の剣と最硬の剣が激突するのだ。見るだけの俺もなんだか緊張してきた。
「姉さま……いっくよー!」
「うん、わかった、よ」
お互い、構える。
「ダイアナめ、様になっているな」
「ふ~ん……」
ダイアナは引きこもりだったけど、いまは違う。さまざまな仕事を経験し、何度も死地をくぐり抜けてきた。
試合はすぐに始まる。デューテが初手から激烈な攻めを開始。型にとらわれない戦い方は、簡単には見切れない。
「姉さま! そんなんじゃ!」
「……!」
ダイアナは防戦一方。しかし――
「……はっ!?」
デューテの顔色が変わる。始まったな。
「なっ……うっ!」
動きが鈍ったデューテに対し、ダイアナの剣技が威力を発揮する。
いろいろと事情があって部屋から出られなかったダイアナだが、己の力に振り回される前までは、ガラルの公女として剣の英才教育を受けているのだ。
教科書通りの実直な剣は、デューテを追い詰める。
「それまで」
疑剣サナトゥスは、デューテの喉元に当てられていた。
勝負ありだ。
「ダイアナが勝った……?」
「うっそ~」
姉たちも驚いている。俺からすればとうぜんだ。
「じゃあ次、ヴィクトリアとデューテ。ヴィクトリア、闘技場は壊さないように」
「ちょっと待って……いまのって……」
「まあまあ、あとで説明するよ。では、はじめ」
態勢が整わないデューテに対し、ヴィクトリアは≪ドラゴーンパンチ≫で攻める。
「くっ……このっ!」
「ふふーん」
苦し紛れの反撃を、ヴィクトリアは見透かしていた。大剣での一撃を余裕で交わし、右ストレート。デューテの額にぶち当たるが、たいしたダメージにはならないだろう。彼女が持つ【金剛変】という才能には、打撃など通じない。
「調子にっ!」
「んがああああああ!」
至近距離からのお互いに頭突き。ごちん! と音がして衝撃波が生まれた。
二人の間合いが離れた。かに見えるが、ヴィクトリアはのけ反った勢いを利用し、大きく息を吸う。
「三人とも、耳をふさいだほうがいい」
「あ、うん」
「は?」
「なにそれ~」
俺とダイアナはすぐに耳をふさいだ。
「≪ガアアアアアアアアアアアアアア≫!!」
きた。≪ガンメタルギガインパクト≫だ。衝撃と爆風が生まれ、割と遠くにいるウチのメンバーたちもびっくりしていた。
「あぐっ……」
とにかく硬いデューテに有効な一手が、内部まで浸透する衝撃だ。
揺れるデューテ。追撃をしようとするヴィクトリアだったが――
「まだまだーーーーーー!」
神剣シャルウルを横薙ぎ、そしてさらに逆側からも薙ぐ。さしものヴィクトリアも下がらざるを得ない。
「こっからだし! 神土兵!」
出し惜しみなしか。いいね、それでいい。
「なんか変なのが生まれたんだぞ!」
そりゃびっくりするだろう。
「デューテ、すごいんだぞ」
「いまから逆転だから!」
神土兵を盾に攻めるつもりだろう。さて、ヴィクトリアはどう出るのか。
「≪ドラゴーーーーーーーーーーン……」
ん、なんだ。なにをする気だ。
彼女はその場で大きく拳を振り上げる。
「マショウレツハーーーーーーーーー≫!!」
ちょっとそれ俺の魔法!?
魔力を右腕一本に集め、それを地面に叩きつける。闘技場が揺れ、コートが割れた。
「うっそ!?」
割れ目に足を取られ、神土兵は動けない。デューテはわずかに迷い、しかしすぐに我に返る。
「え? どこ!」
「ここなんだぞ」
ほんの少し目を離した間に、ヴィクリアはデューテの背後に回っていた。
神土兵が裏目に出た。動きが封じられた土の兵士をヴィクトリアは逆に目隠しとして利用したのだ。
「うひいいいいいいいいい!」
「わたしの勝ちなんだぞーーーーーー!」
彼女は小柄なデューテを後ろから抱きしめて、持ち上げる。しかも指の動きがすごい。この前見せてもらったカブトムシの足みたいにわさわさ動いて、脇をくすぐっている。
「待って! ちょっとーーーーーーー! ヒィィィィィィィ!」
「それまでだ。二人とも」
解放されたデューテは四つん這いの態勢になり、荒く呼吸を繰り返す。
「ま、またしてもデューテが」
「どうなってるの~……」
またもや、アイシアとウルスラはショックを受けていた。
「なんで……こんな……わたしが、負ける、なんて」
打ちひしがれるデューテのそばにいく。
「シント……」
「ダイアナは強いよ。俺だって負けるかもしれないくらいだ」
「それは、言いすぎ、です」
言いすぎだなんて、とんでもない。
「デューテ、なにか見せられたでしょ?」
「やっぱりあれって……」
急に動きが鈍くなったのは、疑剣サナトゥスの攻撃を受けていたからだ。
なんらかの幻影を見せられていたに違いない。
「……あれがダイアナ姉さまの、ほんとうの力なんだね」
「君になにが見えたかはわからないけど、かなり動きが悪くなった」
「でも、それだけじゃ負けないよ。ダイアナ姉さま、ちゃんと剣使えてたし」
「ああ、そうだね」
「悔しいな……ヴィクトリアにも負けちゃったし」
キレて殴りかかってくるかとも思ったが、やはりデューテが素直すぎる。
心のうちで驚きながら、話を続けた。
「いまのヴィクトリアは、たぶん【神格】級だ。ウチのギルドでも屈指の戦闘能力を持つ。さすがに俺の真似をするとは思わなかったけど」
あの≪ドラゴンマショウレツハ≫はとてつもない威力だった。
おかげで地面が割れた……って、なんだ。カサンドラとアリステラがいつの間にか隣に来ている。
「あのねえ、闘技場割ってどうするのさ」
「このままじゃ打ち合わせできない。静かにして」
「ごめんごめん、ちゃんと直しとく」
だいぶ怒ってんな。気をつけよう。
二人が戻ったのを見て、話しを続けた。
「さっきの試合は、デューテの読み負けだよ。いい勝負だったとは思うけど、ヴィクトリアの対応力が勝った」
ウチの竜人娘は、どの距離でも戦える。そして意外にも手札が多い。しかもどれもが強力。はたしてどこまで伸びるのか、想像もつかないほどだ。
「はっきり言っちゃうけど、ダイアナはおそらく、君たち五姉妹の中じゃ、一番だと思う」
「待て! それは聞き捨てならない!」
「そうよ~! わたしのほうが上だから~!」
「じゃあ試すか」
ダイアナを見ると、彼女はうなずいてくれた。
アイシアとウルスラまでもやる気になるのは、都合がいいかもしれない。
ちょっと考えよう。俺はいまからホーライに行かなきゃならないし、記録者が必要だ。
「クロードさん! すみませんが手伝ってください!」
大声でクロードさんを呼ぶ。彼はものすごい早さで来てくれた。
「喜んでお手伝いさせていただきますよ、ハイマスター」
「ありがとうございます。いまから彼女たちが模擬戦をしますので、勝敗を記録してほしいんですよね。それと、できれば内容もざっくりと記してください。忙しいところ、申し訳ないのですが」
「いえいえ、やりましょう。僕も非常に興味深いことですよ」
満面の笑顔で手帳とペンを取り出すクロードさんだった。
「俺はこれからホーライに行ってきますので、夕方の食事時まで、訓練を監督してください」
「わかりました」
ダイアナとヴィクトリアに、それぞれ三人を一人ずつ、一対一で相手してもらう。はたしてどんな勝敗になるか、楽しみだ。
「手加減はなしでやってほしいけど、あくまでも訓練だから、怪我とかはないように」
「負けるものか」
「勝つのはわたし~」
きっとそうはならないだろうと思う。
こうして訓練をクロードさんにおねがいし、ホーライへと移動するのだった。




