角笛が鳴る 38 お久しぶりです
空間を移動。一瞬でホーライに到着。
懐かしい匂いだ。それと紅い葉が落ちかけた木々も見える。
「シント、さすがに服くらい用意させてほしかったが」
「これ~ 普段着なんだけど~」
たしかにラフなかっこうだ。
「こっちで着物でも買ったらいいじゃない」
「そうか、我らの着物姿が見たいのだな?」
「それなら着る~」
いや、別に。
「さあ、行くよ」
ここはホーライの首都であるキョウノミヤコ。目の前にあるのは『フジョウ』というお城だ。
ホーライの城は大陸のものとは形が変わっていて、見てて飽きないんだよな。
さっそく門番の方に声をかけてみた。彼らはなぜだかびっくりしている。
「やや? あなた様は……し、しかもガラルの公女殿下方!」
俺たちを知っているみたいだ。
驚いていると、察してくれた。
「キヨミズの戦いではともに。拙者はそのおかげで栄えある大門の守備となれたのです。あなた様方のお顔は忘れませんよ」
あの時にいた人だったか。
ほんとうに懐かしい。キヨミズの戦いではアイシアもウルスラも味方についてくれたから、だいぶ助かったんだ。
「いえ、あの時の戦いに勝てたのは、明らかな劣勢でも主上についてくれたあなたのような人がいたからだ」
「ははは、なにをおっしゃいますか。ですが、そう言ってくれるのはまこと嬉しく存じます」
これなら話が通じそうだ。
「オユキさんはいますか?」
いきなり主上へ謁見を頼むのもなんなので、まずはオユキさんの所在を聞いてみる。
「すぐにお呼びいたしますゆえ、中にどうぞ」
よし、無駄に時間をかけずにすみそう。
中に通され、タタミ張りの部屋で待たされる。一息つこうかと思った矢先、ばたばたと走る音が聞こえてきた。
「シントさん!」
フスマが勢いよく開けられ、着物姿のオユキさんが来た。スライディングでもするような様子で正座をし、俺の手を取る。
「生きていたのですね!」
「はい、もちろんです」
「はあ……もう二度と会えないかと……うう」
泣かれてしまった。
しかし、俺が死んだことを知っていたのか。
聞いてみると、答えてくれた。
「風の噂で聞いておりました。ですので私、それを確かめようと船を用意したのですが……」
大陸では反乱が起きてしまい、船を出せなかったらしい。
「ほんとうに……生きていてよかったです……シントさん……」
まいったな。手を離してくれそうにない。
ここでウルスラがわざとらしく咳ばらいをした。
「あ、そういえばアイシア様とウルスラ様もお久しぶりですわね」
「そうだな」
「オユキちゃん~ お久しぶり~」
知り合いだっけ?
「それでオユキさん、主上に会いたいのですが」
「ええ、わかっております。ですが、ここにはおりませんの」
「いない?」
「お父さまはシントさんが死んだと聞き、めっきりとふさぎ込んでしまい、政務にもなかなか手が付かず……ああ! こうしてはいられませんわ! シントさん、ニジョウ屋敷へ!」
急に立った。さっきから勢いがすごい。
「ささ! 早く!」
「まあまあ、いまから魔法を使いますから」
ということで≪空間ノ跳躍≫を使用。すぐにニジョウ屋敷へ。
ここもまた懐かしい。空気が澄んでいて、心が落ち着く。
「そういえばそうでしたわ……あなたは移動できるのでしたね……」
いきなり現れた俺たちに対し、屋敷の人たちが驚いている。
「ところでシント、我らは靴を置いてきたのだが?」
「ちょっと~ 裸足~」
でもどうせまたここで脱ぐんだから、手間が省けていいだろう。
オユキさんは着物の裾を持ちつつ、走って行く。俺たちも追った。
フスマをばんばん開けていって、一番奥へ。
「お父さま!」
「なんじゃ、オユキ。わしは気分がすぐれん……今日は放っておいてくれい」
「毎日そうおっしゃっているじゃありませんか! そんなことよりも……シントさんが来たのですよ!」
「な、なに!?」
派手な着物を着たおじいちゃんが、ばばっと立ち上がった。
「な……なんということじゃ! シント! シントなのだな!」
「はい。ご心配をおかけしました」
「おお! おお! 本物じゃ! 本物のシントじゃあ!」
俺の肩に手を置き、涙ぐんでいる。
「おぬしが死んだと聞いた時……わしはもう……この世の終わりかと思うた。大陸で反乱が起きたと聞いた時も、おぬしがおらねばもはや帝国は終わりであろうと……」
「大げさですよ。俺はただの一般人です」
オユキさんも主上も大泣きだ。俺もなんだかしんみりしてきた。
「ふう……なにはともあれ、生きていたのであればそれ以上のことはない。よくぞ来てくれた、シント。それと、ガラルの娘御たちもな」
「はい、お久しぶりです、主上」
「こんにちわ~」
二人もさすがに主上の前だと、おとなしいものだ。
「して、なぜ死んだなどと噂が流れた?」
まあ、そうくるよね。またもや長い話になるんだけど、主上には話さないといけないだろう。
「ええ、話します。少し長くなりますが」
「構わぬ。オユキ、すまんが茶を用意してくれんか」
「はい、すぐにお持ちします」
「アイシア、ウルスラ、悪いんだけど」
「いや、いい。もう一度聞きたい」
「わたしも~」
そうなのか。だったら話そう。
オユキさんが戻ってくるのを待って、話す。もちろん、初めからだ。
話し終えると、主上たちの反応は予想できたものだった。
「なんという……まったく頭が追いつかぬ」
「信じられませんわ……あの子たちが……女神だった……?」
ディジアさんとイリアさんも、いっしょにホーライへ旅行に来た。
二人とも、子ども用の着物を着たりして、可愛かったな。
「半年以上も眠っていたなどと……まるで奇跡じゃ。しかし」
「外導神に……天至……機械の兵。いまの大陸は……魔境と化しているようですわね……」
「うーむ……キヨナガは饗団とつながったおったはず。もしもあの時……王座を奪い返さなかったら、ホーライは今ごろとてつもない災禍に見舞われていたのかもしれん」
主上の言うとおりだ。人手はない者に支配され、この人だってただでは済まなかったろう。
「饗団からなにか接触は?」
「直接はなかったのう。だが、人を介して近づこうとした者がいたのでな。サブロウに調べさせたところ、饗団の手の者であろうとの話じゃった。あえて話を聞いてやろうとも考えたが……姿をくらましおったわ」
「警戒して逃げたのですね」
「そうじゃろうの」
狡猾だ。やはり饗団は油断ならない。
「主上、いきなりで申し訳ないのですが、ガラルに援軍をおねがいできますでしょうか」
正座の姿勢から、頭を下げる。
主上はじっと俺の頭頂部を見ているようだ。
「少し見ん間に……おぬしは大人になったものよのう」
「まあ、一度死んでますんで」
顔を上げて、ニッコリしてみた。
「洒落になっておらぬわ」
怒られてしまう。
「とうぜん、援軍は出す。しかし一つ聞きたいのじゃが、シント、おぬしはガラルの大公を継ぐのか?」
「いいえ、そんな気は微塵もありません。交渉はこの二人が行います。俺は使者のようなものと思っていただければ」
「ガラルを救おうとするのは、縁者だからか?」
「母さんの故郷ですし。それと、饗団をやるにはガラルの力が要るんです」
「聞けば、帝国はもはや、という話じゃ。それを覆そうというのだな?」
「主上が手伝ってくれれば、それも叶う」
嘘ではない。ほんとうのことだ。
「……そうか。ふっふっふ……」
「お、お父さま?」
主上は笑い始めた。なんだか楽しそう。
「そうかそうか! ついに! おぬしが表舞台に立ったわけじゃな!」
「俺は裏方です」
「なーにを言うか! アークスにフォールンを解放したのじゃ! もはやもはや、誰もがおぬしに光を見るであろう!」
おじいちゃんは膝を叩き、扇子を広げて、舞わせる。
「死をも克服し、悪神に挑まんとする! これを聞いて奮い立たねば、なにで奮い立つ? いやさ、これこそが真の英傑なり! はっはっはー!」
「やっと元気がお戻りになったようですわね……」
「サブロウを呼ぶのじゃ! サブロウはどこじゃ!」
「ちょっと落ち着いてくださいな。いま呼んでまいりますから」
主上は笑みを保ったまま、うんうんとうなずいている。
「それで、援軍の見返りなのですが」
「そうじゃのー……見返りはいらんが、そうもいくまいな」
「無報酬ですと、大叔父上が逆に疑うかもしれませんしね。アイシア、ウルスラ、あとは頼んだ」
「え~ 無理~」
「おまえに任す。父上もそれに従うだろう」
それだと連れて来た意味がないのですが。
「お金? でもなあ……」
金で済むとは思えない。なにせ、これから敵の本拠地とも言える場所を攻めてもらうのだし。
「ガラルの港の一つか二つ、あげたらいいか」
「ちょっ~ さすがにそれまずいんじゃな~い?」
「いくらなんでも」
いまさっき任すって言ったのに、文句を言ってくる。
「ほう、太っ腹じゃのう!」
「それでいいでしょうか」
「わしは構わんよ。要はホーライの領地が大陸に作れるんじゃからのう。関税もかからんし、おおいに潤うというもの!」
大満足っぽい。
「とはいえ、じゃ。オフトフェウス殿は首を縦に振らぬであろう。そこはまあ、直接話すとするか」
「ありがとうございます」
話はまとまった。すんなりいきすぎて、怖いくらいだ。
ただ、主上はかなり気落ちしていたみたいだし、大陸の状況もわからずやきもきしていただろう。
きっと、なにかが起こるのを期待していたのではないだろうか。
なぜか、そう思うのだった。




