角笛が鳴る 35 ことの真相
俺が体験したことを話す。
最初から決めていたことだ。ディジアさんとイリアさんを元に戻すためには、どうしても大叔父上の協力がいる。だから俺はガラルに来た。
いつにないひりついた空気を感じ取ったのか、みんな無言だ。一度聞いているはずのメンバーたちでさえもそう。
長い話になるから、と座ってもらった。
「まず初めに、俺は半年以上もの間、眠っていました。というか、死んでました」
「は?」
「最初からこれか……」
「は、半年以上……?」
なにを言っているかわからない人もいるだろう。だが、事実だ。
「フランも参加した帝都近郊での仕事から話します」
アルテト村での出来事は、忘れられない。最悪の始末となった俺にとっての悪夢だ。謎のモンスター、操られた死人、超巨大モンスターは移動要塞で、『時空の門』が内包されていた。そこへ現れる饗団と内通者。まさに絶体絶命だ。
「饗団は時空の門に封じられた悪神の力を欲して――」
「ま、待て! 待たんか!」
「どうしました?」
「なにを言っているのだ。悪神……だと?」
大叔父上がすごく慌てている。
「シント少年の話は真実と私が保証しよう」
マスクバロンがどこからか飛んでくる。
「……私は目がおかしくなったのか?」
「オフトフェウス大公、お初に。私はアルハザードと申す、しがない軍師」
「軍師? どういう……」
「大叔父上、彼はアルハザード卿といって、かつては帝国貴族でした。魔法の実験のようなもの、に失敗し、こんなおぞましい姿に」
「おぞましくはないだろう。自分で言うのもなんだが、可愛らしいのではないか?」
絶対にないな。
「む~……」
「ここで会ったが百年目! この痴れ者!」
「シント、潰しちゃってもいーい?」
「話が進まないから、あとで」
ガラルの子たちはマスクバロンに誘拐されてるし、この反応もとうぜんか。
「大叔父上もいちおう関りのある人ですよ。ほら、ガラルの子たちが誘拐された時の」
「あ、ああ」
「この人が犯人です」
「ぶふぉ!?」
大叔父上はリアクションがすごい。芸人さんになれそう。
「過去のことだ。いまは一切を水に流し、饗団を倒すため、シント少年とともに敵をおちょくり、振り回す謀略の毎日ですな」
言い方。
「マスクバロンは以前、饗団の一員でした。神の力を独占するため、饗団を裏切り、出し抜いたんです。死を偽装して、全員を騙した」
「極悪人にしか聞こえんのだが」
間違いではないかな。
「私は実際、神の力を手にした。だが……あと一歩のところでシント少年によって殺され、フォールンは守られた、という次第」
ウチのメンバーたちは普通だが、初めて聞いた人々はあんぐりと口を開け、二の句も継げない状態だ。
「饗団の真の目的が悪神の力であり、世界をかき回しているのは真実だ。彼らはそれこそ何百年も前から、暗躍していた」
「な、なんという……では公子さまは人知れずそれと戦っておられたと?」
「シャンダール伯、それは違いますよ。ただ、いくつかの仕事で遭遇し、倒したことは事実ですが」
話を続けよう。
「俺は時空の門の中で、悪神のパーツ……左腕と戦いました。なんとか倒しましたが――」
「な、なんだと!?」
「シント・アーナズ……冗談にしか聞こえん」
「待て、息子よ。それにティール侯爵。黙ってお孫様の話を聞くべきだ」
ヘイムダル侯爵が収めてくれたので、さらに続ける。
あの時、俺はたしかに倒した。しかし、やつは自爆。それに巻き込まれ、俺は一度、死んだ。
「二度も聞きたくないわよ、こんなの……」
「胸が苦しくなりますわね……」
そこから目が覚めたあとの話に移る。
地下空間をさまよい続けた俺は、アルレエスさんの墓所、とも呼べる場所にたどり着いた。そしてそこで、ありえないものを見たのだ。
そうだ。過去にあった剣魔大戦の映像だ。
ディジアさんは魔神で、イリアさんは剣神だった。
がた、と椅子の音がする。
目を見開き、転げ落ちそうになっているのはアイシアとウルスラとデューテだ。
「う、うそ……」
「ディジアとイリアが……そんな」
「……だって、あの二人って……」
この三人とディジアさん、イリアさんは割と仲が良かったと思う。ショックを受けるのも無理はない。
「……貴殿の元に……剣神がだと? それに、魔神まで……あの女児らが」
「なんだそれは! いくらなんでも……」
「お孫様……あなたはいったい」
「……なにやらめまいがしてきましたな」
「シント、それは、ほんとう……なのだな?」
ほとんどの人が取り乱す中、大叔父上が見つめてくる。
「信じてくれなくても構わない。だけど俺はほんとうのことしか言っていない」
どのみちやることは変わらないのだ。
「死を超越するとしたら、それはまさしく神の御業だろうが……」
「大叔父上は俺の目的を聞いてきましたよね」
「そうだ」
「俺の目的は、ディジアさんとイリアさんに幸せに過ごしてもらうことです」
彼女たちはすでに一度、世界を救い、滅んだ。二度はしなくていい。
「そのためには【神格】が必要だ。そして外導神を完全に滅ぼす。そうしなくては、二人はいつまでたっても日の当たる場所に行けないんだ」
「シント」
「大叔父上がいないと、ガラルは本来の力を発揮できないんです。だから会いに来ました。さすがに行方不明とは思いませんでしたが」
「……私とて好きで行方不明になったわけではない」
みんなの息が整うのを待つ。
「目が覚めたあとも大変でしたよ。知らない土地で、魔法もうまく使えないし、なんとかフォールンに戻って、メンバーを回収して」
ダメオン侯爵を担ぎ上げてアークスを奪還。パラメイズ港、フォールンを落とし、いまに至る。
「ここまでするのも、全部俺のわがままみたいなものだ。正直、帝国がどうなろうと知ったことじゃない。でも、だけど……饗団だけはだめだ。彼らは間違っている。外導神の真の目的を知らない」
「真の目的……」
「あまり先を聞きたいとは思えませんな」
そうだろうけど、言う。
「俺ははっきりと見ました。外導神は体内に人間を取り込み、燃料としているんです。生かさず殺さず、管に繋いで、魔力を吸い取る。つまりは家畜だ。いや、もっとひどいかもしれない」
室内は沈黙に包まれた。
「剣神――イリアさんはものすごく怒ってましたよ」
誰もなにも言わない。言えない、のほうが正しいか。
「それを知っているのは饗団の長である饗主だけでしょうね。この前、偶然出会って話しましたが、あの人は悪神の目的を知ってもなお、力を取り込むつもりです」
「会ったのか!? なぜ昨日に言わなかった!?」
言ってもどうしようもないことだろう。
そもそもアレスティアスさんのことを全部言うつもりはない。
「反乱の結果がどうなろうと、外導神が復活してしまえば人類は滅亡する」
「……」
「……」
「……」
「……」
「シント公子……貴殿は……それを一人で背負っているのか?」
「俺は一人じゃない。ウチのメンバーがいます。それに、あなたたちも」
「……!」
「!」
ここまで話したんだ。もう他人じゃない。
「巻き込んでしまうようですみませんが、手伝ってくれると嬉しい」
「……巻き込むもなにも、対抗せねば滅亡だろうが。シント・アーナズ、みなまで言うことはない」
「そうだ。ギュスターの言うとおりだ。ここで踏ん張らなければ、終わりか」
ティール侯爵とギュスターさんは以前から饗団を追っていたし、いろいろ話もしていた。だからまだマシだ。
シャンダール伯とヘイムダル侯爵は、唖然としている。
そして大叔父上は悶絶していた。
「私は……つまり、饗団に協力していたら」
「ええ、自分が滅びると知らずに地獄へ突き進む道化になっていたと思います」
「ぬぁ……ぬぁんということだ……」
彼は頭を抱えた。鼻水も出ている。
「俺は饗団を倒し、悪神を滅ぼします。ですが、人同士の戦いには極力関わりません。そこに力を割く余裕がない。天至と機械兵だけをやるというのは、それが理由です。アレらさえいなければ、ガラルが負けるはずもない。でしょう?」
「無論だ。いや、天至とやらも私が斬り伏せてくれよう」
「同感だな。これ以上舐められてたまるものか」
「こうなっては、やるしかないだろうな。大公さま、お孫様の話は壮大すぎて頭がおかしくなりそうですが……目前の危機は真実だ。それを払わなければなりません」
「うーむ……一内政官にできることなどないでしょうが、侯爵の言うとおりです。話はともかく、敵は恐ろしい。なんとかせなばなりますまい」
今度は大叔父上に目が集まった。
彼は襟を正し、大きく息を吐く。
「私は饗主に会った。あの妖しげな雰囲気に、物言い。まるで世界の支配者だと言わんばかりであったよ」
アレスティアスさんは人間離れしている。立ち居振る舞いも【才能】も。
「なるほど、合点がいった。シントの話は、普通に考えればにわかに信じられるものではないが……あの男と会った私には、なんとなくわかる。アレはいかん。好きにさせることはできん」
やる気になってくれたか。
「ティール侯爵、ヘイムダル侯爵、勝てるか?」
「言わずもがな」
「シント公子がいれば、勝つ」
「うむ、いいだろう。これより、ガラル公国は饗団の賊滅に動く。全軍を以て当たってくれ。後方はいささかも心配することはない。なにせ、私が戻ったのだからな」
おお、大叔父上が頼もしく見える。
武の国たるガラル公国の反撃が始まるのだ。




