角笛が鳴る 31 やっぱ重いんだ
グランガラルを離れていたヴィクトリア、ガディスさんを回収し、全員がそろった。
二人を迎えに行った時、とんでもないものをいろいろ見た気がするが、いまはなにも言うまい。
武の達人が集う剣神門上空を離れ、海上牢獄へと向かう。
おおよその場所はわかっているものの、正確な位置はわからない。海上牢獄は島ではなく、海に浮く人工島だという。つまり、移動できるのだ。
存在を知る者が少ないとはいえ、ずっと同じ場所に置いておくわけがない。特に大叔父上クラスの人物が囚われているのなら、なおさらだ。
まずはヘイムダル侯爵から教えられた場所に行ってみるのがいい。
そこから海上牢獄の位置を特定し、急襲をかける。
フロントから見える景色は、すでに夕刻。ほどなくして夜になるだろう。
戦艦ディエンドはルールトアン港付近から海上に出て、順調に進んでいる。
固唾を呑んでアテナの報告を待った。そして。
「マスター、目的地上空に到達しました」
「なんらかの建物は確認できる?」
「いいえ、周辺一キロ以内には特に見当たりません。フロントからの目視による索敵においても、確認できません」
やはり離れていたか。
「南に針路を変更。速度を落とす代わり索敵範囲を限界まで広げてくれ」
「承知いたしました」
海上牢獄がどの程度の速度で移動できるかは知らないが、派手には移動できまい。目立つと怪しまれる。だとすれば、いざという時のためにエーギル家の本拠と近いところに置きたくなるのが人の心理としてはわかりやすい。
それから一時間、二時間と過ぎていき、夜になる。
捜索は問題なく続行。戦艦ディエンドは魔力を検知可能であり、昼も夜も関係なかった。
「……反応、確認しました」
「見つけた?」
「はい。映像、出します」
「ん、これは」
目の前に浮かび上がる立体映像を見る。
かなりの大きさだ。これはただの牢獄ではない。さしずめ海上基地といった様子。
海上牢獄の周囲を軍船がぐるりと囲み、入り込む隙はない。さらにその周りを周回しているであろう船が数隻。備えは万全ということか。
「いざという時は基地に使うつもりかも」
「マスター、いかがなさいますか?」
「全員招集。ディエンドは迷彩をかけたままで頼む」
「はい、では艦内放送にて招集をかけます」
場所は見つけた。すぐに行動だ。
★★★★★★
作戦会議室に全員が集まり、壇上に立つ俺を見ている。
緊張が漂い、マイペースなガラルの子たちも静かに俺が話すのを待っていた。
「さきほど、海上牢獄を発見した。いまはディエンドの真下にある。アテナ、映像を頼む」
「はい」
脇によけ、背後に展開される映像をみんなで確認。
「すご……これって帝都で見たやつだよねー?」
「ここでも使えたのかい?」
「ああ、アテナに設定をいじってもらった」
アルテト村での仕事に参加したメンバーは、帝都で似たようなものを見ている。他のメンバーは驚いて固まっていた。
「牢獄、というよりは要塞に見えるな」
「基地に使うんじゃな~い?」
アイシアとウルスラはガラルの将軍だから、すぐに気づいたようだ。
「周囲を囲む軍船の数は二十二。哨戒を行う船が六隻。まずはこれらを叩き、混乱を引き起こす。その後、戦闘員を牢獄入り口付近に転送。制圧を行う。カサンドラ、グイネヴィアさん、アリステラ、指揮を。ラナとグレイメンさんはタイミングを見て牢獄内に侵入。俺もあとを追う」
異論はなかったが、ウルスラが手を挙げた。
「我らはどうすればいい」
「アイシア、ウルスラは中には入らず、制圧に加わってくれ。敵船がどこからか増援に来る可能性もある。その場合は迎撃を。神剣があれば、負けることもないはずだ」
「わたしはー?」
「デューテはラナ、グレイメンさんの護衛」
「わかったよ」
「シントさん、船を担当するのは誰なんですか?」
アミールの質問を聞き、ヴィクトリアに目を向けた。
「俺とヴィクトリアが空から一網打尽にする」
アークスの時の再現だ。ヴィクトリアは余裕そう。いつもはだいたい寝てたりするんだけど、今日はなぜか貫禄を感じる。あの大虎との勝負は、彼女にかなりの影響を与えているのかもしれない。
「相手に対応させない速さでやる。みんなそのつもりで」
全員がうなずいたのを見て、さらに話を続けた。
「ただし、天至と剣神機がいないとも限らない。アイリーン、アテナ、シスター・セレーネの三人は力を温存しておいてくれ。カサンドラ、フォローよろしく」
「ああ、任せな」
「天至が出た場合は緊急退避。絶対に戦わないこと。重ねて言うけど、絶対に退避だ。いいね?」
ウチのメンバーの中には、何人か挑みそうなのがいるから、念を押しておく。
「行動開始はニ十分後で。解散」
大仕事前特有の雰囲気が漂う中、メンバーたちは準備を始めるため、会議室から出て行った。
が、一人だけ、残っている者がいる。
「ウルスラ、どうしたのよ」
「ああ、おまえは必ず最後に出るとカサンドラから聞いた。話があるなら、その時がいいだろうと」
メンバーから個別に話がある場合を考えて、いつも最後に出るようにしている。意識してたわけではないが、自然とそうなった。
「その……」
「うん?」
「いや、なんというか」
歯切れが悪いな。うつむきがちだし、どうしたんだろう。
「あ、ありがとう。助けてくれたのに、礼が遅れてしまった」
彼女はいつも来ている華美な軍服のすそを掴み、恥ずかしそうだ。
「驚いたな。君が礼を言うなんて」
「茶化さないでくれ……」
「いや、マジでびっくりだよ。明日は天変地異でも起こるんじゃないかな」
「そこまで言うことはないだろう!」
「あ、怒った」
「ち、違う。おまえがからかうから」
ずいぶんとしおらしいので、笑いが込み上げてくる。かつてこんな彼女がいただろうか。否だ。見たことない。
「体調はどう?」
「問題ない」
「無理だけはしないでくれ」
「シント?」
ウルスラの肩に手を置く。思えば、いつの間にか背を追い越してしまった。前の俺からすれば巨大な力の塊でしかなかった彼女は、華奢に見える。
神剣インドラに選ばれし者。イリアさんの眷属といっても過言ではない存在だ。
「さあ、作戦の開始だ」
「そう……だな。行こう」
彼女の腰にある神剣インドラが密かに鳴動している。やる気は十分に見えた。
★★★★★★
準備が整い、戦いの始まりが刻一刻と迫る。
俺とヴィクトリアは昇降口前に待機し、いつでも出られる構えだ。
「ヴィクトリア、行ける?」
「いつだって行けるんだぞ」
よし、気合が入ってる。
俺もまた深呼吸をして魔力を高めた。
しかし、ここで誰かがやってくる。
「シント~」
「アイシア? どうしたんだ」
青い髪を結い上げて、邪魔にならないようにしている。かっこうもいつもみたいな派手なドレス風鎧じゃなくて、ボディラインが浮かび上がるスーツを着ていた。
「わたしも~、船やる~」
「それはいいんだけど、なにそのかっこう」
「あんまりじろじろ見ないで~」
見るなっていうほうが無理だ。
突き出た大きな胸に、締まった腰つき。神剣『水姫』もまたいつになく輝き、美しい。
「シント、目が変なんだぞ」
ヴィクトリアが横目で見てくる。変じゃないよ。気になってるだけ。
「海なら~ わたしの出番なの~」
「神剣『水姫』ならそうだろうけど、どうやるんだ?」
「海中から~ 穴空けちゃう~」
アイシアって泳ぎが得意なんだっけ? 聞いたことないんだけど。
「なにその顔~」
「泳げるんだっけ?」
「そのおっぱいじゃ重そうなんだぞ」
ぶっ!?
いきなりなに言いだすんだよヴィクトリア!
「重いけど~ 関係ない~」
やっぱ重いんだ。って、そんなことを言ってる場合じゃない。
「あのね~ わたし、シントの役に立ちたいの~」
「俺の役に?」
「ディジアとイリア~、起きないって聞いたから~」
そうなんだけど。
「つらそうにしてるし~ 助けないと~」
「!」
びっくりだ。そんなことを考えていたのか。
「少しでも~ 負担を減らしてあげる~ お姉さんだもん~」
ますますびっくりした。始末に負えないだめな妹みたいに思ってたが、なんだかいまは頼もしい。
考えてみれば、アイシアは三つ年上だ。お姉さん、と言われればそうかもしれない。
「そっか。じゃあ頼らせてもらおうかな」
「そうして~」
彼女は微笑んだ。そして神剣『水姫』を抜き放つ。
世界でももっとも美しいと言われる剣は、内に秘める莫大な力を発し、思わず見惚れた。
アイシアも【神格】に選ばれし者だ。ウルスラと同じく、イリアさんの眷属といっていい。なら、止める理由はないだろう。
「下に送って~」
え? 下に送るって、いまにも空に飛び込もうとしてる時なんだが。
「いや、ここから行くよ」
「え~……」
アイシアがものすごくなにか言いたそうだ。
そうだった。高いところが苦手なのだと先ほど判明したんだった。
「あ、ちょ、ちょっと~」
「さっさと行くんだぞ」
ヴィクトリアが彼女をぐいぐい押す。
「落ち……落ちるって~!」
「落とそうとしてるんだから、落ちるんだぞ」
たしかにそうだ。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
落ちた。だいじょうぶなのか、これ。
「わたしも行くんだぞ!」
ヴィクトリアが空に身を投げ出す。
アイシアは……夜の海に消えた。まあ、だいじょうぶだろう。
「じゃあ行くか。アテナ、俺たちが船を叩き壊したらみんなを転送だ」
『承知しました。マスター、ディヴァインの輝きあれ』
いいね、それ。まるで、ディジアさんとイリアさんに応援されているみたいだ。
「奇襲開始」
開け放たれた出入り口から、海上へと飛び込む――




