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角笛が鳴る 27 秘密の牢獄

 大叔父上捜索の進捗を聞くため、一路ペイリースへと向かう。

 一度行ったからかかる時間は一瞬だ。


 ≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫を用いて飛んだ先は、ペイリースの上空だ。

 かつて公都だった大都市は、いまのところ穏やかに見える。

 海からは少し距離があり、グランガラルとも離れていないことから、饗団の手はここまで来ていない。

 すぐに下りて、ラナたちが宿泊する旅館を探す。

 名前はたしか『葡萄亭ぶどうてい』だったはずだ。


 街を観察しながら、旅館を探した。

 武装した人間たちをちょくちょく見かけるのは、その多くが冒険者であるからだ。ここはフォールン、帝都に次いで冒険者が多い街として知られる。

 

 街の案内盤を見て商業区へ。そのあとは露店の人に買い物がてら、場所を聞く。旅館がある住所は、ほどなくしてわかった。

 『葡萄亭』は食堂も兼ねているので、いまの時間なら誰かしらいるかもしれない。

 入ってみると、予想通りラナとタッくんたちが食事を摂っていた。


「あ、シント―」

「うっす」

「ハイマス、来てくれたんか」


 あいさつは笑顔だったが、すぐに渋い顔となった。


「ごめん、あんまり進展はないの」

「いいよ。話を聞こう。こっちでもいろいろあったしね。ダイアナとグレイメンさんは?」

「午後に落ち合うことになってるんだー」

「じゃあそれを待ちながら、話すか」


 お互いに軽く情報交換だ。


「アジトに行こうよ」

「アジト? ここじゃないの?」

「ここは旅館だから」


 首をかしげつつ、旅館を出て、ついていく。

 人でにぎわう場所から離れ、使われていない朽ちた廃屋の中に入る。

 そこにはすでにダイアナとグレイメンさんがいた。


「シント」

「ハイマス、来てくれたんだね」

「お疲れさまです。これでそろいましたね。お互いに情報交換といきましょうか」


 小さなテーブルを囲み、広げられた街の地図を見ながら、話す。

 神の子の件は、さすがにみんな驚いていた。そしてさらに剣神闘技の話題になると、言葉が消える。


「これは……おれたちがいない間にとんでもないことが起きたみたいだね」

「ったく、シントはもうやべえ以外の言葉ねえんだけど」

「まあまあ、次はこっちの番だよ」


 ラナたちが集めてくれた情報を聞く。

 大叔父上はやはりこのペイリースへ来ていた。これは複数の目撃情報があり確定。そしてこの街で足取りが消えたのも間違いないようだ。

 もっとも疑わしいのは市長だそうだが、ギュスターさん率いるヘイムダル侯爵家の厳しい尋問を受けているし、その結果はシロだから、改めて追う意味もないと思う。


「半年も前の事件だ。痕跡があったとして消えているだろう。ダイアナ、そっちはどう?」

「うん……ちょっと、厳しい、かな」


 彼女の顔はかなり曇っている。実の父親のことだから、悔しいのだろう。


「捜索範囲を街の外にも広げてみたけどね」

「ここって大きな街だし、人の出入りも頻繁なの。全部を追うのはさすがに時間かかりそう」


 そのとおりだ。

 

「この街のどこかに幽閉されている可能性は?」

「たぶん、ねえと思う」

「ああ、ウチら、行政府に憲兵本部にっていろいろ入り込んでみたんよ」

「貴族のお宅とかねー」

「あとお金持ちの家とかも」


 だいぶいろいろやったみたいだ。しかもこの短期間で。

 足取りはこの街で完全に消えている。だが、死んだという噂もない。

 

「まるで大河に吸い込まれたって感じなんだよな」

「そうなんよ」


 タッくんとエランさんがそんなことを言う。


「大河に吸い込まれた?」

「おう、おれたちアークスの出身じゃん? 人が消えると、そういう風に言うんだよ」

「まあ、アレよね。ギャングだのマフィアだのに沈められたっていう」

「暗喩? っていうのかな。ウチらはそういうのよく聞いてたけど」


 アークスは大河に隣接した大都市だ。そういった地元ならではの言い方があるのだと思う。

 だけど、引っかかるな。

 ペイリースは海に面しておらず、一番近い港までもけっこう距離がある。


「エルマン運河って近いよね」

「ん?」

「そう……だけど」


 みんなで地図を見る。

 

「エルマン運河は大きいから、街の近くには通さないように作られてる」

「えーと、なんで?」

「タッド、学校で習ったろ。氾濫が起きるとやばいんよ」

「反乱? だからなんでだよ」


 ちょっと苦笑した。氾濫と反乱で食い違いが起きている。


「だけど遠くても利便性が悪いから、程よい距離のところにあるんだけど」


 足取りが途絶えたのは、水の上に運ばれたからじゃないのかな。

 船に閉じ込めておけば、目撃情報はなくなる。

 問題はどこに運ばれたかってことなんだけど。


「もっと大きい地図ある? 周辺までカバーしてるやつ」

「あるよー」


 ラナが別の地図を広げた。

 もしも大叔父上が公国外に連れて行かれたならお手上げだ。しかし、それほどの危険を冒すとは思えない。距離が伸びれば伸びるほど、逃げられてしまう可能性は高まるし、ずっと船にいるわけでもないだろうから、人にも見られる。


 もしも俺が敵ならどうする?

 エーギル家の本拠地であるダルメシアン港は、遠すぎる。そもそも運河は早い段階でウルスラにより封鎖されているのだ。

 だとしたら、海か。


「ペイリースで拉致し、船で運河上を進み、海……」

「え?」

「ハイマスター、もう少し詳しく頼みたい」


 この街にいる可能性は、かぎりなく低い。

 グランガラル周辺にもいるはずがない。

 ここから一番近い敵の拠点もまた、距離が遠く、現実的じゃない。

 そもそも死んでいるとしたら、饗団がそれを宣伝しないのも変だ。

 生きているほうが都合がよい?

 

「手札の一つとしては有効か。殺してしまえば、ガラルの民は頑として降伏を認めないだろうし……うーん」

「シント? どうした、の?」


 細かく考え出すときりがない。

 

「仮に海へ出たとして、どこに行くんだろう」

「待って、大公さまは海に?」


 指で運河をなぞり、ペイリースに一番近い港を指す。

 そこからは北の元ヴァルハラ国に行くか、海の向こうのホーライに行くか、南のダルメシアン港に行くか、の三択だ。


「……もしかして」


 グレイメンさんの顔が蒼白だ。


「グレイメンさん?」

「いや、すまない。おれとしたことがペイリースの固執して、考えていなかったよ」


 なんの話だ。


「だけど……あくまでも噂だからね」

「教えてください」


 いまはどんな情報でもほしい。


「工作員時代に、ちょっとした噂を聞いたことがある。ガラルには海上に秘密の牢獄があるっていう話なんだ」


 海上牢獄?


「なんでも、極悪な犯罪者や、公国にとって都合の悪い人物を閉じ込めておくところっていうんだよ」

「それがこの先に?」

「場所まではわからないけど……政治犯が投獄されるような場所なら」


 大叔父上がいてもおかしくはない、か。

 

「海上にあるのなら逃げ場はない。目撃情報だって出るはずがない。なるほど、可能性はありそうだ。もしも存在しているのなら、だけど」

「シント、どうやって調べるんだよ」

「知っていそうな人に聞くしかない」


 治安の維持や犯罪者の逮捕は憲兵の仕事で、ヘイムダル侯爵家が大きな影響力を持つ。ならばギュスターさんが知っているはずだ。


「ラナ、悪いんだけど先行してこのルールトアン港ってところで情報を集めてもらえないかな」

「いいよ。全力で走ればすぐに着くと思うし」


 【神格】神馬ザンザスのレプリカを持つ彼女なら、そうだろう。


「他のみんなは一度ディエンドに帰還だ。けど、すぐに動けるよう、準備を」


 一気に緊張感が増した。

 そうと決まればすぐ行動。

 宿を引き払い、グランガラルへ帰還。着いて早々、ティール侯爵の元へ駆ける。


「ギュスターならさっきまでここにいたが」

「まだ宮殿に?」

「ああ、いるはずだ」

「わかりました。それでは」

「公子! 待て!」


 いいや、待たない。

 ギュスターさんを探し、駆けまわる。

 もう大声で呼んでしまおうかと思った時――


「君は可憐だ。まるで……そう、陽光を一身に受け、瑞々しく開いた花のように」

「ああ……お戯れを、ヘイムダル卿。叱られてしまいますわ……」


 廊下の隅でメイドさんを口説いている。

 なにしてんだこの人は。魔法でぶっ飛ばしてやろうか。


「しかしその艶やかな唇は、おれを拒んでいるようには思えんがな」

「そ、それは……その……い、いけません……」


 彼は女性のあごに手をやり、なにかをしようとしている。


「じー」

「ハッ!?」


 メイドさんは俺に気づき、慌てて服を直してから一礼。で、去っていく。


「ギュスターさん?」

「いいところだったのだがな。シント・アーナズ、おまえがそんなに野暮な男だとは思わなかったぞ」

「そんなことをしている暇はありません。教えてほしいことがあります」

「ふむ……いいだろう。どうやら、重い話のようだ」


 話を聞く気になったか。

 海上にあるという秘密の牢獄について聞く。ギュスターさんは眉をひそめた。


「初耳だ。海上牢獄だと?」

「ギュスターさんも知りませんか。知っていそうな人は?」

「……そうだな。親父ならあるいは」

「ヘイムダル侯爵が?」


 ヘイムダル侯爵はギュスターさんの父親であり、いまは療養中と聞いた。


「ちょうどいい。おまえも来い、シント・アーナズ。親父に引き合わせよう」

「もしかして、グレンガラルにいるのですか?」

「ああ、最初の戦で怪我を負ってな。それ以来、めっきり元気がない。ヘイムダルの職務もおれにほとんど投げている。そのせいでレディたちと会う暇もないのだ」


 いま、口説いてましたよね?


「すぐに案内を」

「家は宮殿のすぐそばだ。おれたちなら数分で行ける」


 ギュスターさんが走り出す。つられて俺も走るのだった。

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