角笛が鳴る 25 ラグナからやってきた死神
試合はもうすぐ始まる。
少しずつ、会場の熱気が高まってきた。
今回はかなり勝手の違う戦いだ。緊張する。
『対するは…………古今無双の二刀流! わが国でも指折りの剣士! ファビエ・スラース選手!』
すごい。会場が揺れるほどの歓声だ。どうやら有名人らしい。
鋭い眼光をした男性が、両手に長剣を持ち、俺をにらむ。
『このたびは両陣営の希望があり、真剣勝負となっております! さらにさらに! お孫様が敗北しないかぎり! 三連戦! はたして魔法士がどこまでやれるのか!』
魔法士、という言葉が出たとたん、またしても歓声が止まる。
もういいよ! もうなにも言わない!
「それでは両者……はじめい!」
ティール侯爵の合図で、ファビエ・スラースが突っ込んでくる。魔法を使わせないように接近戦を挑もうという意図だろう。
バックステップと同時に腰の後ろから【人造神格】ヨルムリアを展開。
一本につなぎ、大剣形態に移行。
「む……せりゃあ!」
ファビエ・スラースは逡巡したが、回転斬りを放つ。
≪空断≫をまとわせた大剣型ヨルムリアでそれを受け止めた。
「なんだと!」
下がるファビエ・スラース。それではだめだ。俺の間合いから逃れられていない。
魔力の刃を伸ばし、横薙ぎ。
刃は≪界斬≫を発生させ、ファビエ・スラースを襲った。
彼は二本の長剣を盾にするが、終わりだ。≪界斬≫に触れた瞬間、長剣は折れ、吹き飛ぶ。
地を蹴って追いかけるように前へ。
ファビエ・スラースが受け身をとって起きたと同時に、喉元へ大剣をあてがった。
「……まいった。おれの負けだ」
『おお……おおおおおおお! なんということだ! お孫様! 圧勝!』
やっと歓声が上がった。
「勝者! シント・アーナズ!」
これで一勝だ。さっき三連戦と言っていたから、あと二人となる。
ファビエ・スラースが下がっていき、あちら陣営の大将であるダーゲッソ伯爵は悔しそうだ。
「公子、まさかの大剣とはな。それも魔法だというのか?」
「そんなところです」
「ふむ……鳥肌が立つ。試合が終わったあとは私と戦争でもどうだ?」
「それは今度にしてください」
「しかたない。それはそうと、続けてやるのか?」
「はい。おねがいします」
体が熱くなってきた。間を空けたくない。
『信じられないことが起こっています! これがお孫様の力! みなさま! 次の試合もお見逃しないよう!』
開始位置に戻り、次の戦士を待つ。
『さあさあ! お次は『虎狩の騎士』! ジャン・ベルディアの登場だ!』
え、うそ。
思わずティール侯爵を見る。彼は笑った。
「お久しぶりです! ベルディアさん!」
「ああ、ビッグウッド山の時ぶりだ」
かつてともに仕事をした腕利きの戦士だ。まさかまさか、ここで会えるとは。
「まさかですよ」
「そりゃこっちのセリフだ。まさかのお孫様だとは」
「すいません。俺は――」
「いいさ。おおよそのことは侯爵閣下から聞いている。訳ありなんだろう」
彼の精悍な顔つきは、以前よりも数段、鋭くなっている。武者修行に行っていたそうだが、強くなっていると思う。
長剣と手斧のスタイルはそのままだ。しかし油断はできない。
「魔法ではなく、大剣か。楽しみだ」
「お手柔らかにおねがいします」
嬉しい再会ではあるが、手加減はしてくれないと思う。
「では両者……いざ尋常に、勝負!」
「フッ!!」
「速い!」
身を低くして潜り込むように襲いかかってくる。
剣と手斧による連撃は、休む暇がない。
思わず魔法を発動しかけるが、止める。
大剣を大きく振り、いったん距離を離した。
さて、どうするか。俺は剣術の素人。まともに戦うのは得策じゃない。
「まだまだぁ!」
ベルディアさん、容赦がない。またもや息もつかせぬ連続攻撃だ。
悠長にやってる余裕はなさそう。こちらからしかけたほうがいい。
斬り上げてそのまま小さく跳ぶ。ベルディアさんは着地の瞬間を狙うだろう。だから俺は、その裏をかく。
「≪衝破≫!」
足からの≪衝破≫。対象は地面。範囲は限定的にする。要は地面を思い切り踏んだ感じ。
「ぐうっ!?」
地面が揺れ、ベルディアさんはバランスを崩した。
そこへ大剣を振り下ろす。
魔力の刃は、彼の顔面の前で止めた。
「震脚とはな……さすがだ、お孫様。まいったよ」
シンキャクってなんだろう。
「勝負あり! 勝者! シント・アーナズ!」
ベルディアさんにも勝つことができた。
彼に手を差し伸べ、立たせる。
会場が拍手で包まれた。
「そのうち、お話でも」
「ああ、楽しみにしてる」
ベルディアさんは戦友だ。ティール侯爵の差し金なんだろうけど、これについては良い試合だったと思う。
彼は去り、最後の試合が始まろうとしていた。
相手は不満を持つ者たちの中心人物、ユゼフ・ダーゲッソ伯爵だ。
家紋の入った鎧と、無骨な大斧。かなり悔しそうな顔で前に出てくる。
なにか言ってやろうかと思ったが、やめておこう。
『それでは最後の試合と相成りました! ここまで圧倒的なまでの強さを見せるお孫様! 対するは……わが国の名門が一つ! ダーゲッソ家のご当主が登場です!』
けっこう歓声がでかい。この人も有名なのか。
『断層裂流斧術の頂点! 叩き割れぬ物なし! 層を断ち流れを裂くるユゼフ・ダーゲッソさまの斧をとくと見よ!』
なんかすごそう。
「お孫様……な、なかなかにやるようですな」
「ええ、それなりには」
「ところで……我が娘はどうでしょう」
なんの話だ?
「どうと聞かれても」
「親のひいき目なしでもなかなか器量が良いと思うのですがな」
まあ、素敵な女性だとは思うよ? 気が強そうだし、明るそうだし、頑丈そうだし。
「なんの話かわからないんですけど」
「そうですか……」
「ご両者、話はそこまでに」
ティール侯爵にたしなめられてしまう。
「それでは……最終試合! はじめっ!」
最後の試合が開始。
ダーゲッソ伯爵は距離を詰めてこず、じりじりと時計回りに動きながら、こちらの様子を見ている。
斧をゆらゆらさせて、まるで誘っているかのようだ。
なかなかの使い手に見えるが、先の二人よりは強くないと思う。
大剣形態のヨルムリアをかつぎ、振り下ろす。
間合いの外だが、関係ない。
「む!」
跳んで避けるダーゲッソ伯爵。降り際を狙い、大剣で足払いをしかける。
「はあ!」
斧を打ち込み、威力を相殺させようとしているのだろうが、これで終わりだ。
「≪衝破≫!」
ヨルムリアはそれ自体が魔法を備えているけれど、同時に俺が使う魔法の中継点にもなり得る。
大剣から発せられる衝撃波が、浮いていたダーゲッソ伯爵の肉体をポンと弾いた。
「は?」
宙を回転する伯爵は、目が点になっている。
そこへ≪魔衝拳≫を食らわした。
「ずわあああああああああああああ!」
彼は吹っ飛び、あちら陣営まで転がる。起き上がる気配はなし。
「ふふふ……勝負あった! 勝者! シント・アーナズなり!」
勝ち名乗りが終わると同時に、すさまじい揺れが起きた。
耳が潰れかねない歓声が起き、おさまる様子がない。
ウチのメンバーたちが駆け寄ってくる。
みんな嬉しそうだ。
「あんたってさ! ほんとにもう!」
「……次はわたしも出るから」
「ハイマス、マジでやばいわその武器!」
「シント、いつの間にそんな技覚えたじゃん」
「シントさん、素敵でした!」
「ハイマスターは魔法を使わずとも最強でしたか。いったい何度僕を感服させるというのか!」
「驚きまくりですぅ!」
「おにーちゃん、カッコよかったよ!」
「おじ、すごい」
褒めすぎだから。
「ねじ伏せたな、公子」
「ティール侯爵、いろいろと裏で仕組みましたね?」
「それはない。まあ、ベルディアに関して言えばそうだが」
今回はそういうことにしておこう。
「ともあれ、貴殿が勝者だ。もはや誰も文句は言えぬだろう」
「そうならいいんですが」
「この歓声が証拠ではないか?」
ラグナの時とは違い、ブーイングはなかった。
武を示したことで、認められたようだ。
ガラルって単純。やっぱりノリは合わないけど、嬉しくないわけではない。
「このぶんだと、貴殿に娘を輿入れしようとする貴族も多くなるだろう」
……それはきつい。
「紹介せよという望みを断るのも一苦労しそうだ」
「ぜひおねがいしますよ。俺は誰とも結婚などしません」
「わかっている。将来はどうあれ、いまはそのようなことをしている余裕がないのだからな」
「ええ」
やっと一息つけるというものだ。
でも、母さんの故郷で認められるってのも、意外と悪くない――




