角笛が鳴る 24 レディたちの剣神闘技
ガラル公国は最初から武の国だったわけではない。
歴史はかなり古く、始まりは九百年を遡る剣帝の時代とされる。初代ガラルホルン家の当主は剣神の血を引いていると言われているが、その割には功績がはっきりせず、いったいどんな人物かは伝えられていなかった。
帝国の中の国として成立し、長が大公と呼ばれるようになったのは、南北朝時代のことだ。これは約五百年ほど前になる。
ガラル公国は南朝における大きな戦力であり、争いに勝利できたのもガラルによるところが大きい。
このころには、武を奨励し、心身を鍛え、質素な生活をすることが良しとされた。公国の人々は武術を発展させ、武に関連する【才能】を伸ばし、いまに至る。
当初は東沿岸部を使った貿易によっておおいに潤い、なだらかな平地が多い国土を利用した農畜産業が盛んだった。しかし、時代は進み、ラグナの台頭もあってか、対抗意識による武への先鋭化が顕著になった。国民は武に誇りを持ち、ほとんどの者が武芸をたしなむ。
それが変わるきっかけは、俺の大叔父上、オフトフェウス・ガラルホルンの登場だった。
十二年前の大戦後、公国の座に上り詰めたあの人は辣腕を振るい、ガラルの財政に革命を起こした。簡単なことではなかっただろう。とてつもない苦労があったに違いない。
「と、これがざっくりとしたガラルの話なんだけど」
話終えて、水を飲む。
ガラルの人々と試合をする羽目になってしまったのだけれど、この国どんな国? というみんなからの質問に答えてみた。
「歴史が長いぶん、変化を望まない人も多いし、古い家柄の貴族は特にそうなんだろう。大叔父上に対する不満は多いと思うよ」
「それは、経済に傾倒しているから、ですよね」
「そうそう」
アミールがぐいぐい質問してくるから、授業みたいになってる。
「シント君、剣神さまの……じゃなくて、イリアちゃんの子孫というのは、ほんとのことなんですか?」
シスター・セレーネが手を挙げる。
俺はとうぜん、首を横に振った。
「前にも少し言ったかもだけど、やはりそれは嘘だろうとは思う」
「そうですよね。そもそも、人と神の子だなんて」
「どうなんでしょうね。イリアさんに聞いてみようかな」
「うう……それはちょっと。ああ、イリアちゃん、どうか教団をお救いください」
彼女は祈り始めた。
神の子の件で剣大神官が亡くなったと聞いたシスターは、かなりのショックを受けていた。教団を離れているとはいえ、きついだろうと思う。
いちおう、会ったことがあるかどうか聞いてみたが、顔を合わせる前にアークスでの事件があったため、結局会えずじまいだったようだ。
剣大神官がなにか重要なことを知っていた可能性はある。そちらも調査したいところだが、現在の剣神教団総本山は帝国本国内にあるし、剣大神官の住まいもそこだという。いまはそこまで行く余裕がないから、後回しになる。
「そんな歴史、ぶっ潰してやるわよ」
「噛みついてくるなら、わからせるしかないさ」
カサンドラとリーアはやる気だ。
俺はダーゲッソ伯と試合をするんだけど、あの女性たちに関してはみんなに任せた。ていうかあまり間に入らないほうがいいと思う。心からそう思う。
いまは作戦会議室ではなく、ロビーの大きなテーブルを囲んで話をしているわけだが、全員はそろっていなかった。
ミューズさんたち事務方はシャンダール伯にそうとうこき使われているようで毎日ぐったり。今日も夕食時にまだ帰っていないところを見ると、残業かもしれない。
今日は早めに休む、ということで解散。
ラナたちやガディスさんのことも気になるが、焦っても意味がない。
★★★★★★
翌日の正午――
ティール侯爵を先頭に、戦士たちが剣神闘技場へ現れた。
それと観客席にけっこうな数の人がいる。なんかお祭りみたいだ。
「シント公子、待たせた」
「それはぜんぜんいいんですが、なぜ観客が」
「噂を聞きつけた者たちだ。興味があるのだろう」
もの好きなことだ。
「今回、私は審判を務める。いいだろうか」
「もちろんです。助かります」
武器はティール侯爵が用意した木剣や木槍といった木造のものを使う。ただし、両者の合意があれば、愛用のものを使ってもオーケー。その場合は致命傷を負わせるような攻撃はなし。審判であるティール侯爵がそれを見極め、危険なら止める、ということになった。
「手加減はせんぞ、お孫様」
ダーゲッソ伯爵が前に出る。
「構いませんよ。それで俺の相手は?」
「何人でもいいと言うのでな。腕利きをそろえさせてもらった」
彼はにやりと笑う。
「お孫様はどの武器を使うのかな?」
「俺は俺の武器を使います。そちらも愛用のものを使ってください」
「すいぶんと自信があるようだ。まさか、魔法を?」
「いえ、剣でやります」
「なんですと?」
「公子、それは」
これには横で聞いているティール侯爵も驚いている。
「ふ、ふん! 二言はないですからな!」
ダーゲッソ伯爵は自分の陣営に戻っていった。
「貴殿は剣を使えたのか?」
「まさか。でも、使います」
「……そうか。よし、では始めよう」
ティール侯爵は右手を挙げると、会場中に声が響く。
『さあ! いよいよ始まりました! 剣神闘技! 久しぶりの開催となります!』
え、なんかマジでお祭りみたいだ。
観客席に実況席が設けられ、マイクを持った男性が喋り出す。
「ティール侯爵、これはちょっと」
「そう言うな。ガラルの民を元気づけたい」
戦意高揚の一貫、ということか。
『実況はわたくし、フェイルメンが担当いたします! そしてこたびの審判はティール侯爵閣下が務めます!』
ティール侯爵が手を振ると、歓声が起こった。たいした人気だ。
それからルールが説明され、さっそく試合の運びとなる。
『さて! いよいよ始まります剣神闘技! 第一試合はかのリッシュ流槍貫術を継承するリッシュ男爵家の才媛! リネット・リッシュ選手だ!』
赤い髪の少女が前に出て、槍を振り回す。華麗な動きだ。美人だし、人気ありそう。
『対するは……『烈光撃槍』の異名を持つヒヒイロカネ級冒険者! カサンドラ・バルトロウ選手ー!』
カサンドラに対しても、歓声が起きる。意外、ではない。ガラルは武の国であり、腕に自信を持つ冒険者がかなり多いと聞く。武名が響き渡っていても、不思議ではないのだ。
『それではご両者! はじめっ!』
大歓声。七星武界魔錬闘覇の時を思い出す。
勝負が開始され、木槍同士が激しくぶつかる。カサンドラの勝利は揺るぎないだろうが、リッシュ嬢もそうとうなもの。
しかし、実戦経験の差は明らかだ。徐々にカサンドラが優勢となり、最後の突きがみぞおちに当たった。
「それまで! 勝者! カサンドラ・バルトロウ!」
ティール侯爵が試合を止め、勝利者を宣言する。またもや大歓声。見事な試合だったと思う。
続けてグイネヴィアさん対レオニー・ダルキアさん。グイネヴィアさんは左手に長剣型の木剣。右手には手甲と一体化した小盾というスタイル。
観客席から、あれが狂乱の戦女か、と感嘆の声が聞こえた。
やっぱり有名なんだな、グイネヴィアさん。
試合は割とすぐに終わった。グイネヴィアさんが終始有利にことを進め、態勢が崩れたところへ、喉元に木剣を突きつける。とうぜんの結果だ。彼女は見た目の派手さから想像できない堅実さを持つ。
そして三試合目。
アイリーン対イザベル・アーキタニアさんが戦う。
この勝負は一瞬で終わった。
間合いに踏み込んだイザベル・アーキタニアさんは、アイリーンの『閃光剣』によって胴を打たれ、気絶。
観客席は少しの沈黙の後、とてつもない大歓声に包まれた。
ティール侯爵でさえ、何度もうなずき、楽しそうにしている。
機械兵をすら両断する閃光の剣を止められる者はいないのだ。
トリを務めるのは、リーアだ。
相手はマルスリーヌ・ダーゲッソさん。武器は奇しくも互いに同じ大斧。
これは少し緊張する。どう考えても強者だ。
始まった試合は、互角で進む。
数十もの打ち合いで、二人の木斧が砕けた。
新たに用意された武器で彼女たちは再び打ち合う。
「そりゃあああああああああ!」
「ぐっ!」
リーアの鋭い打ち下ろしが、マルスリーヌ・ダーゲッソさんの木斧を叩き割った。
「それまで! 勝者! リーア・ナイトレイ!」
「うし!」
「……やられたわ」
勝敗は決まった。ウチの全勝だ。
会場はおおいに沸く。『烈光撃槍』『狂乱の戦女』『首狩りの鬼女』『猛女虎』の名はさらに轟くことだろう。
試合が終わったあとはみんなちゃんと握手してたし、わだかまりはなさそうだ。うんうん、これでいいのだ。
『さあ! みなさんお待ちかね! 我が国の先代ご当主さまのお孫様! シントさまのご登場!』
俺の番が来たか。
またもや大歓声……なのだが、それは最初だけだった。
『ラグナの公子がはたしてどこまでやれるのか! 魔法の申し子! ガラルにやってきた死神だ!』
し、死神?
観客もひどい。ラグナ、という名前が出たとたん、歓声がぴたりと止まったのだ。
歓迎されてないのか。とうぜんなんだけど、なんかつらい。
ラグナの時はブーイングだったし、今回は沈黙。俺がなにしたっていうのよ。




