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角笛が鳴る 23 今日はなんなの

 問題が発生、というマスクバロンからの話を受け、とりあえず急いで宮殿に向かう。

 走りながら少し話を聞いてみたが、彼もまたよくわからないそうだ。

 なにやら不満を持つ者が集まっているとのことだが……


 広い玄関ホールに着くと、人だかりが見える。

 中心にいるのはティール侯爵。彼に向かい合っているのは、武装をした中年の男性だった。


「ダーゲッソ伯爵、そうがなり立てることもないだろう」

「侯爵閣下! すぐに会わせていただきたい!」

「いま呼びに行かせている」


 俺の顔の横にいるマスクバロンは、ちょっと笑っていた。


「君に会いたいようだな」


 そうは言うが、ダーゲッソ伯爵と呼ばれた人とは会ったこともない。

 とにかくティール侯爵が困っているので、隣に立った。


「俺になにか用でも?」

「公子、来てくれたか」

「ほう? この青年が」


 伯爵はいかにも武人といった体つきで、顔にも傷があった。見た目からして頑固そうだ。


「シント・アーナズです」

「ユゼフ・ダーゲッソと申す。あなたは先代のお孫さまで相違ないか?」

「ええ、そうですが」

「しかし、ラグナの者でもある」

「俺はラグナではありませんよ。ガラルでもありませんが」


 いまの一言だけで、なにが言いたいのかなんとなくわかった。


「噂に聞きましたぞ。我が軍を指揮するおつもりとか」


 そんな噂になっていたか。違うんだけどな。


「それは違いますよ。俺はただ、仕事をしに来ただけですし」

「ふん……信じられませんな」


 彼の後ろでは、そうだそうだ、とか、よそ者などに、とか騒いでる。


「そもそも剣神闘技場を占拠するなど、誰の許可でそのようなことを」


 ティール侯爵です。


「いかにお孫様とはいえ、ガラルで生まれ育った者ではない」

「ダーゲッソ殿、いくらなんでも言いすぎだ。公子は――」


 言いかけた侯爵を止める。


「伯爵はもしかして、急に出て来た俺がどさくさまぎれに大公の座へ就くのでは、と疑っておられるのですよね?」

「!」


 考えればわかることだ。ガラルはラグナにかなりのライバル意識を持っている。先代の孫とはいえ、いかにも魔法士の俺が威張っているのは、我慢がならないのだろうよ。


「そうだ。我らは剣神の祝福を受けし戦士よ。簡単に納得はできん!」

「ダーゲッソ殿……はあ、まったく」


 気に食わぬ、と直球で言う伯爵には、ティール侯爵もため息をつくだろう。

 

「あなたの心配は取り越し苦労ですよ。俺は母さんの故郷に立ち寄っただけだ」

「だが、侯爵はあなたを大公に就ける気であろう」


 そうなの?

 前に言ってたのは冗談じゃなかったのか?


「私はそのようなこと、言ってはいないが」

「侯爵が常々、お孫様についていきたい、と言っているとの情報がある」

「私個人の話だ」

「そう簡単に信じられるものか」


 これは厄介だぞ。ダーゲッソ伯の周りにも多くの貴族らしき人々がいる。

 この先どうなるかわからない戦いを前に、この人たちが離反でもしてしまったら、えらいことになってしまう。


「力を見せればよろしいのでしょうか」

「……ほう?」


 伯爵の目がぎらりと光る。


「いいですよ。ちょうど訓練もしたかったし」

「しかしですな、あなたは剣を振るったことがおありか? いまこうして見ても優男にしか思えんが」


 そりゃあ俺は魔法士だから、剣は使わない。

 けど、魔法を使って勝っても、この人は納得しないだろう。


「好きなだけ、強い人を集めてください。明日にでも勝負をしましょう」

「言いましたな? もしも我らを納得させられぬような力ならば、出て行っていただく」

「ダーゲッソ殿、なんということを」

「侯爵、口出しはやめていただきたい。すでに約束は交わされた。漢と漢の約束である」


 ダーゲッソ伯爵は不満を持つ者達をぞろぞろと連れて去っていた。

 ずいぶんと騒がしいことだ。


「すまないな、シント公子」

「いえ、ですが妙な噂になっているみたいですね」

「しかたあるまい。貴殿らの登場はそれほどに衝撃だったのだ。それに加え、公女たちのいずれかと貴殿が婚約をしたとの話も出てきている」

「はあっ!?」

「ど、どうした」


 なんだそのあほらしい話は。


「誰だその千パーセントありえない噂流したやつは!」

「貴殿がそのように大声を出すとは」

「……失礼しました」

「婚約については別段おかしい話ではないと思うがな。貴殿も公女たちも年頃だろうに」


 そういうものかもしれないが、少しも納得できない。


「しかし、いいのか?」

「では聞きますが、ティール侯爵があの人たちのような立場であれば、簡単に納得しました?」

「まあ、しないな。あのような態度にはならんが、少なくとも力は試そうとしただろう」


 そうだよね。わかってました。

 

「ガラルへ来る前に、こうなるかもとは考えていましたので」

「さすがだ」


 ティール侯爵がにやりとする。

 

「楽しそうですね」

「それはそうだ。現在の貴殿の力を見てみたい」


 この人、わざとこうなるように仕組んだんじゃないだろうな。怪しいんだけど。


「場所は剣神闘技場にしましょう。戦艦ディエンドは少しの間、上空に置いて、場所を空けます」

「ではそのように通達しておこうか」

「ええ、よろしくおねがいします」


 うっきうきなティール侯爵と別れ、宮殿を出る。

 すると、タイミングを見計らったようにマスクバロンが飛んできた。


「シント少年、どうだった?」

「まあ、なんとか。ここへ来る前に予想していたことが現実になりましたよ」


 ラグナにおいて魔法の【才能】が絶対的な価値を持つように、ガラルにおいては個人の武が絶対的なステータスとなる。力を示さないと、誰もついてはこない。


「そうか。それでなのだが、問題が発生した」

「……冗談ではないんですよね?」

「ああ、我らが拠点でもめごとが起きているようだね」

「なんですって?」


 それは聞き捨てならない。

 すぐに駆けて、闘技場まで行く。

 ほんとに今日はなんだっていうんだ。



 ★★★★★★



 宮殿から数分ほどダッシュして、剣神闘技場へと到着。

 いったいなにが起きているかと思えば――


「何度聞かれてもシントはいないって言ってるさ」

「……そろそろつまみ出す」

「はあ? あなた何様?」

「一目見たいだけって言ってるでしょ」


 訓練をしていたであろうウチのメンバーと、武装した女性たちが向かい合って、言い合っている。


「腕に自信がありそうだけど? 私ら、これでも武門の出身なわけ。どいてくれないかしら。あの中にいるんでしょ? お孫様」

「悪いけどあれ、わたしらの家なのよね。ブモンだかなんだか知らないけど、土足で入れるわけないわよ」


 リーアがにらみつける。しかし相対する女性もまた長身で抜群のスタイル。迫力は同等だ。


「ちょっと落ち着くじゃん? あんたら、武装してきたら会わせらんないっての」

「そっちこそ、ずいぶんと物々しいじゃない。武装してくるのは当たり前でしょう」


 間に入りたくねえなー……

 ウチの男性陣は……いないか。どこかに出かけているんだろう。

 シスター・セレーネは後方であわあわしてるし、アイリーンはすでにカタナに手をかけ、いつでも首を取れる構えだ。


 しかしまた、カサンドラ、グイネヴィアさんたち、リーアと長身の女性が居並ぶのは迫力がありすぎる。

 いっぽうで押しかけてきている若い女性たちも長身で、槍や斧を持ち、圧巻だ。


「あのー」


 しょうがないから、声をかけてみる。


「シント、戻ってきたのかい」

「へえ……あなたが」

「ふうん、外見は……まあいいわね」


 女性たちが俺を囲み、近くでじろじろ見てくる。

 それを得物でさえぎったのは、ウチの女性陣だ。


「ちょっと」

「邪魔よ」

「いきなり近づくんじゃないわよ」

「……マジでつまみだす」


 なんて険悪な雰囲気だ。


「とりあえず用事を聞かせてほしい」

「見に来ただけよ」

「そっ、お孫様ってのが、どんな男かってね」


 彼女たちは噂を聞いて来たようだ。

 名を聞くと、自己紹介はしてくれた。

 赤毛で槍を持っているのは『リネット・リッシュ』。男爵家の息女。

 ブラウンの長髪を巻いているのが『レオニー・ダルキア』。子爵家の娘。

 イエローじみた金髪の少女が『イザベル・アーキタニア』。男爵家出身。

 最後はグレーの髪をした一番大柄で一番強そうな女性だった。名前は『マルスリーヌ・ダーゲッソ』。伯爵家のご令嬢らしい。ダーゲッソってさっきの人だよね。まさか親子?


 それにしても貴族の令嬢たちがそろってご登場か。

 みんな気が強そう。


「筋肉はあまりなさそうね」

「そこはラグナの殿方だもの。しょうがないでしょ」

「ね、公女さまとご婚約ってほんとなの?」

「ガラルにはいないタイプね。ちょっと興味が出てきたわ」

「あんたら、なにを好き勝手言ってるんだい。いい加減にしな」

「……あんたたちうるさい。邪魔。帰れ」

「ちょっとさー、こちとら暇じゃないわけ。帰ってお茶でもしてたら? お嬢さまがた?」

「話があるなら、ティール侯爵に取り次いでもらうといいじゃん」


 おー、ウチの女性陣も負けてないなあ。


「なによ、ムカつくんだけど」

「それはこっちのセリフさ」

「へえ、やる気?」

「……とっくにやる気」

「舐められたものね。勝てるとでも?」

「言う前にさっさとかかってきたら? まっ、でも負けるとわかっててやるわけもないか」

「はあ?」

「いいからさっさと出ていくじゃん」


 こりゃだめだな。なんとかしよう。


「あー、えーと、明日にですね、ダーゲッソ伯爵と試合をすることになりました。みんなもそこで雌雄を決したらいいのでは?」

「え? お父さまが?」


 やはりマルセリーヌ嬢はそうだったか。姓が同じだから、親子だと思った。


「面白いじゃない。そこの槍使いは私がもらうわ」

「いいさ。やれるもんならやってみな」


 すごい。闘気が渦巻いているようだ。

 とにかくもこうなった。

 いささか不安だが、なんとかなるだろう。

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