角笛が鳴る 21 進化する魔弾
神の子の子孫を求めたちょっとした旅は、思いがけない展開となって、ついには饗団の長――饗主と顔を合わせることとなった。
良いも悪いも含めて多くの情報を得たけれど、俺たちがやることはほとんど変わらない。
グレンガラルへと帰還する前に、剣大神官の遺体を埋葬し、その後、書宝館も少しばかり調べたが、たいしたものはなかった。
俺とアレスティアスさんの魔法戦で少々――かなり壊してしまったから、なにも回収できなかったわけだ。
きっと素晴らしく貴重な書物もあったとは思うが、諦めるしかないだろう。
体験した出来事をウチのメンバーに話してみたが、みんなしてカサンドラたちと同様の反応だった。
本来、人間には一つしかあたえられないはずの【才能】が五つ。これは規格外などという言葉で片づけられるものじゃない。
あの人が持つ【才能】は一つ一つが恐ろしいものであり、それが五つというこは、俺たち――特に俺などでは想像できない高みにいるのだと思う。
【螺旋念砕】【方向転換】【超速回復】【才能感知】そして【霊子操作】。
しかもこれらを組み合わせて、様々な用途に対応していると感じた。
最強の存在があるとしたら、それは間違いなくアレスティアスさんに違いないだろう。
ガラル公国に来てから四日が経ち、残ったメンバーたちの訓練にも熱が入っているようだ。
大叔父上捜索についてはラナたち次第だが、合流までまだ四日もある。ここは一つ、ガディスさんを見習い、俺も自身の魔法を高めるべきだ。
アレスティアスさんとのやり合いはちょっとしたものだったけど、ヒントがたくさん散りばめられていたと感じる。
俺が主に使う無属性魔法の最上級の【才能】を持つあの人の魔法は、どれもが息を呑むほどに美しく、強烈なものだった。
解釈によって【才能】も魔法も、どこまでも強くなれる。
その言葉は、敵の長が言い放ったものであっても、俺の脳髄に衝撃をもたらした。
戦艦ディエンドが停泊する『剣神闘技場』のすみで、目をつむり、深く集中する。
俺が倒す敵は、天至。それが三体だ。
奴らが持つ力の一端を見た。どれもが一筋縄じゃない相手だ。
特に、天下無双とやらを目指すイズラフェイルという天至は、公国最強クラスのウルスラを圧倒していた。
やつ自身がまるで雷。速さと強さを合わせ持つ、【神格】に選ばれし者をも超えた強者だ。
また、神剣インドラの攻撃を受けてもぴんぴんしていたことから、雷撃に対して極めて高い耐性を有しているものと考えられる。
俺がいま持っている魔法では、捉えきれない。
次に進むためにも、俺は俺を超える必要があるのだ。
ふと、気配がする。
これは【神格】神剣シャルウル。そしてデューテか。
「怪我はもういいの? デューテ」
「……やっぱり気づいてるし。シントの邪魔しないように黙ってたんだよ?」
「神剣シャルウルの気配は大きいんだ。いやでも気づくよ」
彼女は柱の陰から出てきた。
「まだ休んでたらいいじゃない」
「あんなの、ごはん食べて寝たら治るもん」
「そっか」
あいかわらず頑丈だな。
「見てていい?」
「ああ、構わないよ」
なんか物静かだな。別にいいけど。
再び集中。ヨルムリアはそのままに、もう一つ手を用意しておく。
切り札である領域型魔法は、まだまだ改良の余地があった。
これについてはかなり前から気づいていたが、思い出したくもないあの出来事のおかげで半年以上も眠っていたから着手できなかった、と言い訳しておこう。
より強固な、破られることのない魔法。人間ではない邪悪な存在、天至を殺すための魔法だ。
俺やおじい様の使う領域型魔法は、言わば殻である。対象を閉じ込めて逃げられなくすることができるものの、対処法がないわけではない。つまり、破られる方法がいくつか存在するのだ。
イメージとしては閉じない領域。かつ逃れられないもの。
おぼろげに浮かんできた。だが、まだだ。
「ふぅー、さすがにすぐってのは無茶だな」
「終わり?」
デューテは石段に座り、足をぶらぶらさせていた。
「ああ、少し休憩する」
今日の彼女は、サイドで髪を結ってはいない。こうしてみると意外にも髪が長いんだな。
「ねえ、あの時言ってた『死んでた』ってどういうことー?」
「それはみんなそろってから話そうと思う」
「みんなって?」
「大叔父上だね」
いまこの国にはとても大きなピースが欠けているのだ。
「ディジアとイリアは?」
「……いまは眠ってる」
「死んでないなら、安心した」
今日はほんとうに静かだ。別人かと思うくらい、おとなしいんですけど。
しばらく見ない間に大人になったってこと?
それは……なんだか調子が狂う。
「あの、さ」
「うん?」
「……」
マジでどうした。
「……あの時、上から降ってきた槍って」
なんだ、そんなことか。いきなり黙るものだから、実はもう戦えなくなったとか言われるかと思った。
「神槍ゲイボルグだよ」
「所有者になったの?」
「いや、そういうわけじゃない。そもそも【神格】は所有物じゃないしね」
「??」
あの時はデューテが危ないと思ったから、とにかくぶん投げた。
光を伴う槍はやすやすと機械兵のシールドを貫通し、一撃で破壊することができたのだ。
「槍……そうだな。槍か」
そういえばアレスティアスさんも槍みたいな魔法を使っていた。
いいね。イメージが固まってきた。
いくつもの派生を生み出し、進化させ続けてきた≪魔弾≫を、もう一段上げたい。大きなヒントになりそうだ。
「シント、ガラルを助けてくれるの?」
おっと、会話の途中だった。
「いちおう、契約を取り付けたし、天至と機械兵はウチが受け持つよ」
「そうなの?」
彼女は目を丸くしている。
「そういやアイシアとウルスラは?」
「ねえさまたち、まだ寝てる。ウルスラねえさまは特にきつそうだったけど」
あれだけやられればしかたのないことだ。ほんとうに間に合ってよかった。
「どうやったら、あんな簡単に倒せちゃうの?」
「機械兵のこと? 簡単ではないんだけど、仕組みがわかれば対処のしようはあるんだ。アレは強力なシールドをまとっているから、それを剥いでからじゃないとダメージを与えられない」
「そっか。あの硬さはそういうことだったんだね」
剣だけでは、容易に剥がせない。剣と魔法の両方をうまく活用しなければ、倒せないのだ。
「うん、シントはやっぱりシントだね。シントは……ほんとに」
なんのこっちゃわからんが、答えておこう。
「俺は俺だよ。俺以外の何者でもない」
「うん、そうだよね」
デューテは楽しそう。まばゆいばかりの笑みを見せる。
「デューテはこれからどうするんだ?」
「わかんない。わかんないけど……」
座りながら握る石段の部分が、みしみしと音を立てる。
「このままじゃ、だめなんだ。せっかくシントが戻ってきたのに、このままじゃ、きっと」
「デューテ?」
怒っているのか、それとも悔しいのかな。
「わたし、すぐにわかったよ。シント、【神格】をたくさん持ってるでしょ」
「たくさんではないけど、あるね」
「しかも、使いこなしてる」
「借りてるだけさ。俺には使いこなすことなんて」
「ううん、いいんだよ。はっきり言っちゃっても」
俺はたまたまディジアさんとイリアさんと長くいっしょにいたから、【神格】は力を貸してくれているだけだと思う。
「ね、シント。わたしに力の使い方、教えて?」
驚いたな。デューテが人に教えを求めるのか?
天衣無縫にして、自由奔放を絵にかいたような彼女が?
少し考えてみよう。
力の使い方、か。それは戦闘法のことではなさそうだ。【神格】のことだろうと思う。
「わかった。だけど、もう少し休んで、万全になってからのほうがいい」
様子がおかしいし、ぜったいやせ我慢しているはずだ。
「わかった。でも約束だよ?」
「ああ、約束だ」
デューテはぴょんと跳ねて、立つ。
「そーいえば、このでっかいのってなに? 家なの?」
「戦艦だよ。いまは俺たちの拠点」
「センカン……?」
「もっと言うと、【神格】魔龍『九頭流布』の一部だね」
「はわー……見てるとざわざわしてくる」
「中を見ていったら?」
「うん、そうだね。見学しよっかな」
彼女はてくてくと歩いて行った。
これは……ほんとうにどうなっているんだ。調子が狂う。
「まあいいか。修練を続けよう」
再び全メンバーがそろうのは、四日後だ。神の子の子孫捜索がすぐに終わったおかげで、わずかに時間の余裕がある。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
俺もいまのうちに、最大限の準備はしておこう。




