角笛が鳴る 18 煌めく【才能】
ちょっと考えたい。そう言ってアレスティアスさんは思考の海に飛び込んだようだ。微動だにせず、足を組み、くつろいでいるようにも見える。
この状況でどうしてそうなるんだ。この人はいつだって、俺の想像の外にいる。
俺は彼から決して意識を離さないようにして、カサンドラたちを見る。
相手はおそらく饗団の戦士『負式』だ。油断できない相手だが、ウチのメンバーだって簡単にはやられない。
「フッ!」
「……!」
呼気。
そして鋭い槍の一撃が、敵の頬をかする。
カサンドラはさらに突きを繰り出して、翻弄。
速い。そして正確だ。
アルテト村へ行った時よりも数段、腕が上がっていると思う。
「姉さん!」
リーアの後ろに控えるアミールが、スリングショットで弾を飛ばした。
鉄球、だろうか。
空を裂いて飛ぶ弾は、男の肩に当たる。
そこをカサンドラが突き、痛撃を与えた。
「……あのガキをやるぞ」
「ああ」
奴らは短いやり取りで、アミールに狙いを定める。
だが、リーアがそれをさせない。
「おっ……りゃあああああああああああ!」
ハルバードの思いすぎる薙ぎ払いは、当たらなかった。ただし、石の柱を粉砕し、欠片をばらまく。
敵も強者だ。とうぜんそれを避けて下がるわけだが――
「死になよ!」
リーアはあろうことか、ハルバードを逆手に持ち、投げた。
一直線に飛んだ槍斧は、男の一人を貫き、串刺しにする。
まさか得物を投げるなんて、思いもしない。
これで三対二。
だが、男たちがひるむ様子はない。死をも恐れない戦士か。でも、彼女たちは負けない。
「リーアさん!」
アミールが自分の持っていた長剣を渡した。
それを受け取り、敵の攻撃を受け止める。
「がーお!」
左手に嵌めた虎のガントレットから鋭利な爪が飛び出した。
一瞬、驚いた男がほんの少し怯んだ隙をカサンドラは見逃さない。
彼女は身を低くして潜り込むように進み、残った二人丸ごと足を払う。
彼女と相対していた男は跳んで避けた。が、リーアたちと戦っていた男は足をしたたかに打たれ、転ぶ。
「!」
「あんたは終わりさ!」
すぐさま繰り出された大上段からの振り下ろし。
穂先で見事に叩かれた男は顔面が潰れ、動かなくなる。
「ちいっ! こうなれば!」
最後の一人が懐から奇妙な物体を取り出す。
グリップのついた、黒光りする筒だ。
そいつは引き金を勢いよく引いた。
爆音が響き、次いで煙と火花。
まさかの『銃』か? しかも小型だと?
「ふう……危ないとこだったさ」
「なにっ!?」
光を放つ障壁が、カサンドラたちを守っている。
≪ライトシールド≫。
一周年の記念で贈った髪飾りから発生するシールドが発動していた。
「って、シールドに穴空いてるんだけど、姐さん?」
「いいじゃないか、逸れたんだから」
「悠長にしゃべるなど!」
男は銃による追撃をしようとする。
連発が可能だなんて、驚きだ。でもそれも終わり。
アミールの狙いすましたスリングショットが、銃にぶち当たる。
そこへ姉のカサンドラが突っ込み、槍で喉を貫いた。
「ごふ……」
見事すぎる手際だ。心配する必要は少しもなかった。
倒れた男たちはもう立てない。これで戦闘は終了。
「へえ、その三人はそこそこいい【才能】があるみたいだね」
「ウチのメンバーは、やられたりしません」
アレスティアスさんは素直に驚いている。
前にも思ったが、この人は【才能】を見抜く【才能】を持っているのだろう。
「これであなた一人です」
「僕はもとより一人だ。誰も追いつけないところにいる」
絶対的な自信だ。
「で、シント。饗主はどうするのさ」
「やる?」
カサンドラとリーアがそれぞれの武器を手に、俺の両隣へ来た。
「ねえ、シント。君、もしかして女神の力を持っているんじゃない?」
彼は座ったままの姿勢で、口の前で両手を合わせる。いちいちポーズが様になっているから、変な気持ちになってきた。
「剣魔大戦の映像を見たのなら、神話が間違っていることも知ったはずだ。そこで得た力かな」
自信たっぷりだけど、それは違う。
「だとしたら……僕は君を嫌いになりそうだよ」
「嫌い?」
「敗北した神に助けを乞い、乏しい【才能】を補おうとするなんて……それはもう負け犬だ。終わってるよ、君は。そんなのがジークの息子だなんて、がっかりだね」
好きに言えばいい。どのみち、ここで終わりだ。
「けど、その武器は気になる。【神格】の所有者になったのか」
「所有者ではありません」
「嘘は嫌いなんだけど」
「嘘ではないし、俺が嫌いなんでしょう?」
「なりそう、って話だよ」
アレスティアスさんは、すっと立ち上がった。
「少し、確かめる必要があるね。ああ、君たちはコレの相手でもしているといい。僕はシントと話がしたいんだ」
彼が力を解き放つ。
すると、倒された饗団の戦士たちがびくびくと跳ね始めて、見たくもない最悪の光景が生み出された。
肉が爆ぜ、盛り上がり、骨格すらも変える。
「モンスター!?」
「嘘でしょ!」
「なんてことさ!」
あっという間に戦士達の亡骸は怪物へと変貌した。
人間であったころの面影は少しもない。
二足歩行の獣、と形容するしかない肉の塊が声もなくカサンドラたちに迫った。
「くっ!」
「だめだめ、シントは僕の相手をするんだ」
アレスティアスさんから、莫大な魔力が放出される。
この圧迫感。たぶん、おじい様よりも上だ。
「カサンドラ! リーア! アミール! いったん離脱だ! 狭い所はまずい!」
「わかってるさ! 行くよ! あんたたち!」
「なんなのこいつら!」
彼女たちが持つ得物では、室内だと不利だ。
「うまく逃げられるといいね」
どの口でそれを言うのか。
ともあれ、これで一対一か。
「邪魔者はいなくなった。聞かせてよ、君の話を」
俺には話すことなんてない……いや、あるな。うん、大事な話があると思う。
「ところでアレスティアスさん、お金を返してほしいのですが」
「お金? 君から奪った覚えはないんだけど」
「いえ、初めて会った時、コーヒー代を払わず、俺に押し付けたじゃないですか」
「……ああ! そうか。あの時、なにか忘れているような気がしたんだ。そっか……コーヒー代だったのか」
彼は困った顔をした。
「でも僕は金を持たない主義でさ。今度払うよ、今度」
いやそれ払う気ないヤツじゃん。
「それはいいとして、【神格】があるなら、提供してほしいんだよね」
「それはできません。【神格】はモノじゃない。おねがいは聞けません」
「おねがいじゃないよ。命令なんだ、これは」
「そんなもの、聞くはずがない」
「ねえ、シント、ほんとうにやる気なのか?」
「ええ、いまここであなたを倒せば、戦争は終わる」
「そうだね。終わるね」
饗団はアレスティアスさんの強烈なカリスマ性によって、まとまっていると思う。
実際、『負式』の連中は、彼の話を聞いても動じなかった。
身も心も捧げるとか、そんなくだらないことを考えているんだろう。
「話ではわかってもらえそうにないか。だったら絶望的な差でわかってもらうしかない」
彼は両の腕を軽く広げた。
「君の魔法……面白いものだと思う。属性から言って無属性。きらめきがないことを鑑みて、一番下の【才能】だろう」
「なにが言いたいのですか」
「怒らないでよ。事実確認さ」
確認はいいけれど、間違っているんだよな。
「それを【神格】で補っている。だよね?」
「違いますが、あなたがそう思うなら、それでいい」
【才能】があろうがなかろうが、どうでもいいことだ。
「ふっ……」
微笑みとともに、アレスティアスさんの体が宙に浮く。
これは、間違いなく魔法だ。ほんの少しだけ術式が見えた。
「僕の【才能】は【螺旋念砕】。無属性魔法では最上級のものだ」
この人はやはり魔法士。最初に抱いた直感は間違いじゃなかった。
「飛翔の魔法ですか」
「無属性魔法は、もっとも汎用性が高いからね。習熟すれば、さまざまなことができる」
それについては完全に同意だ。
「まずは一撃。≪砕鋼念波≫」
掲げた手から放たれる凄まじい衝撃波。
「≪全方位障壁≫!」
「おお、固い固い」
俺のシールドにひびが入る。なんて魔法だ。
「≪漆黒ノ翼≫!」
「シントも飛翔を使うのか。ますますおかしいな」
おかしくなんてない。
余裕のアレスティアスさんに向けて、≪魔弾≫を撃つ。
書宝館の中で空中戦が始まった。
負けるわけにはいかない。
ここで終わらせるんだ。




