アーティフィシャル・デイヴァイン 18 助っ人登場
とりあえずの問題が解決したことで、俺たちはさっそく作業にかかる。
タタラズさんとガネハさんが黒蛇竜の盾の溶解と製鋼に移る中、俺は魔導具作製の設備前でミュラーさんから説明を受けることとなった。
作業台の上に置かれた神剣ハルペリアは、剣身が半ばから折れ、柄もボロボロだ。痛々しい姿を見ていると胸が締め付けられる。
「こうして【神格】を解析するのは、俺にとっても初めてのものとなる」
彼の顔は険しい。
「君は魔導具がどのように作られるか、知っているだろうか」
「すみません。魔導具は興味こそあれ、仕組みまでは把握できていません」
自分の不勉強が憎らしい。
「仕組み自体はそう複雑なものではない。まずは燃料――これは魔力であり、通常は魔晶石を用いる。それを術式を編みこんだ回路版とつなぎ、器に収める。トリガーとなるものは様々だ。魔法士が使うなら、魔力を込めればそれで動く。魔法士でない者が使用する場合は、スイッチ等を備え付けるわけだ」
「勉強になります」
ここら辺は想像の通りだ。
「より大がかりな魔導具ともなれば、仕組みは変わらないが、構造が複雑となる。何層もの回路版を重ね、それが連動するよう組み込むのだ」
「なるほど」
ミュラーさんの話はわかりやすい。
「今回は未知の代物だが……構造を解き明かし、術式をコピーするか、取り出さねばならない」
「それは……可能なのですか?」
「不可能ではない」
ちまたで使われる魔導具に備わる術式は、全部が公開されている初歩の魔法のものだ。
台所で使うのは≪ファイア≫であったり≪アクア≫といった子どもでも使える魔法だったりする。
そういった初歩のものであれば、コピーするのは難しくないだろう。
だが、今回は【神格】である。
「魔導具技師に必要な【才能】は、魔法に関係する【才能】。それはわかるな?」
「もちろんです。魔法の【才能】があれば、簡単に回路版を作れそうですし」
自分の頭の中にある術式を思い浮かべるだけでいい。
「そうだ。そしてもう一つは『眼』」
め?
「術式を確実に捉えられる『眼』があれば、自分の中の術式は要らない」
「すでに存在する魔導具を見て作ればいいのか」
「その通りだ。どちらかの【才能】がなければ、技師として成功はしない、と言われている」
そうだよな。公開されている初歩の魔法を書き写すだけなら、時間と修練でなんとかできるだろう。ただ、上を目指すならそこからさらに踏み込んだ特殊な技能――つまり【才能】が要る。
「ミュラーさんは『眼』のほうですか?」
「ああ、そうだな。そしてこと修復という作業に関しては『眼』のほうが重要になるだろう」
やはり、この人に頼んで正解だった。
「君も術式を眼で捉えられる。そうだな?」
「ええ、一応は」
魔法で強化することにより、見ることができる。
「通常、魔導具に使用される術式の数は最大でも十程度だ。そのレベルなら俺一人でも十分」
「しかし今回に限っては、いくつあるかわからない……」
「二人であれば、解析にかかる時間を短縮できるはずだ」
それで俺とミュラーさんの二人ってことか。
いいだろう。やってやる。
「ではさっそく解析にかかろう」
呼吸を整え、意識を眼に集中。神剣ハルペリアの中に注意を向ける。
だが、その瞬間――
「うっ!」
「……これは」
いま、ありえないものを見た。
ミュラーさんも驚いて固まっている。
「いまのは……」
「……」
アルレエスさんから『【神格】は数千もの術式の集合体』と聞いてはいたが、実際に見て冷や汗をかかずにはいられない。
予想を超えた術式の集まり。集合体などという生易しいものではない。
何十層もの術式が複雑につながり、球形と成していた。いったいどう解いたらいいのか、まるでわからない。理解が及ばない。
おおよそ人が踏み入れていい領域ではない、と思ってしまった。
それくらいにはとんでもない物。
これが【神格】か。
なるほど、すでにして気が狂いそうだ。
「おい、どうしたんだ」
ガネハさんの声。
返事ができそうにない。
「いや、問題ない。作業を続けよう」
これを続けるというのか。
いや、やるしかないだろう。
再度、解析を試みる。
改めて確認すると、鳥肌が立った。
人の手で作れるものじゃない。芸術とか美術とか、言葉にするのだっておこがましいような美しさに思考が停止しそうだ。
数千もの術式でありながら、まるで一つの術式みたいに感じられる。
だけど、やはり機能していない。
全体が黒ずんでいて、生きているとは到底思えなかった。
どこから手をつければいいのか。
視るのをやめる。
息が詰まりそうだ。
「アーナズ、どう見えた?」
「球形……幾千の術式でありながらも、それでいて一つになっている……ような」
「そこまで見えたのか」
「ミュラーさんはどうですか?」
「いまの俺の力では、ある程度の輪郭と表面の一部だけだ」
時間がかかりそうだな。いったいどこまでできるのか、予想ができない。
「一週間だなんて、生意気言ってすみませんでした。これは難物ですね」
「いや、やれるかもしれない」
へ?
なんで?
「分業だ。君が視る。俺が指示する。それでいい」
「マジですか!?」
「これは望外の収穫だった。君は……ふむ。この世でもっとも【神格】と関わっている者だと言える。それがうまく作用しているのか」
なんかぶつぶつ言ってる。不安になってきた。
「続きだ」
「は、はい」
そうして何度も視る。作業に熱中していたせいで時間があっという間に過ぎ、早朝だったのが夜になっていた。
「アーナズ、休むといい。今日はここまでだ」
「いえ、やります」
「せめて食事をしろ。目が持たないだろう」
たしかに疲れた。眠いし、腹減った。
「一日目でこれだけの情報がわかったんだ。かなり速いペースだと言える」
「そうですね。わかりました」
ミュラーさんの言うとおり、いろいろとわかったことがある。
女神の真名を口にすると神剣ハルペリアが少しの間、活性化するのだが、球形術式の奥に光が灯ったのだ。
機能しないものとするものを判別できた。これはとても良い感触だと思う。
ミュラーさんの計画では、まだ生きている術式と機能していない術式を分け、生きている方を星異界ノ雫、またはそれとつなげた回路版に移す。しかして後、タタラズさんとガネハさんがマグナダイトにて修復した神剣に組み込む、というものだ。
一階に上がって、勝手にメシを作り、食う。
で、気が付けば朝となっていた。
どんだけ疲労してたんだ、俺は。
これはいろいろとまずい。すぐさま地下に降りる。
職人三人はすでにいて、作業中。声をかけられる雰囲気じゃないな、これ。
なんて言ってる場合ではない。
「ミュラーさん、すみません。遅れました」
「構わない。慣れない作業で疲れるのは当たり前だ。とりあえず顔を洗ってくるといい。ついでと言ってはなんだが、食事を用意してくれると助かる」
なんだなんだ。ミュラーさんにそんなことを頼まれるなんて、思いもしない。
それならちょっとフォールンまで戻ろうか。
思いついたら即行動。
フォールンまで飛んで、ルーナちゃんに料理を頼む……んだが。
「それだったら、わたしが一緒に行ってお世話しますね」
「うーん?」
「だって、みなさん外に出てらっしゃいますし」
みんなにはそれぞれ仕事を頼んでいるし、出発の準備もある。
ルーナちゃん、寂しいんだな。
ありがたいと言えばありがたい。
んじゃあ、ミューズさんに言ってからそうするか。
アダガンドにて鍛冶と魔導具作製をしている旨を伝え、ルーナちゃんとともに戻る。
彼女は初めて見る山の中の街に跳び上がらんばかりだ。
「は~……ヒゲのおじさまがいっぱいいます」
「ドヴーの男性だよ。土の民と呼ばれてる」
目を丸くして、きょろきょろ。俺もフォールンに初めて来た時はこんな感じだったかもしれない。
ガネハさんの家に戻ると、そこに客が待っていた。
イニバーズの三人だ。
「アーナズ、どこ行ってたんだよ」
「我らはずっと待っていたんだが」
「まあまあ、お二方。こうして女性を連れていることですし」
「ああ? おまえさん、まさかおれたちのこと忘れて、楽しくお出かけにしゃれこんでたってのか?」
うん、忘れてた。すいません。
彼らは協力してくれるというので、待ち合わせしていたんだった。
「こちらはルーナちゃん。ウチの従業員です」
「おう、よろしくな、嬢ちゃん」
「同族か。私はニクラス・ウインダルフ。どこの出身か、差し支えなくば教えてほしい」
「小生はイブン・ラハド。以後よろしく頼みますぞ!」
「あ、は、はい。私は、その、ルーナ・シルフグリム、です」
固くなってる。
「シルフグリム、か。シルフガルダの傍系だな」
ニクラスさんが一人で感心していた。なぜだ。
「ところでイニバーズは傭兵もやるのですか?」
「そうだな。やるな」
「ということは、君のところで傭兵を、ということだろうか」
「というか、ドラグリアの族長のところで傭兵をおねがいしたいんですが」
ぴた、と三人は固まった。
「ド、ドラグリア……?」
「族長……だと……?」
「シント・アーナズからの助っ人だと言えばだいじょうぶなので」
「それはいったいどういう」
「いちおう怪しまれないように、一緒にハイランドへ行って女王と会ったことを話された、とでも言ってください」
「は?」
「な、なに?」
「ではじゃんじゃん稼いでください。≪空間ノ跳躍≫」
「ちょっとーーーーー!」
「なにをする気――」
「アーナズ殿ーーーーーーーー!」
三人はふっと消えた。ダメオン侯爵はまだパラメイズ港から動いていないという話だし、作戦本部にでも送っておけばいいだろう。
あの三人は実力者で、他人とも無理なく話せる。すぐに溶け込めるはずだ。
「あのー、シントさん? あんまりなのでは……」
「え? そう? いやでもほら、仕事を手伝ってくれるっていうし」
「わたしにはしないでくださいね?」
しないしない。今回は急ぎだからしかなかっただけ。
ともあれ、心強い人たちが味方になった。これからも戦力を増強していこうと思うのだった。




