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アーティフィシャル・デイヴァイン 19 鳥の叫びみたいな声

「というわけで、しばらく彼女が来てくれますので」

「あの、ルーナ、です。よろしくおねがいします」

「おう、坊主のギルドの新顔か。おれっちはタタラズだ」

「アルス・ミュラー。魔導具技師をしている」


 と、タタラズさんとミュラーさんはいいのだが、ガネハさんはルーナちゃんを黙ってみている。


「あのー」

「坊主、こんなろくに片付けてねえ家に娘っ子連れて来てどうするつもりだ?」

「ろくに片付けてねえ自覚あったんか」


 俺もタタラズさんと同じこと言いたい。


「ルーナちゃんは料理ができますし、頼りになりますよ」

「そうかよ」


 あんまり歓迎されてないのか?

 ルーナちゃんも少しガネハさんのことは怖いみたいだ。


「まあ、とにかく、下にはあんまり近づくなよ。危ねえモンが転がってるからな」

「は、はい」


 彼はそう言ってさっさと地下に言ってしまった。


「わたし、嫌われちゃったんでしょうか」

「いや、んなことねえよ。ありゃあたぶん驚いてんだ」


 驚くって、なんで?


「あいつの若い時は、酒と鍛冶と喧嘩しかしねえ野郎でな。東区のガネハっつったら、泣く子も黙るって話だった」


 急に興味深い話出てきた。


「喧嘩して帰っちゃあ、師匠に『喧嘩なんぞしてんじゃねえ。鍛冶師の手がぶっ壊れたらどうする』って怒鳴られてたな」

「荒っぽいですね」

「けどよ――」


 タタラズさんの顔が曇る。


「おい! タタラズ! ミュラー! 続きだ!」


 いいところで地下からでかい声が届いた。


「おっと、おれっちたちは下に行ってるぜ」

「アーナズ、君はルーナ嬢を観光にでも連れていくといい。本格的な作業は午後からだ」

「いや、しかし」

「君は君が思っている以上に消耗している。目が潰れても構わないというなら、そうしてもいいが」


 目が潰れる!?

 そんなに酷使していたというのか。


「わかりました。ペース配分に気をつけます」

「ああ、そうしてくれ」


 彼らはさっさと下に行ってしまった。


「シントさん、下になにがあるんですか?」

「鍛冶とか魔導具とかを作る場所なんだ。興味ある?」

「はい。シルフ町にはありませんでしたから」


 ないのか。そういえば、エルフの鍛冶師って、聞かないな。

 種族によっていろいろあるみたいだ。


「市場に行こう。そこで食材を買える」

「はい!」


 元気が良くてよろしい。

 


 ★★★★★★



 ルーナちゃんを案内して必要な場所を教えたあとに家へ戻り、作業を開始。

 神剣ハルペリアの解析は、非常に困難なものだ。

 俺が眼で捉えている術式をなんとかして書き写そうとしているのだが、これがうまくいかない。

 見えている術式は密集し、球形を為していた。どこからが始まりで、終わりなのか、いまのところわからないでいる。


「……っはあ! はあ……は……」


 眼を離して、息を吐く。

 これだけ長い時間を集中するのはかなりこたえた。


「だめだな。ところどころが欠けていて、意味をなしていない」

「こっちもだ。おそらくはもう機能していないものなのだろうが、これでは移しても使えない。それに、やはり文字が違う上、列のパターンも現代魔法とは異なる」


 ミュラーさんはそうとうに疲労している。

 

「旧帝国以前……いや、言うなれば神代文字か。解読まで行わなくてはならないな」

「俺は少し読めます」

「なんだと?」


 ディジアさんが古書だった時、途中までは翻訳されていた。だから、少しなら読める。

 そういえば、マスクバロンが翻訳者のことを気にしていた。たしかに不思議だ。誰なんだろう?


「だけど、口語ではありませんし、読んでると脳がひりつきますね」

「だろうな」


 このままだとほんとうに何年かかるかわからないぞ。

 アプローチの仕方を変える必要がありそうだ。

 

「ん、この香り」

「夕食の時間か」


 あっという間だ。

 いったん休憩、ということで、みんなで階を上がる。


「おお、こりゃあいいな。こっちに来てようやくまともなメシを食えらあ」


 片付けられたテーブルび並べられた、色とりどりの料理。

 ルーナちゃんを連れてきてよかった。作業への集中ができるというもの。

 さっそく卓について、全員で食べる。うん、うまい。


「……ふん、うめえじゃねえか」

「ありがとうございます……」


 ガネハさんは仏頂面だ。いちおうは褒めているようだが。

 食べ終わったあとは、片付けて皿を洗う。ルーナちゃんは自分がやるというが、そこは譲れない。俺がやろう。

 で、彼女をフォールンへ送り、俺たちは再度、作業に臨む。


 そうやって一日、また一日と過ぎ、進捗はなかった。

 ミュラーさんもあごに手を当てて、なにかを考えている。


 さて、どうするか。

 ただ見ているだけでは、まったく進まないのだ。

 【神格】は独自の意志めいたものを持つ。コンタクトを図れればあるいはとも思うのだが。


「アーナズ、君の持つ【神格】を用いて共鳴できないだろうか」


 彼も似たようなことを考えていたようだ。

 可能性はあるが、はたしてどうだろうか。

 

 ……ヒントはある。

 いま思い出したけど、アルレエスさんは疑剣サナトゥスか神機クロノスがあればどうのと言っていた。

 あれ? それってマスクバロンのことだったっけ?

 いや、待て。


「くぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「急にどうした」

「坊主、いきなりでけえ声出すんじゃねえよ」

「なんか鳥みてえな叫びだったな」


 なんで気づかなかった、俺。


「ちょっと行ってきます。すぐに戻りますので」

「アーナズ?」


 ≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫を用いて一路フォールンへ。ギルド本部に行き、ダイアナを探す。

 彼女は施設内の隅にあるテーブルでおやつを食べているところだった。


「あ、ダイアナ」

「シント、どうした、の?」

「いっしょに来てほしい」

「??」


 手を掴み、再び≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫。アダガンドへと戻った。


「……シント?」

「ごめん! どうしても手伝ってほしいんだ。おやつならいくらでも買うから!」

「……おやつの、ことは、別に……」


 恥ずかしそうにするダイアナをガネハさんの家の中に連れて行く。

 

「ダイアナさん?」

「ルーナ、ちゃんも?」


 あいさつもそこそこに、地下へ。

 タタラズさんは普通だが、ガネハさんは眉をひそめる。


「おい、坊主、今度はなんだぁ?」

「すみません、ガネハさん。この子はダイアナ・ダインスレイ。ダイアモンド級ダブルの冒険者です」

「いまはミスリル級、です」


 そうか。ダイアナは春の更新で昇級していたってことか。

 てか、一年半でミスリル級って、早すぎね?


「久しぶりだな、ダインスレイ嬢」

「あ、はい。ミュラーさんも」

「知り合い……でしたっけ」

「たびたびマジックゴーグルのメンテナンスをしていたからな。支障ないだろうか?」

「あ、最近、少しずれる、というか、ぶれる、というか」

「承知した。ここで直そう」


 あー、そりゃそうか。点検するならとうぜん製作者のところに持っていくわけだし。

 あいさつが済んだところで、本題に入る。


「ダイアナ、サナトゥスの力を貸してくれないか?」

「うん、いいけど」


 俺は以前、【神格】疑剣サナトゥスと対話したことがある。サナトゥスが神剣ハルペリアの中を俺に直接投影できないか、と考えたのだ。


「待て。疑剣サナトゥス、だと?」

「言ってませんでしたっけ?」

「は、はあ? 待て、坊主。別の【神格】だと!?」

「おれっちも初めて知ったぜ。まさかダイアナの嬢ちゃんが?」


 これには全員が驚いている。


「ただならない剣だとは思っていたが……」

「サナトゥス、恥ずかしがり屋、だから。いつもは、おとなしい、です」


 そーなんだ。人見知りする剣ってこと?


「シント、どうすれば、いいの?」

「神剣ハルペリアの霊子……いや、この場合は根源っていうか、意識を俺に投影してほしい。できそうかな?」

「……ちょっと、難しそうだけど、相談、してみる、ね?」


 風向きが変わったと感じる。

 ダイアナは意識を集中し、疑剣サナトゥスと対話でもしているかのようだ。

 数分後、彼女は顔を上げた。


「たぶん、できる」

「よかった。頼むよ」

「いまから、シントの意識、中に、送ります」


 んん?


「もし、戻れなくなったら、わたしが、入る、から」


 戻れなくなる?

 ま、まあいい。どのみちやれることは他にないんだ。


 俺は椅子に座らされ、目の前には作業台に置かれた神剣ハルペリア。

 今までとは別種の緊張が訪れる。


「いきます……サナトゥス、おねがい!」


 なんだ、これは。

 まるで、体の中身が吸い取られるみたいだ――

 

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