ドーン・イン・フォールン 30 再会
「まずはこれね」
ミューズさんから書類の束を受け取る。内容は今回の戦いにおける報告だった。
「なになに……アイリーンってアレを五体もやったのか」
誰が誰を倒し、捕縛したか。将軍や隊長クラスをやったのは誰なのかが書かれている。アイリーンは機械兵をなんと五体も斬り捨てた。
「アルフォンス長官とビョー子爵、副長官さんからおねがいされたのよ。あとで報酬にするとか言ってたわ」
武功ということだな。
第七地区のミラビン将軍は俺が市外へ追放。実際はガディスさんが捕縛したから、これは修正。
第六地区のガーデマン軍長はカサンドラが仕留めた。
第五地区のダン・デ・ダン将軍はジョルジオがノックアウト。
乱入してきた冒険者については、けっこう名のある人たちが多くて、ウチのメンバーたちがだいぶやってくれた。この部分だけでそうとうな枚数がある。
最後の大広場では機械兵をアイリーンやシスター・セレーネ、アテナ、ヴィクトリアが破壊した。とんでもない戦果だ。
「それと苦情ね」
「苦情?」
「ええ、副長官さんから、できれば早めに岩の巨人をどけてくれると助かるって」
それはすぐにやろう。
「行政府施設も憲兵本部も使えないから、冒険者庁がいま臨時の行政府になってるわ。ただ、貴族がだいぶいなくなったし、動かせる人材が少なくて大変みたいよ」
あとで顔を出しておくか。
「饗団の残党がまだ潜んでるかもしれないって、みんなまだ少しぴりぴりしてる。そっちは憲兵隊と冒険者が当たってるわね」
とうぜんだろう。
饗団側についた冒険者のうち、自ら進んで奴らに協力したり、街の人々を虐げていた者はライセンスをはく奪。フォールンから追放された。
アルフォンス長官の指示で従うふりをしていた人たちのほとんどは最後の戦いに加わってくれたので、お咎めはなしだ。むしろ昇格しそう。
メルディアンマスクズ、ワーカーズのギルドマスターは逃亡。姿を消した。
この二つは反乱が始まった直後から饗団に与したので、言い訳ができない。ほとんどのメンバーが逮捕され、これも追放。投獄されないのは、囚人を養えるだけの余裕が街にはないからだ。
「ミューズさん、銀行はどうなりました?」
気になっていたことを聞く。
「襲われたりはしてなかったみたいよ。まあ、そこまでやっちゃったら激しい暴動が起きてたでしょうし。街がもっとめちゃくちゃになってたかも」
そのとおりだな。もしもそこまで饗団が横暴だったら、俺の出番はなかったかもしれない。
中身についての詳細はビョー子爵かアルフォンス長官に聞いたほうがいいだろう。
「次は朗報。スーパーマーケットの従業員や店舗の人たちが見つかったわ。もちろん無事よ」
「それはほんとうによかった」
タタラズさん、ミミルさん、ロレーヌ伯、サヴィールさんにジュールズ社長。みんな生きていたそうだ。彼らにもこのあと会いに行こう。特にタタラズさんには用事がある。
「シント、フォールンから出るのよね?」
予定ではそうだ。
だが、いまは急げない。準備を整えなければ。
「一週間はここにとどまります。ですが、冬を迎える前に出ますので」
「わかったわ。その間は休業?」
「冒険者ギルドはそうします。ただ、店舗は各個人に任せましょう」
「スーパーマーケットは?」
「ジュールズ社長と店長のミスタさんにおねがいして、できるだけ営業を。ドルーマン会長とも話をしてきます」
「オッケー、そっちはわたしがやるわ」
やっぱりミューズさんは得難い人だ。もう頭が上がらない。
「一週間後にここを出ると、みんなに通達しておいてください。それまで準備をしてほしい」
「わかったわ」
俺の方でもやりたいことがある。
「ただ、あくまでの予定ですので、状況次第では変わります」
「……また戦いが起こるのかしら」
「フォールンではしばらくないと思います。あるとしたら、南部の饗団軍ですね」
「まあ……そうなるわよね」
ダメオン侯爵の状況はマスクバロンから聞こう。
また忙しくなりそうだ。
★★★★★★
まずは新本部に向かう。荒らされてはいないと聞いたが、はたしてどうだろうか。
施設の敷地に入ると、庭に人が集まっている。
そこで会いたかった人たちと再会をした。
「タタラズさん! ロレーヌ伯! それにジュールズ社長!」
「坊主!」
「やあ、シント君。生きていたね」
「ふう……ようやくだなあ……久しぶりだよ、アーナズ君」
手を取ると、泣きそうになってしまった。いや、泣いてた。
「おいおい……おまえさん、おれっちに会ってそんなに嬉しいのかよ」
「びっくりだな。君がそんなに泣くとは」
「そんなに泣いてます? 普通だと思いますが」
「滝のような涙なのに、喋り方はいつも通りだね……さ、さすがはアーナズ君だよ」
嬉しいものは嬉しいからしょうがない。
「みなさんはどこに避難をしていたのですか?」
「ああ、それなんだが」
ロレーヌ伯から説明を受ける。
彼らは反乱が起きた時、ウチのメンバーたちをはぐれてしまった。
商業区では激しい戦いがあったから、地下壕に逃げ込んだそうだ。
「私の薬局に地下室を作っていてね。ここでも研究ができるようにしておいたのだが、役に立ったよ」
そいつはびっくり。ロレーヌ伯の薬局には、広い地下室へと通ずる隠し扉があるみたい。そこにウチに出店していた人々を匿い、機をうかがっていた。
「古街の家には戻れなかったものでね。まあ、備えあれば憂いなしだ」
ロレーヌ伯は笑ったが、タタラズさんとジュールズ社長はビミョーな顔だ。
「まあ、その、まさか棺桶の中で眠ることになるとは思わなかったけどね」
「あ、ああ、そうだぜ。ロレーヌ伯は変わりもんだ。助かったけどな」
うーん? まさか……
「なかなか生活の習慣は抜けないものだ。はっはっは」
以前、ロレーヌ伯のお宅へお邪魔した時、彼は棺桶の中で寝ていた。それをいまも続けているのか。
「ところでシント君。ディジア君とイリア君はどうしたのだ? 君たち三人は亡くなったかもと聞いた。もちろん、信じたりはしなかったが」
「二人は寝てます。無事ですよ」
「それはよかった。彼女たちもまた私の恩人だ。私より先にいなくなるなど、ありえないことだよ」
ロレーヌ伯の気持ちが嬉しい。
「タタラズさん、さっそくで申し訳ないのですが」
「わかってるぜ。こっちに来な」
「ロレーヌ伯とジュールズ社長にもおねがいがあります」
「構わないよ。いますぐかね?」
「なんでも言ってくれ。私はもう君のところの社員みたいなものだからね」
頼りになる大人たちがそばにいるのは、マジで安心する。
「いますぐというわけではありません」
「だったら、あとで我が家に来てはどうかな。タタラズ氏とジュールズ氏とは酒を飲む約束をしていたし、ちょうどいい」
「おっ、いいじゃねえか」
「それはありがたい。楽しみですよ」
おじさんたちが盛り上がってる。俺としても異論はない。
ロレーヌ伯は一度邸宅に戻るそう。ジュールズ社長には時間まで休んでもらおう。
俺はタタラズさんとともに、彼のお店に入った。
「盾を取りに来たんだよな?」
「ええ」
彼には黒蛇竜の盾の修復をおねがいしていた。すぐに持ってきて、カウンターにドスンと置く。
黒蛇竜を象った模様。黒をベースに金で縁取りされた、どこからどう見てもカッコ良すぎる盾だ。
「店はだいぶ荒らされたが、こいつは無事だ。ロレーヌ伯のとこに持ち込んでおいたぜ」
「そんな……他の武具だってあるのに」
「坊主、こいつはおれっちの最高傑作だ。これを敵の手にやるなんざ、ありえねえこった」
「ありがとうございます」
タタラズさんは、へへっ、と笑った。
「ですが、すみません。もう一つあるんです」
「新しい注文か?」
「言い換えるなら、再注文、ですね」
「なんだそりゃ」
これから俺は困難な注文をしなければならない。だが、彼にしかできないことだ。
「タタラズさん、前に預けた剣はありますか?」
「――!!」
注文の内容に気づいたのだろう。
「ああ、もちろんあるぜ。あれもロレーヌ伯のとこに移しておいたからな。けどよ、請け負っちゃみたものの、いまもまるで見当がつかねえんだが」
タタラズさんは申し訳なさそうだ。
彼は奥の部屋に行き、すぐに戻ってくる。手にしているのは、モンスターウォーズの際に拾った【神格】神剣ハルペリアらしきものだ。
剣身が半ばから折れ、宿しているはずの力はもうほとんどない。
だが、いまならわかる。
これは間違いなく【神格】だ。
手に取ってみる。かすかに感じる波動。完全に死んでいるわけではない。
もしかしたらまだ望みはあるかも。
「目覚めろ……【イリィズアルスフォリアカデス】」
真の名を口にすることで、神剣ハルペリアが動き出す。
しかし、それはほんの一瞬。
「おいおい……いまのはなんなんだ、坊主」
「……まだ、生きています」
「たしかに光ったがよ」
「これは神剣ハルペリアだ。ですが、瀕死の状態と言っていい」
「マジかよ……」
アルレエスさんから聞いた話を思い出す。【神格】は数千もの術式の集合体。つまり剣でありながら、人知の及ばぬところから来た魔導具でもある。
「どうやら、あてがあるみてえな面だな」
あて、と言っていいかはわからないが、可能性はあるはずだ。
「あの人の力が要る」
魔導具といえば、彼しかいないだろう。
「そういや坊主、フォールンに戻る前はどこにいたんだ?」
その話か。タタラズさんは信頼している人だから、話そうと思う。
そうなると、ロレーヌ伯やジュールズ社長にも言っておいたほうがいい。
「少し用事を済ませてきます。ロレーヌ伯の邸宅で落ち合いましょう。話はその時にでも」
「おう、わかったぜ」
神剣ハルペリアを再び預け、タタラズさんのところを後にする。




