ドーン・イン・フォールン 31 再会・Ⅱ
タタラズ武具店を出て、すぐ先にある俺たちの本部に向かう。
外から見るかぎり、壊されてはいない。元のままだ。
中に入ると、ウチのメンバーが集まっていた。
「シント、起きたのかい?」
「おはよう、です」
「うん、おはよう。本部はどう? だいじょうぶそう?」
みんなの顔を見るに、特に問題はなさそうだ。
「もともと貴重品は置いておりませんでしたし、だいじょうぶといえばそうなのですが……」
「メリアムさん?」
彼女は少し、暗い顔だ。
「金庫がなくなっていましたわ」
「お釣りに使うのと経費用に五百万アーサルくらい入ってたニャ」
「それと、スーパーマーケットはかなり荒らされてたみたいです」
「ひどいよ」
事務方のメンバーはだいぶ怒っているようだった。
スーパーマーケットの食べ物についてはしかたのない部分もある。
お金については悔しいけど、被害届を出しておこう。憲兵隊が機能を回復すれば、犯人が見つかるかも。
「ハイマスター、動くのであればご指示を」
「クロードさん、いまは休んでください。フォールンを出るのは一週間後になります」
彼だけでなく、他のみんなもやる気だ。アークス、フォールンと大きな戦いが続いたのに、力がみなぎっているようだった。
我がギルドは大仕事を乗り越えるたびに強くなってきた。これから先の困難な仕事も成し遂げられるはずだ。
「まずは休息をとり、その後に準備を頼む。みんな装備がボロボロだしね」
「ああ、わかっている。だが」
ガディスさんは険しい顔だ。
彼の続きを、アテナが言う。
「マスター、単独での行動はおやめくださいと、注意させていただきます」
「それはそうだねー」
「そうです! 心配します!」
アンヘルさんが目を潤ませている。
「天至と戦えるのはあんただけじゃん? けど、手伝いくらいはできる」
「そういうことだ。おれたちを頼れ」
「みんな、ありがとうございます。次はそうしますよ」
少々過保護だろうと苦笑しつつ、改めておねがいした。
よし、次は冒険者庁に向かおう。
★★★★★★
かなり久しぶりに来る冒険者庁は、多くの人でごった返していた。
いまは臨時の行政府となっているのだから、当たり前だ。
フォールンを解放してからまだ二日とたっていない。
「あとで来たほうがいいか」
邪魔するのは申し訳ないと思う。が、受付前で副長官のボークラーク卿とばったり遭遇してしまった。
「アーナズ君! ちょうどよかったぞ。今から君のところへ行くつもりだった」
「副長官、休まなくていいのですか?」
「私は問題ない。妻と子にも会えたし、ぐっすり眠れたからな」
疲れ知らずだ。
「憲兵本部のことはすみませんでした」
「……たしかに全壊とは思わなかったが……」
若干、げっそりしている。
「構わんよ。フォールンを取り戻せたことに比べれば、安いものだ」
「岩巨人はあとで解体しますので」
「ああ、頼む。それよりもすぐに上へ来てくれ。ビョー子爵とアルフォンス長官が待っている」
うなずき、副長官とともに二階へ上がった。
なんでか知らないけど、みんなから拍手される。とても居心地が悪い。
長官の部屋に入ると、見知った顔があった。
フォールン総監代行ビョー子爵。それと冒険者庁長官のアルフォンスさんだ。
「アーナズ君! よくぞ……戻ってくれた!」
アルフォンスさんは老体に見合わぬ動きでやって来て、俺の両手を取った。
ビョー子爵は微笑みと咳をしながら、うなずく。
「お二人も、ご無事で」
「私は君が死んでしまったなど、少しも信じていなかった! いつか戻り、会えると……」
めっちゃ泣いてる。
「まあまあ、アルフォンス殿。その辺に……ごほ、ごほ」
「す、すまない。感動のあまり……くう」
「お二方、まずは話をしようではないか」
三人に勧められ、椅子に座る。
そして、いろいろと話を聞いた。
ビョー子爵は反乱の直前、帝都へ戻るよう使いの者が来たが、病弱を理由にとどまった。そうしている内に饗団軍がやってきて、身動きがとれなくなったそうだ。
「ようやく仕事をせずによくなった、と思いきや、働けと言われてしまってね……ごほ。自分の優秀さが恨めしいよ……ごほ」
うーん、この人は相変わらずだ。
「私には冒険者をまとめて隊を編成しろと言ってきてね。逆らうよりは従うふりをして、機を待つと決めた。街の人々が許してくれるとは思わないが……」
「いえ、正しい判断だと思います」
おかげで最終局面では多くの冒険者たちが饗団の軍を離れ、味方となった。
この二人は潜伏していた憲兵を支援していたと言うし、素晴らしい働きをしたと思う。
「アーナズ君はまさに英雄だ。君が戻ったことで一気に状況が変わった。改めてお礼を言わせてほしい」
「俺はただの冒険者ですし、英雄ではありません。英雄がいるとしたら、あなたたちだと思いますけど」
「それは謙遜だと思うがね……ごほ、ごほ。ところで君はフォールンに戻るまでどこにいたのだ? 聞けばアークスとパラメイズ港を奪還したというし、南方で戦っていたのかい?」
「いえ、半年間寝てました」
「うん……?」
「半年間、寝ていた……?」
全てを説明するのは難しい。
「簡単に言うと、半年間封じ込められていた、というところでしょうか」
「そ、そんな」
「アーナズ君、それはほんとうか? なにゆえ、そのようなことに」
副長官のたくましい顔が曇る。
剣魔大戦や外導神のことは省き、さっと話す。
「超巨大モンスターだと!」
「しかも大量のモンスター……」
「信じがたいことだが、しかし君はそれを止めたのだね……ごほ」
「ええ、ですが超巨大モンスターの中に閉じこめられてしまった、ということです」
三人が同時に天を仰いだ。
「それは帝国全体を救ったようなものだ。まったく、君というやつは」
「どのみち過去のことです。話半分に聞いておいてください」
「半分にしても恐ろしいことだよ!」
もう過ぎたことだ。どうでもいい。
「ぜひ聞かせてほしい。どのような策を用いてフォールンを解放したんだい?」
「私も詳細を聞きたいところだ。この前はゆっくり話ができなかったしな」
それが本題か。
「複雑なことはしていませんし、そもそも饗団は不利でした」
「不利?」
「フォールンは広すぎるんです」
人口三百万人。街の面積も世界一。どうしたって敵軍は大きくばらける。
各個撃破を幾度も繰り返し、追い詰めたのだ。
「それにしても、だ。限度があるだろう……ごほ。いや……まさか、ここを手薄にするためにアークスとパラメイズ港を?」
「ご明察です」
再び三人は天を仰いだ。
「なんたることだ。だが、そうはならない可能性もあっただろう」
「もちろんですが、北からは絶対に援軍はなく、南のダメオン侯爵を放置するのはそれこそ致命的。確証はありましたよ」
三人とも言葉がないようだ。
「それともう一つ、理由があるんじゃないかと」
不思議に思っていたことがある。
フォールンが占拠されたあとの状況を様々な人から聞くにつけ、感じた。
饗団はフォールンをまともに統治する気がないのでは、ということだ。
「各地域でずいぶんと差がありました。第一、第二はかなりやられたのに、他は被害が少ない。繫華街では裏社会の組織を狙っている」
「……つ、つまり?」
「フォールンはすでに役目のほとんどを終えた、と考えています」
「どういう……ことなんだ? ごほ。ごほ」
ビョー子爵は休んだほうがいいと思う。
「金ですね。軍資金です。銀行は襲われなかったと聞きましたが、実際はそうじゃないはずだ」
「……知っていたのかい?」
「では、やはり」
「襲われた、とはっきり言うことはできないが、饗団は銀行の金庫から一度金を持ちだしているんだよ。その後はなにもなかったと報告を受けていてね」
全部を奪わなかったのは、暴動が起きるからだ。
「フォールンの年間総生産は二十兆アーサルに近いと聞いてます。半年間を単純に計算するなら十兆。非常時だと考えてその半分と仮定。そこから税を徴収した分を一兆アーサルとします。さらに第一地区や第二地区で得た現金や財宝を考えれば、とてつもない額の軍資金を手に入れたはずだ」
俺たちが蜂起した時点で、すでに軍資金は北へ移されたといっていい。
あとは逆らわない程度に締め付け、徴収したものを送り続ける。
仮にフォールンを失っても、問題はない。東西南北に配置された軍を用い、すぐにでも取り戻せる。
まあ、そうはさせないんだが。
ラッキーセブンとあの天至は、統治など考えているようには見えなかつた。状況次第では北部へ動く態勢だったのだと思う。最悪、あいつらだけでもフォールンを壊滅できるだろうし、余裕こいてた。
古街の抵抗勢力――と呼ぶには小さすぎるが――なんていつでも潰せる。しかし、残しておくことで、街人に期待を持たせ、面倒な暴動を起こさせないようコントロールをしていた。憲兵隊もあるいはそれが理由で潰されなかったかもしれない。
とはいえ、ラッキーセブンと天至は消滅した。もう聞けないことだ。
これで話は終わった。
そろそろお暇したいところだが……
「アーナズ君、折り入って話がある」
三人とも、真面目な顔つきだ。
さて、なにを言われるやら。




