ドーン・イン・フォールン 28 因縁の終わり
饗団の兵でまともに戦えているのは、もはや一塊のみ。
その中で最大の戦力は、三体の機械兵だ。
まずは厄介なシールドを砕く。
手を掲げ、叫んだ。
「神槍ゲイボルグ! 頼む!」
最悪の怪物ラッキーセブンを突き貫いた光の槍がすさまじい速さで戻って来る。
よしよし、いい子だ。もう少しだけ、力を貸してほしい。
「シント、まさかその槍……」
「カサンドラ、話は後だ。俺に続け」
槍なんて使ったことないから、とにかくただ突進する。
穂先がシールドを貫通。鏡が割れるような音とともに、機械兵を包む障壁は破壊された。
そこへウチのメンバーが突っ込む。
機械兵の一体は、剣と槍と矢と魔法をその身に受け、動きを止めた。
残る二体も同じだ。あっという間に片付ける。
これによって最後の抵抗も限界を迎えた。
『番号士』と思わしき戦士達は追い詰められ、自害していく。
「そ、そんな……ばかな! あれだけの兵が! 戦力が! 支配が!」
指揮をとっていたゲースを残し、兵たちが逃げようとする。しかしもう遅い。一人、また一人と倒れ、ついにはヤツ一人となった。
「終わりだ。ゲース将軍」
「貴様は!」
俺を見て、下がる。しかし後ろにはウチのメンバーが回り込んでいる。
「あの時の……ガキ! 貴様のせいで私は……あのような生活を!」
ゲースは逮捕されたあと、半年間服役し、釈放された。そのあとのことは知らない。
「逮捕されたのは自分のせいだろう。人のせいにしたところで、過去も現在も未来もなにも変わらない」
彼はなにも言えない。言葉に詰まり、周りを見て逃げ道を探す。
だが、完全に包囲されており、どうしようもない。
「くそ! くそ! こ、降参だ! 私は降る!」
「いまさらなにを言うんだ。好き勝手しておいて、それが通ると思うのか?」
「……」
「なぜ帝国を裏切った?」
こいつは罪を犯したが、お勤めを終えている。爵位もはく奪されなかったはずだ。
「私は……出仕が許されず、妻に家も追い出された。物乞いの真似まで……だから、勝ち馬に乗ったまで」
饗団の誘いに乗ったわけか。勝ち馬、とは言うが、結局こうして敗北している。どこまでも見る目のないヤツだと思う。
「なあ! 私はもう戦う力もない! まさか殺す気か? 殺さんよなあ? おまえたちは正義の味方だものな?」
みんな呆れている。この期に及んで、と言いたげだ。
「ああ、殺したりはしない。俺たちはおまえみたいな下衆とは違う」
「うぐっ……」
「けど、フォールンの人たちをさんざん虐げてきたことが許されるわけもない」
因縁にケリをつけるべきだ。
「フォールンを支配した将軍の一人として、戦え。決闘だ」
「……」
「おまえが勝てば、逃がしてやる」
「……なんだと?」
ゲースは疑問の目でこちらを見る。疑り深いヤツだ。
「相手は誰だ? 貴様か?」
俺、と言いたいところだけど。
「あたしにやらせな」
「……わたしがやる」
「首、いただきますぅ」
名乗りを上げた三人には悪いが、ぜひ連れてきたい人がいる。
≪空間ノ跳躍≫を使用して古街に行き、すぐに戻る。
「……え? ちょっと、なに?」
ミューズさんを連れてきた。彼女は目を白黒させている。
ウチのメンバーたちはなぜ彼女を連れてきたのか、わからないだろう。
ゲースとの因縁を知っているのは、俺とミューズさんだけ。
「ミューズさん、あなたの手で終わらせるべきだ」
「……へ?」
彼女とゲースの目が合う。
「まさか、アンテル君か」
「ゲース副長官!?」
ミューズさんは、こいつに不当な扱いを受けていた。今回の件だって、ウチのメンバーたちは古街に閉じこもるしかなく、ひどい目に遭わされたのだ。
「シント、どういうことさ」
「……なに?」
「カサンドラ、アリステラ。ミューズさんと俺はこいつに因縁があるんだ。だからやらせてほしい」
詳しく話すのはあとだ。
「ゲース、おまえはさっき、勝ち馬に乗っただけと言ったな?」
「そ、それがどうした。誰だってそうするだろうが」
「おまえがいまこうして敗北したのは、それが原因なんだよ」
「それはたまたま運が悪かっただけだ!」
そんなことを言ってるんじゃない。
「違う。負けたのはおまえが見る目のない無能だからだ」
「無能……だと!?」
「おまえは以前俺に言ったよな? なにもできないバカなガキだと。ミューズさんのことも、不出来だからマドギワに送ったのだと」
誰も言葉を発しない。俺の声だけが響いた。
「ミューズさんはいまや、ウチの企業の取締役だ。月に一億ア―サルを売り上げ、いろいろな人と仕事をし、尊敬されてる。多くの人にとって、なくてはならない人なんだ」
「ちょっ……シ、シント……急にどうしたのよ」
彼女は赤面しているが、全て真実だ。
「おまえが月にもらう金はどのくらいだった? 他人から少しでも尊敬を受けていたか? 彼女と同じことがおまえにできるのか?」
ゲースはなにも言えない。
「なあ、教えてくれ。おまえが不当に扱った人々は大活躍してる。いまこうして追い詰められ、己の無能を噛み締めるのはどんな気持ちだ?」
「き、貴様……私を愚弄するつもりか」
「愚弄? ぜんぜん違う。これはあくまでも知的な好奇心だ。早く教えてくれ。いま、どんな気持ちなのかを」
彼は怒りの形相で震え、俺をにらみつける。
「おまえはたしかガラルホルンの流れを汲む血筋だったはずだ。剣には多少の覚えがあるだろう。だから、こちらも剣で勝負だな」
俺は足元に落ちている剣を拾い、ミューズさんに渡した。
「ちょっと!?」
「ミューズさん、奴と決闘を」
「いやいや……わたし剣なんてまともに」
「だいじょうぶ」
ミューズさんが負けるわけない。
「ゲース、彼女と戦え。もしも勝てたら、見逃す。フォールンから出ろ」
彼は少しの間、辺りを見て警戒していたが、やがて笑い始めた。
「二言は……ないな?」
「ああ」
「だからちょっと待ってって! なに言ってんの!」
「ミューズさんの【才能】ってたしか、【会心の一撃】でしたよね? いけますよ」
「そんな満面の笑みされても」
「俺を信じてください。あなたは勝てる。あんなヤツ、ぶっ飛ばしてしまいましょう。ミューズさんの手で、終わらせる」
「……」
彼女は俺を見て、うなずいた。
「アンテル君……私に勝てると?」
勝ち誇った顔のヤツを、彼女をキッとにらみつける。
「……ゲース副長官、いえ、アンタみたいなキモいセクハラ野郎はこの街から追い出すわ」
「なっ……!」
ずっぱりと言い切られたゲースは、額に血管を浮かび上がらせた。
「こ、このアバズレが!」
ウチのミューズさんになんてことを言うんだ。少しも許す気になれない。無能を超えたクソ野郎だ。
「うひーーーーーーーーー!」
彼女は目をつむり、むやみやたらに剣を振り回す。普通に考えれば、当たるわけもない。とうぜん、ゲースの表情が勝利を確信したものになる。
「そのような剣で私を――」
「≪魔弾≫!」
ヤツの手から剣を撃ち落とす。態勢を崩したゲースに、ミューズさんの剣がべちんと当たった。
「ぬぐわっ! いっ……ぐおおおおおおお! 痛い! 痛いぞ!」
腰の辺りを押さえ、倒れる。
ミューズさんの【才能】はどこに当たっても急所になるというもの。恐ろしい【才能】がゲースに痛撃を与えたのだ。
大きな歓声が上がる。拍手喝采の嵐だ。
ミューズさんのことを知らない人も手を叩き、讃えているのがわかる。
「ば、ばかな! 一対一だと……言ったではないか!」
「俺はそんなこと言ってない」
「ふふふふざけるな! そんなわけないだろう!」
ほんとうに言ってないし、そもそも俺だってさんざん馬鹿にされているんだ。
「貴様ァ……どこまでも愚弄しおって……! ならば!」
苦痛に満ちた顔で、ヤツは剣を掴む。立ち上がり、ミューズさんを狙った。
そんなことはさせない。
彼女の前に立ち、魔法を発動。
「二度とその面を見せるな。≪魔衝発破≫!!」
対人最大のぶっ飛ばし魔法で、ゲースを撃つ。
ヤツはなにも言えないまま、空の彼方に消えた。
「シント……」
「ミューズさん」
「やっと……なんだか、全部終わった気がするわ」
「そう思います」
彼女に渡した剣を受け取り、捨てる。そして手を取った。
「あー、でもスッキリしたわよ! あんなヤツ! もっと前にぶっとばせばよかった!」
晴れ晴れした顔だ。でもそれは俺も同じ。
「やったねえ、ミューズ」
「……へっぴり腰だったけど」
「しょうがないでしょ! 剣なんてほとんど握ったことないし!」
カサンドラとアリステラがミューズさんと抱き合う。三人とも笑顔だ
「やっと……これで」
最後の一人だったゲースが消え、再び大歓声が上がる。
戦いは、終わりを告げたのだった。




