ドーン・イン・フォールン 27 フォールンの王を騙る者
饗団の最上級戦士ラッキーセブンが巻き起こす烈風は、室内を滅茶苦茶に荒らし、吹き飛ばす。
ごきごきと音がして、ヤツの肉体が変化を見せた。
これまでに見た『一桁』はみな異形だったが、こうやって変身するのか。
「フシュゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
モンスターへと変わったその姿は、まさしく化け物。
下半身は駿馬。上半身は人のままだが、筋肉量は増し、岩のようだった。
怪我も全て回復している。厄介なことだ。
「こうなったおれは止まらねえぜ! ≪ラッキーストライク≫!!」
とんでもない突進。槍を突き出し、真っすぐに来る。
全力で障壁を張る。だが突進力を殺しきれず、背後の壁を突き破り、空中へと飛び出てしまった。
「はっはー! 死んだな! シント・アーナズぅ!」
怪物と化したラッキーセブンは、空中に地面でもあるかのような動きで走る。
「≪ラッキーストライク・エアバースト≫!」
地上へと落ちるこちらに対し、さらなる追撃。恐ろしい技ではある。
「≪漆黒ノ翼≫」
空中戦なら俺もけっこうやる方だから、避けた。
「翼……? なんだそりゃ」
ヤツは再び空を蹴って上昇。自分を最強の戦士と言うだけはある。空を駆ける馬人間など、想定できる者はいない。
しかし俺は……俺たちは魔法士だ。魔法の可能性は無限大。その言葉を今から証明しよう。
「ちいっ! アバディオク! どこにいる! さっさと来い!」
ラッキーセブンは天至の名を呼んだ。
「くだらねえ実験は終わりだ! こいつをぶっ潰すぞ!」
誰も来ないことを、俺は知っている。
何度呼んでも、奴はいない。消滅したのだから。
「アバディオクはもうとっくにくたばったよ」
「……なに、言ってやがる」
「哀れだな。死んだヤツに助けを求めるか。ああ、いいよ。面白いな。おまえみたいなヤツが……そうやって慌てふためく姿は!」
真上に加速。そして、急降下。
思いきり勢いをつけて、ぶん殴る。
「ぐううおおおおおあああああ!」
ラッキーセブンは真下の英雄像に叩きつけられ、地面にめりこんだ。
像は跡形もなく崩れ落ち、戦場の時を止める。
続けてこちらも降下し、着陸。
足を地に着けたと同時に≪魔弾≫を息が続くかぎり撃ちまくる。
狙いは饗団兵。とにかく倒して倒しまくる。
「てめえの相手は……おれだろうが!」
背後で派手に石が吹き飛ぶ音。ラッキーセブンが立ち上がったんだろう。
「≪硬障壁≫」
硬化させた障壁を斜めに発生させ、威力を逸らす。
「そりゃそりゃそりゃそりゃ!!!!」
攻撃は全て弾く。
地面がえぐれ、俺が立っている周りだけ床石が砕けて飛び散った。
「な、なんなのだ、あれは……」
「モンスターだと?」
「バケモンが……二人……?」
戦いは止まったままだ。敵味方関係なく、俺たちを見ている。
「ゲイボルグ! もっと力を寄こせーーーーーー!」
神槍が光を帯びだした。
もう無理だな。それを使わせ続けるのは、限界だ。
力がみなぎってくる。
疲れ果てているはずなのに、イリアさんのことを思うと、腹の底から熱いものを強く感じるのだ。
「ゲイボルグは嫌がっている。おまえは屈服させたと言ったが……少しも力を引き出せていない」
「黙れ! 戯言を!」
「≪真魔弾≫」
「ぎう!?」
振り上げた右腕に対し、撃つ。
反魔法をともなう弾が、怪物の肘を消失させる。
やはり効いたか。
神力を使うこいつは、天至にごく近い存在だ。だから≪真魔弾≫はおおいに効果を発揮する。
これはいい。≪真魔弾≫は天至のみならず、怪物にも効くことが確定したのだ。
宙を回転する神槍ゲイボルグをキャッチする。
よし、これで戻った。
「な、治らねえ……? てんめええええ! なにしやがった!」
ラッキーセブンは腕を失ったまま、回復していない。
「こうなれば……【アンラッキーポーン】!!」
ここでモンスター生成。こいつが『一桁』なら使えないわけがない。
忌まわしい力の塊――瘴気がいくつも発生する。
中から現れるモンスターは馬型。黒い皮膚と尖った角を持つ。
たしか、『バイホーン』だったか。
「モンスター! なぜだ! うあああああああ!」
「くそ! なんでこんな!」
「迎え撃て! 街から追い出すんだ!」
「こ、殺される! 無理だ!」
「好きにやらせるな! 複数でかかれい!」
敵も味方も混乱している。しかし、狙われるのはこちら側の戦士だけだろう。そう多くは時間をかけられない。
「≪魔錬体・鎧魔導≫」
全身に魔力を。
血のように巡らせ、活性化させる。
「シント・アーナズ……てめえだけはいまここで殺す。そのあとは……フォールンのなにもかもをぶっ壊してやるぜ!」
いいや、もうそれはできない。
「終わりだ! ≪ラッキーストライク・チャージアタック≫!!」
なりふり構わぬ体当たり。
強大な一撃に対し、槍を逆手に持つ。
「ゲイボルグ、鬱憤を晴らす時だ!」
愚かな怪物に向け、全力で投げ放つ。
神槍ゲイボルグは一筋の光となり、なにもかもを貫くおおいなる力と変わる。
どんなモノも障害にはならない。光槍は音もなく突き抜けた。
「……あ?」
ラッキーセブンの突進は止まった。
足はもつれ、口から大量の黒い液体が漏れ出る。
ヤツの胸には巨大な穴が空き、向こう側までよく見えた。
「どう、なってんだ……?」
「おまえはもう死んでる」
「死んで……? 冗談、だよな?」
俺に訴えかけるような目を向けてくる。
「……け、けけ……これが、死かよ……」
「おかしいか?」
ラッキーセブンは泣き顔のまま笑っている。気味の悪い表情だ。
「言っとくが、おまえは神の原野にも、地獄にも行けない。ただ消える」
「……貴様は……なんなんだ……イカれてるだろ、なあ……」
「もう消えろ。これ以上かける言葉はない」
「……」
ヤツは粒子となってこの世からいなくなった。
フォールンの王を名乗った怪物は、これで終わり。
あとはモンスターと機械兵を始末する。
その場にとどまり、目に付く敵を倒す。
一体の機械兵が俺を標的に迫るが、それもつかの間のことだ。
「アイリーンさん! シールド解除しましたあ!」
「首、いただきますぅ!」
躍り出たアイリーンの閃光剣が、機械兵を両断。
一拍遅れて無機質な体がずれ、倒れる。なんという斬れ味だ。
彼女が手にするカタナ、『切羅業刹』が妖しい魔力を放つ。
「シント君!」
「シスター・セレーネ、助かりました。アイリーンも」
「はいですぅ」
モンスターが消えたことで、今度はこちらが勢いづいた。
機械兵までをも圧倒し、士気が高まっていく。
「ふー……」
思わず息が漏れた。
戦いの終わりが近づいている。
饗団兵は次々倒れ、逃げ出す者も出始めた。
「いけ! いけーーーーーー!」
傷だらけの副長官が声を上げる。呼応して突撃を開始する憲兵たち。
逆に敵兵は防戦一方となる。
「シント!」
「ここでしたか、ハイマスター」
ガディスさんとクロードさんが駆けつけてくる。
「二人とも、無事ですね」
「おまえは落ち着きすぎだ」
「さきほどから空が気になりすぎて、しかたありませんでしたよ」
また心配させてしまったか。
「饗団はもう大崩れだ」
「ええ、勝利は目前でしょう。もう一息です」
彼らに油断はない。
「焦る必要はありません。二人とも、徐々に、確実に対処を。ウチのメンバーたちを集めつつ、ケリをつける」
二人を左右に置き、走る。残る機械兵はたったの三体。確実に破壊し、息の根を止めよう。
「カサンドラ、グイネヴィアさん」
「シント、戻ってきたさね」
「饗団の主力はもうあいつらだけじゃん」
彼女が指し示す場所は一番街へと通ずる道だ。敵はどうにかまとまって撤退を行おうとしている。
「私を守れ! まだだ! まだ負けては!」
必死になって指揮をする者がいる。
まさかこいつが最後まで残っているとは。
意外にも軍才があるのかと思ったが、機械兵をうまく盾にして逃げようとしているだけか。
「俺が機械兵のシールドを壊す。その隙に奴らを仕留めてほしい」
ここにはウチのメンバーたち全員が集っている。
最後の仕上げといこう。




