表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
718/730

ドーン・イン・フォールン 24 現れる災厄

 大都市全体を覆いかねないあまりに巨大な光。

 それは束ねられ、太すぎる光線となり、地上にいる俺たちを撃つ。


 展開した魔法のシールドは間に合った。

 だが、完全には防ぎきれない。

 障壁とぶつかった光線は消えた。しかし、余波が大広場を襲い、多くの人々を吹き飛ばす。


「アテナ! 俺とシールドだ!」

「はい! マスター!」


 二射目を考慮し、二重で障壁を展開。

 だが、攻撃はこない。

 遅れて悲鳴が轟く。このままではまずい。パニックになる。


「副長官! みんなを落ち着かせてください!」

「あ、ああ!」


 副長官が落ち着けと言っても、聞く者は少なかった。


「シント! いまのはなんだ!」

「わかりません! ですが気をつけて! 混乱に巻き込まれないよう!」


 気休めだけど、そう言うしかない。


「ミュラーさん、いまのがなんだかわかりましたか?」

「あのような魔法は、そう撃てるものではない。属性は光。威力は【神格】級だろう。発射位置は……行政府だ」


 彼は目を鋭くする。


「それはいい。問題は、敵味方を関係なく撃てるその冷徹さだ」


 同感だ。あんなのが着弾していたら、饗団の兵も丸ごと吹き飛んだ可能性が高い。

 事実、彼らもまた動けないでいる。前列の兵たちは見るからに狼狽していた。

 いったいなんのつもりだ。ありえない。


「もうこれは……収拾がつかない」


 誰も彼もが混乱をきたしている。

 そこへ、最悪なものが投入された。

 中央区に通じる道から兵団が姿を現す。


 横一列に並ぶ機械兵。その数はおよそ十体。さらに脇を固める白いボディスーツの兵士たち。饗団の上級戦士『番号士ヌメレオン』だ。


「き、き、き、来た! あれは……剣神機!」

「なんだってあんな数……」


 憲兵たちが恐怖で震えている。


『うろたえるな! あれこそが主力だ! あれを叩けば、終わる!』


 副長官は必死だ。いまここで繋ぎ留めなくては、負ける。

 集まっていた饗団兵も武器を構えだした。やるしかない。


「みんな、構えて。あれをやる」


 無言だが、ウチのメンバーたちはわかっている。こっちは問題ない。

 だが、逃げる街人たちは止められなかった。この場に残る者のほうが少ないだろう。


 魔法を構える。いつでも撃てるよう、集中を開始。

 しかし、突然頭がおかしくなりそうになった。


「くっふっふっふ……」


 奇妙な声が聞こえる。

 そしてその声は短く、『水滴すいてき』と唱えた。


「危ない!」


 異様な気配を感じ、副長官を突き飛ばす。

 伸ばした俺の左手甲になにかが突き抜けた。


 くっそ! 手に穴空いた! 穴は小さいけど痛い!


「どこだ! どこにいる!」

「シント! やつらが来るさ!」

「全員、戦闘開始! 俺は……いまの奴を仕留める!」


 俺の手を貫いた魔法は、ありえないものだ。

 弾速、威力、精度、全てが極めて高いレベル。それこそ、人間業とは思えない。


「副長官! みんなをまとめて、対処を!」

「くっ……わかった!」


 彼は立ち上がり、武器を掲げて突進を開始。それに憲兵たちが続く。

 ウチのメンバーたちも一塊になって戦いを始めた。


「ふっくっくっく……」


 まただ。またあの声が聞こえる。

 いったいどこにいるというのだ。

 頭がこんがらがりそうになる。だけど、正気を保たなければやられるだろう。


「ダイアナ! サナトゥスはなるべく温存! でもやばかったらぶっ放して!」

「う、うん!」

「シスター・セレーネは≪リバースリジネ≫で機械兵のシールドを破れ! アイリーンはその隙に斬るんだ! アテナはシスターとアイリーンを守ってくれ!」

「はいですぅ!」

「マスター、無理はいけません!」


 いいや、行く。アレを野放しにすれば、死だ。

 それに、さきほどの行政府施設から放たれた恐ろしい光。アレも止めなくてはならない。


 逃げゆく人々を避け、声がしたかもしれない方向へ走る。

 一瞬だけ感じた気味の悪い力は、勘違いじゃない。

 人の波をかき分けて、無理やり進む。

 

 戦場はもう乱戦。展開は一切が読めない。

 気を散らすな、シント。必ず、やり遂げるんだ。


「くっふっふっふ……」


 まただ。また聞こえる。

 そして見つけた。見つけたが、足が動かない。

 なんだ、こいつは。


「ふっくっくっく……」


 行政府施設に近い場所の建物だ。

 ソレは柱から顔の半分だけを出し、俺を見ている。

 表情はない。それは金属の仮面で覆われているからだ。


 少しだけ見えるのは白の外套。

 雰囲気も、感じる魔力も、なにもかもが人間とは違う。


「おまえは……天至てんし!」

「おお……珍しいサル君。いかにも私は天に至る者」

「俺の手によくも穴を空けてくれたものだな」

「狙ったのは大柄なサルです。良い素材になると思ったのですが、残念」


 笑っているのか? 気味が悪いぞ。


「殺す」


 魔法を構える。

 だが、ヤツは笑い続けた。

 

「不遜ですが、珍しいサルです。いいでしょう、招待させていただきましょうか……『浮珠ふじゅ』」


 短い詠唱が、魔法を発動させる。

 俺の周囲に現れる五つの球。それは水だ。水でできた球が生成されたのだ。


「さあ、おいでなさい。珍しいサル……少し言いにくいですね。珍サル君、と呼びましょう」

「ふざけるな! ≪螺旋魔弾ラセンマダン≫!」


 魔力弾が射線上にあった二つの水球を貫き、霧散させる。


「おお? これはこれは……キエエエエエエエエエエエエ!」


 突如として飛びかかってくる。目にも留まらぬ速さ、とはこのことだ。

 俺の襟首を掴み、浮上。一気にスピードを加速させ、行政府施設に突っ込む。


「なにをする気だ! 放せ!」

「くっふっふっふ……招待すると、言ったでしょう」


 掴まれたまま壁を突き破り、中へと放り出される。

 ここは六階か? いちおう、見覚えはあるところだ。


「くっ……この穴、ふさがるのか?」


 左手の平には穴が空いたまま。そでの一部を引きちぎり、手をぐるぐる巻きにする。止血はもうこれでいい。


「ヤツはどこだ……どこに行った! 出て来い!」


 返事はない。ただ、笑い声だけが聞こえる。

 どこまでもふざけたヤツ。絶対に滅ぼす。

 

 声をたどり、薄暗い廊下を歩く。

 荒らされた部屋の数々には、血痕も見えた。

 しかし、なぜ無人なんだ。饗団の兵が潜んでいると思ったが、誰かがいる気配はない。


 やがて、鼻に突き刺さる匂いを感じた。

 血の匂い……いや、もっとひどい、死臭だ。


「な……」


 言葉を失う。

 壁が取り払われた広い部屋にたどり着き、めまいを覚えた。

 なんなんだ、これは。


「こんな……ことが」


 寝台が並べられ、床には血が広がっている。

 寝かされている人々はみな一様に恐怖で歪んだ顔をしており、とうぜんのように死んでいた。


「バカな! ふざ……けるなああ!」


 寝かされている男性も、天井からフックで吊られた女性も、切り刻まれている。

 臓腑はなく、取り出された形跡。

 体が震える。

 悪夢以外のなんだと言うんだ、これは。


「ふっくっくっく……ようこそ」


 天至が姿を現す。

 さっきはなかった翼を広げ、祈るように手を合わせている。

 羽根の数は四枚。一つ一つが白く輝き、おぞましさを増上させていた。


「この場所はなんのつもりだ?」

「検証……? 実験……そんなものです」

「なんだと?」

「私はサルに興味があるのです。非常に、と付け加えておきましょう」


 興味? だめだ、目の前が真っ赤に染まっていく。


「これが実験だと? こんな……なんてことを!」

「おや、なぜ……怒るのか。サルとて生物をしっかりと把握するために解剖をするのでしょう? それと同じことですよ、ええ、同じです」

「黙れ! ≪螺旋魔弾ラセンマダン≫!!」

「おっと」


 狙いが逸れて、壁に穴を空ける。


「うおおおおおおお……! せめて……せめてえええええええ! ≪極之焔オーバーフレイム≫!」


 黒き炎を生み出し、放つ。

 もう見ていられない。耐えられない。せめて人の手で、燃やす。


「燃やす気ですか? なんたる愚かさよ。これだからサルは……キエエエエエエエエエエエエ!!」


 天至が突っ込んでくる。

 知るか。全部燃やす。


 黒炎を素手で握り、ヤツの顔面に拳を叩きつける。

 カウンターの形で決まったが、こっちの拳が砕けそうだ。いいさ、この痛みが正気を保たせてくれる。


「私の顔を……殴ったというのですか! なんという不遜、なんという身の程知らず……だが……面白い……珍サル君、新しい検体となりなさい!」


 ねっとりと湿った魔力が立ち昇る。

 来い。いまからおまえを、跡形もなく消滅させてやる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ