ドーン・イン・フォールン 22 新手の強敵
戦いは次の段階へ移る。
第五地区の戦闘はこれまでよりもさらに早く進んだ。
「おれたちの街を……もう好きにはさせねえ!」
第五地区にギルドを構えていたジョルジオのめざましい活躍が、多くの人間を奮い立たせている。
いまや『鋼拳士』の異名を持つ男は、見惚れるほどの流れるような動作で立ちふさがる饗団兵を次々ノックアウトしていった。
第五地区では街の人々がことあるごとに金を巻き上げられていたと聞く。
階級社会を終わらせる、という饗団の公約はただの建前。結局のところ、なにも変わらない。
力を持つ者達が、そうでない者達を虐げる。構造はなにひとつ変わることがない。
「アーナズ君、敵の反撃が強まってきた」
カラデインさんがそばに来て、商業区へと続く道の先を見る。
彼ら『エターナルズ』の離反者たちは、うっぷんを晴らすかのごとく魔法を放ち続け、饗団の兵士を倒していた。冒険者らしく経験は豊富。腕前も充分。かなりの戦力となっている。
「敵もバカではありません。ですが、こちらも戦力が増えています」
「驚いたよ。こんなにも人々が味方してくれるなんて」
「どんな形だったとしても、支配されるのは嫌だと思います」
「ああ、その通りだ。こんな光景を見られるんだから、饗団を離れてよかった」
感激している風のカラデインさんだったが、突然背後に現れた素早い影に気づかない。俺はとっさに彼を突き飛ばした。
「君! なにを!」
彼がいた空間を、刃が通りすぎる。
危険な一撃は、ナイフによるものだ。
「ちっ」
いきなり現れた男は舌打ちを一つして、襲いかかってくる。
「やるじゃねえか!」
饗団の兵ではない。荒々しい魔力を放ち、奇妙なステップで飛びかかってくる。
「アーナズ君! そいつは……トモロ! 『闇刃』だ!」
カラデインさんが立ち上がりつつ、叫ぶ。
そうか。この人が『闇刃』トモロ。高名な冒険者が敵として来たわけだ。
ここへやってきたのは、この人だけじゃない。
いかにもな雰囲気をかもし出す男女が、戦場へ乱入してきた。
「ハイマス! 手強いのがきたわよ!」
「ワーカーズに……メルディアンマスクズ!」
リーアやアミールがそれぞれ剣と斧を受け止める。
数百人規模の部隊がなだれこみ、一気に乱戦となってしまった。
この人たちは、これまでの敵とは一味違う。
饗団についた冒険者たちだ。
「落ち着きな! あんたたち! アリステラ! 援護を!」
「……≪アクアボール≫!」
カサンドラが男を一人、叩き伏せる。
それにより勢いを取り戻したかと思いきや、そこへ魔法の雨が降ってきた。
「≪魔障壁≫!」
なんとか間に合った。魔法での攻撃であれば、敵の正体は言われずともわかる。
「あれは……ついに来たか!」
カラデインさんの目は、とある家の屋根を見ている。
ローブを着て、高い帽子をかぶった男たちが、こちらに杖の先を向けていた。
「学長……!」
「カラデイン副学長! この、裏切り者めが!」
エターナルズの本隊だ。なかなか嫌なタイミングで来る。
「おい、よそ見してんじゃねえ」
繰り出されるナイフを避けながら、≪魔弾≫。
闇刃トモロは魔力弾を器用にかわし、下がった。
噂に聞くワーカーズの副マスター。所属冒険者数が最大を誇るギルドの中で、一番の武闘派だと聞く。
「さあ、ダンスの時間だ。『ノーブルライン』よ、ゆけい!」
芝居がかった口調で、いっせいに躍りかかってくる男性たち。
きらびやかな衣装を身にまとい、磨かれた長剣を振るう。
洗練された剣技が、次々とこちら側の戦士を倒していった。
「あれがメルディアンマスクズか」
貴族の子弟のみで構成されるという、フォールンでもっともランクの高い冒険者たちのお出ましだった。
「がら空きだよ、キミ」
ふぁさ、と髪をかき上げ、お洒落な服を着た美形の男性が剣を突きこんでくる。
紙一重で避け、≪魔衝拳≫での裏拳で顔面を破壊。なんとか一人は倒したが、ウチのメンバーたち以外は押されている。
状況は一気に変わった。
凄腕の冒険者たちが立ちふさがったことで、空気が変化する。
だが、だからといって、好きにやらせるつもりはない。
「カサンドラ、グイネヴィアさん、陣形を立て直してくれ。落ち着いて対処だ。ガディスさん、俺とともに時間稼ぎを」
「任せろ」
魔法をシールドでふせぎ、ガディスさんがボウガンで応戦。
互いに位置を入れ替え、ワーカーズとメルディアンマスクズへ狙い撃ちをし、足止め。
その間にウチのメンバーたちは、態勢を整えることができた。
「アリステラとテイラー夫妻は魔法士隊に一斉射。その後、ラナとグレイメンさんで撹乱。ワーカーズにはアクアウインドが弾幕を。ガディスさんとクロードさんたちは突撃。ヴィクトリア、来い。メルディアンマスクズをやる」
少しばかり早口になったが、みんなうなずいた。
「アイリーン、敵隊長格の首を取れ。いや、ほんとに首は刎ねないように」
「わかりましたぁ!」
無駄な言葉はなく、それぞれが仕事に徹する。
ちょっとぐらいの不意打ちでは、ウチを倒すことはできない。
「トモロ殿、こちらも連携を」
「うるせえ、あの小僧はおれの獲物だ」
「……しかたない。『ノーブルライン』、私に続け!」
「はいはーい」
「やっちゃうよー」
少年とも思える美しい容姿の男性たちが軽いノリで襲いかかってきた。
『ノーブルライン』というのは、たしか冒険者ギルド『メルディアンマスクズ』内のグループで、歌って踊れて冒険ができるユニットの名前だったはずだ。
フォールンの女性たちから絶大な人気を得る偶像的存在が最前線に出てくるとは思ってもいなかった。
『ノーブルライン』は十字架を思わせる陣形を保ったまま、俺めがけて突進してくる。そして脇に隠れ、機会をうかがっているだろう『闇刃』トモロ。
控えめにいって厄介、と言いたいが、いま俺の隣にはヴィクトリアがいる。
「≪ファイアギガ……シューーーーーーートーーーーーー≫!!」
大火線が放たれ、相手の陣形が乱れる。
それを見て、地を蹴り、両手に魔法を準備する。
滑り込む要領で距離を詰め、前方への地を這う雷。
「≪地雷之天≫!!」
「ぐお!」
『闇刃』トモロは雷を浴び、素早さを発揮できない。倒れないのは対魔法装備のおかげだろうが、もはや無意味。
「≪魔弾≫≪魔弾≫≪魔弾≫!!」
眉間、喉、みぞおちへの三連射。彼はかろうじてみぞおちへの一撃は防いだものの、他二発をくらい、昏倒。
「≪ドラゴーンパーンチ≫!!」
「顔はやめ――っ!」
隣ではヴィクトリアが『ノーブルライン』の一人の顔面を破壊し、倒す。
俺もここでやめるつもりはない。彼女と交差するように位置を変え、≪魔衝拳≫を炸裂させる。
中性的な美貌を持つ男にアッパーカット。浮いたところへヴィクトリアがかかと落とし。頭頂部とあごを破壊された男はその場に崩れ落ちる。
「なんなのこいつら!」
「ちょっと! バルジャン卿!」
「楽勝って言ってたろ!」
『ノーブルライン』は六人組だから、残りは三人。指示を出している男はやたらと立派な鎧を着ているし、メルディアンマスクズの幹部クラスとみた。
「くそ! エターナルズ! 援護しろ! ダラズ学長! なにをしているんだ!」
屋根上から厄介な攻撃をしていた魔法士軍団エターナルズは、アリステラの魔法とアニャさんの激烈な攻撃をくらい、援護の余裕をなくしている。そのすぐ下の壁にはラナとグレイメンさんが忍び寄る構え。あっちはもう詰みだろう。
もっとも数の多いワーカーズはカサンドラ、グイネヴィアさん、ガディスさん、クロードさんらが足止めを行い、隙をついてアイリーンが刀をきらめかせている。
「しかたあるまい……あの魔法士は私がやろう。君たち『ノーブルライン』は角女子を仕留めろ」
「まあ、それなら」
「くくく……可愛がってあげるよ、子猫ちゃーん?」
「どんな女もおれ様なら一撃」
なんだこいつら。
まあいい。
「ヴィクトリア、俺に続け」
「わたしネコじゃないんだぞ。どらごんなんだぞ」
並んで地を蹴る。同時にあちらも走り出した。
「合わせろ! ≪魔衝拳≫!」
「≪ドラゴーンパンチ≫!!」
「へがっ!」
先頭を走ってきた、どこか暗い陰を持つ美貌の男を拳でサンド。顔面がぎゅっと狭まり、目や口から血を噴き出して倒れる。
「おまえの相手は私だぞ! 無視しやがって!」
バルジャン卿やらいう男の剣は避けて、無視だ。
「≪魔衝脚≫!」
「おぼ!」
前髪をばっちりキメた甘いマスクの男へハイキック。首をへし折る。ヴィクトリアはその男の顔面を踏みつけにして破壊しつつ、高く跳んだ。
「なんだそのジャンプ力はよ!」
眉の濃いきりりとした風貌の男は、ヴィクトリアにつられて上を見た。
油断しすぎだ。なにを考えている。
「≪衝破≫」
「ぐっ……!」
バルジャン卿を魔法で強制的に下がらせ、振り向きざま、眉の濃い男へ足払いをする。
見事に転倒した男に対し、ヴィクトリアがとどめの拳。眉の濃いきりりとした風貌はもはや見る影もなく破壊。ノックアウトだ。
「ヴィクトリア、ずいぶんと腕を上げた」
「ふふーん」
目の合図だけでこんなにやれるとは。
しかも、本気など少しも出していないとみえる。
俺がいない七カ月の間に、ヴィクトリアはすさまじい成長を遂げていた。
「ありえないぞ……どうなっている!」
バルジャン卿は状況に気づき、愕然としていた。
ワーカーズはほぼ全滅。エターナルズは――
「学長ぉぉぉぉ! 覚悟ぉぉぉぉぉ! ≪ファイアバレットォォォォォ≫!」
カラデインさんの一撃。
ファイアアローとファイアボールの中間とも呼べる火炎の弾丸が、エターナルズのマスターであるダラズ学長を派手に吹き飛ばした。
これでエターナルズも全滅。
さあ、第五地区での決着をつけようか。




