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ドーン・イン・フォールン 21 戦いが始まる

 夜明けは近い。

 日がのぼりきる直前の時間。地平線の向こうに顔を出しつつある太陽を見た。

 眼下の大都市は明かりも少なく、眠らない街と言われたフォールンは、とても静かだ。


 風は冷たさを含み、強く吹きつける。

 道を行く人はほとんどいない。まばらに見える動く照明は巡回する兵士たちのもの。


 日がのぼりきるまであと少し。

 それが行動開始の合図だ。

 きっと長い一日になるだろう。


「はじめようか」


 誰とはなしに言葉を口にし、まずは深呼吸。

 太陽が完全に顔を出し、その時が訪れた。


 ≪魔弾球マダンキュウ≫を発動。

 九つの魔力球を等間隔に配置し、地上へ降下。これを使い術式を構築する。

 そして、力を込めてワードを紡いだ。


奈落ならくより、異門開きて、大地揺れ、五十ごじつまなこ、闇照らしめす。御姿おんすがたももの手かざし、巨躯也きよくなり。天地鳴動、御名みなを叫ばん――』


 魔力は充填済み。詠唱は完了。


「≪百手之天衝人ヘカトンケール≫!!」


 上空にいても伝わってくる揺れは、徐々に強くなってくる。

 最初の一発、お出ましだ。


 街の地面が割れ、百の手が突き出る。

 巨大な岩の手が本体を引き上げ、人の姿を模した巨人が雄叫びを上げて地上へとぶち上がった。


 ≪百手之天衝人ヘカトンケール≫を出した場所は、憲兵本部の真下。

 フォールンにおける饗団軍のもう一つの司令部がここである。


 派手な爆音を響かせて、縦に伸びた施設が破壊。そびえ立つ巨人はその場で待機する。とてもいい目印になるのは間違いない。


 マスクバロンが提案した策が、これだ。

 戦いの鐘の音を、憲兵本部を破壊することで鳴らす。

 そうすることで、街の人々へ反撃開始のメッセージを伝える。同時にここへ敵の主だったものを釘付けにし、集める。さらには司令部を破壊することで指示系統の混乱を招き、容易に態勢を整わせない。加えて、機械兵や天至といった戦力をおびき出せる可能性もある。


 一つのことが多くの意味を持ち、かつこちらにはデメリットがほとんどない。あとで憲兵本部を破壊したことが問題になるだろうけど、そんなのはどうでもいいことだった。


 やがて人が集まり出してくる。だいたいが饗団の兵たちだ。

 さて、ここでの役目はもうない。みんなと合流だ。



 ★★★★★★



 フォールンの第七地区は、比較的新しい区域。

 もっとも新しい新市街とは違い、区画が整理され、規則正しく家々が並ぶ。

 だがいまは戦場。


 そこら中に饗団の兵が倒れている。

 百や二百ではきかない数だろう。

 それをしているのはもちろん――


「撃槍・回天!」


 三百六十度を薙ぎ払う槍。兵たちはなす術なく吹き飛ばされた。

 

「カサンドラ」

「シント、うまくいったかい?」

「ああ、派手に壊してきた。こっちは?」

「手ごたえが無さすぎさ」


 勢いは止まらないだろう。

 先の道ではウチのメンバーたちが武器を振るい、倒して倒して倒しまくっている。


 第七地区は予定通りにいきそうだ。しかし、ここはもっとも中央区から離れた、一番兵数の少ない場所でもある。苦戦するわけにはいかない。


「さっさと片付けよう。≪魔弾マダン≫!」

「ああ、援護は頼んだよ!」


 魔法を連射。連携もなにもなくかかってくる兵たちを全てノックアウト。

 敵の攻撃は散発的で、五人程度の小隊が小出しに来るだけだ。

 波状攻撃と言えば良く聞こえるかもしれないが、明らかな愚策。指揮系統の混乱は続いているとみていい。


 一時間とかからず、戦闘は終わる。敵兵が拠点としていた施設は全てを破壊か、解放。第七地区に配置されていた者達はおおよそ千五百人くらいだったが、まとまることができずに敗北を喫した。


「シント、将軍とやらを捕らえたぞ」


 ガディスさんが縄で縛られた男を俺の足元へ放り投げた。

 髪型や髭を整えた身なりのいい男だ。元貴族だろう。


「あなたは?」

「くそっ! こんなことをして――」

「もう一度聞く。名前は?」

「貴様! 下賤な者の分際でこの私になんたる口を……っ!」


 ここに集まっているのは、俺たちだけじゃない。

 まだ早朝という時間にもかかわらず、騒ぎを聞いて来た街の人々がたくさんいる。

 一方でふんじばられた男は一人。味方は誰一人いない。


「な、なんだ、貴様ら……」


 憎悪の目だ。それがここへ集中している。

 

「どうやら恨みを買っているようだな」

「ここの饗団兵は、勝手に税を取り立てていたそうだよ」


 グレイメンさんが大振りのナイフを手にやってくる。

 極悪な光を発するナイフを見て、将軍とやらは息を呑んだ。


「とうぜん暴力もあっただろうし、こんな目を向けられても文句は言えないだろうね」

「自業自得よねえ」


 今度は見ただけでも縮み上がるリーアのハルバードが、将軍のすぐ脇に置かれた。

 彼は顔中に脂汗をにじませ、口をパクパクさせている。


「この人たちから奪った金はどうした?」

「そ、それは……」

「帝室の許可なしに税を取るのは、法に違反している。そんなことをするから、こうしてしっぺ返しがくるんだ。それがわからなかったのか?」

「ぐっ……だ、だが! 私を捕らえたとしても貴様らに先はないぞ! いますぐにでも――」

「質問に答えろ。そうすれば命まではとらない」

「……」


 これ以上はその薄汚い口を開かせるつもりなどない。

 将軍はがくりと首を落とし、集めた金の場所を吐いた。


「この街におまえの居場所はない。二度と顔を見せるな。≪魔衝発破マショウハッパ≫!」

「まっ――」


 名も知らぬ将軍は天高く飛んで消えた。

 方角はばっちり。最終的には大河に不時着するだろう。


 金についてはさっそく街の人の何人かにおねがいし、回収と分配をしてもらう。

 他にも、憲兵たちが反攻を開始したと宣伝してもらい、騒ぎを広げてもらうつもりだ。

 まだ生きている饗団兵についても、ここにいる若者たちに任せる。中には冒険者もいるだろうし、やれるだろう。


「次に行く。ただここよりも激しい戦闘になるから、まとまっていこう。それと、背中に気をつけて。敵がまぎれているとも限らない」


 街中での戦闘は死角が多くて、カバーできない部分がどうしてもある。

 とはいえ、俺が言うまでもないが。


 最初の戦闘は上出来だ。

 やつらが犯罪者を使い、フォールンや帝国への憎しみを利用するなら、こっちも街人たちの感情を利用してやる。

 

「いまごろは憲兵たちも戦っているはず。合流を急ごう」


 いまはまだ展開が読めない。

 急ぐべきだ。



 ★★★★★★



 第六地区での戦いは、予想に反して激戦とはならなかった。

 理由の一つは、配置されていた兵の数が少なかったことだ。


 三千はいると考えていたが、そこまでじゃない。それと第七地区から来た血の気の多い者達――主に若者の隊が戦いに加わったことも、苦戦しなかった理由だろう。


 そしてもう一つが、彼女の存在だ。

 だいぶ離れたところにある高台から、矢が飛来する。


 風をまとう一矢は軌道を変え、敵隊長を正確に射抜いたのだ。

 弓の形をした【神格】神風エルウィンのレプリカは、アニャさんの元々凄い腕前をさらに強くしている。


 もうすでに何人もの指揮官級を再起不能にし、饗団の軍を翻弄。

 おかげで俺たちは、驚き乱れる兵士たちを容易く叩き伏せることができた。


「アニャは凄まじい使い手だな」

「ガディスさん」

「この歳になって学べるとは、思いもしないことだ」


 絶賛、といった感じだな。


「そろそろこっちも終わりだろう」

「ええ、ですが」

「なんだ? なにか気になるのか?」

「準備したとはいえ、少しばかりこちらに都合が良すぎる」

「……予想よりも兵が少ないことか」


 誤差であると最初は思ったが、そうではないかもしれない。


「だが、止まらない。そうだろう」

「はい、第六地区にいた戦士や退役兵も戦いを始めています」


 フォールンの人間は、強い。あの大穴事件を乗り越えたのだから、当たり前でもある。

 しかしどうしても不安が消えない。考えすぎなのはわかっているが、嫌な予感がしてきた。

 でも、いまさらだ。ガディスさんが言うように、もう止まらない。


「余計なことを考える暇はないですね」


 頭を振り、気を取り直した。

 バーバリアンズのメンバーを呼ぶ。


「ジョルジオ、先導を頼む」

「任せろ。暴れてやるぜ」


 彼らは第五地区で活動していたのだ。ホームでの地の利を生かしてもらおう。

 憲兵たちと合流できれば、さらに勢いを得られる。

 相手もそろそろ態勢を整えつつあるだろう。

 それまでに形勢をこっちへ傾ける。


 もう少しだ。

 あと、少し――


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