表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
713/727

ドーン・イン・フォールン 19 俺ができること

 俺たちがフォールンへ帰還してから五日がたった。

 どことなく街全体が騒がしいのはこの隔離された古街にも伝わる。


 なにか大きな動きがあるのは、疑いない。

 外に出ているラナとグレイメンさんもすぐに戻って来るだろう。

 

 その間、ダメオン侯爵側とも連絡をとる。これはミニマスクバロンを使う。

 遠く数千キロ離れた場所とタイムラグなしで話せるのを、大きすぎるアドバンテージだ。これが圧倒的な人数差を埋める最大の手段となる。


 パラメイズ港周辺ではすでに小競り合いがあった。偵察隊と思わしき者達を長老やバシレウスさんが片付けたという。

 ダメオン侯爵のもとには様々な人士が続々と集まっている。各地でくすぶっていた戦士たち。生き残った貴族の子弟たち。名を売りたい傭兵たちがほとんどだ。


 たったの七日で数千人が増えるとは、驚きだ。これもまた帝国の名将、守備の達人と名高い侯爵の名がそうさせている。

 また、彼は南方諸国連合の親帝国派国家に書状を送り、救援を求めた。ガランギールさんの名を利用すれば、ある程度の支援は見込めるかもしれない。


 南部では日に日に戦の機運が高まっている。

 俺が始めたことへの裁定は遠からず下されるだろう。

 

 夕刻まで、メンバーを連れて地下遺跡に潜る。いざという時の逃走経路、あるいは奇襲に使用できる地下の存在はありがたい。

 同じく地下を探る饗団側の人間とかち合う可能性も考慮し、慎重に探索を行う。だが、心配はあまりなさそうだ。饗団はおそらく、地下遺跡よりも南部のことで手一杯だと思う。


 地上へ戻ると、ラナとグレイメンさん、マスクバロンが帰還していた。

 さっそく話を聞く。


「饗団が動き出したよ」

「街に駐留していた四万人のうちおおよそ二万五千が出立の準備を始めているね」


 そうすると、フォールンに残るのは一万五千となる。


「しかし、ことはそう簡単に進まないかもしれない」


 マスクバロンが浮遊しながら、やや重い口調で言った。


「周辺の市町村に駐留する軍からからおそらく敵増援が来る。耳にしたところだと、五千ほどだろう」


 これは少し厄介なことになったな。穴埋めで五千が加わり、合わせて二万。

 こちらは憲兵と古街にいる人を合わせ、六千程度。

 減ったことは計算通りだが、まだだいぶ多い。さらには敵側に多くの冒険者がいる。侮れない戦力だ。


「そうなるとやはり手は足りないか」

「シント少年、ここは一つ、アークス勢ととも行動しては?」


 それも一つの手だ。南部でさらに戦い、敵を引きずりだせれば、ますますフォールンは手薄になるだろう。

 だがそれではダメなのだ。フォールンを含む帝国中南部はそれでもいいが、いまここで遅れれば、他がもう覆せなくなる。


「いえ、それでは全ての計画に支障が出ます」

「君はいったいどこまで先を見ているのやら」


 だいぶ厳しいが、やれないことはない。ただ、時間をかけられない、という事情が枷になる。

 

「またみんなには負担をかけてしまうな」

「負担なんて、考えないでいいよー」

「ハイマスター、おれたちはやっとここまで来たんだ。やらせてほしい」


 両手を合わせ、口を覆う。

 問題は天至なんだ。それと、まだ誰かもわからない司令官。仮にフォールンを支配する兵たちを全て倒したとしても、天至一体で覆されるかもしれない。


「では悩める少年に私から策を献上させてもらおうか」


 マスクバロンが意味ありげに笑った。


「聞きましょう」

「ああ、私もそろそろ軍師らしいことをしようと思っていたところだからね」

「いったいどんな策を?」

「なに、君がこの前言った、最悪で最高の方法の一部を応用しようという話さ」


 俺、なんか言ったっけ。

 とりあえずマスクバロンの話を聞いた。


「効果はありそうですね」

「だろう?」


 いくつかの問題はあるが、有効的であるのは認めようか。

 

「だったら丸ごとやってしまおう」

「えー……副長官さんに怒られるんじゃ」

「過激……だね」

「はっはっは、さすがはシント少年だ」

「だけど、下調べが完璧ではないといけません。一般人を巻き込むことはできない」

「わかっているさ。そこは策を献上した私が請け負うよ。一日もらおう」


 マスクバロンの策は、様々な面で有効な一手だ。 

 後のことを考えればできないことなので、考慮に入れていなかった。まさに三人寄れば文殊の知恵といったところだろう。


 頼んでいた情報はすでに仕入れた。ラナとグレイメンさん、そしてマスクバロンのおかげで、第四から第七地区までの配置は掴んである。

 アミールと協議し、敵主力であろう第一、第二地区の軍が駆けつけてくる時間も計算済みだ。


「他に気になることはあるかな」

「うーん、あるよ」


 ラナが手を挙げた。


「聞いた話なんだけど、何人かが行政府に招かれて、戻って来ないって噂」

「戻って来ない? どこかで強制労働でも?」

「そういうんじゃなくて、怪談みたいな感じ」


 怪談ってなんだ。

 俺たちがやることと関係があるとは思えないが、続きを聞いてみる。


「いちおう、話してくれ」

「神官みたいな変な人が街に現れて、そのあと市長の名前で招待状が届くって」

「で、行くと二度と戻らない」

「そうそう」


 どういうことだ。なにをしている? 神官……?


「でも噂だよ。ちょっと気になるだけ」


 たしかに気にはなる。ただそれは事実であれば、だ。


「わかった。覚えておこう。他には?」


 それからまたいろいろ聞き、話を整理する。

 おそらく、もう決めるべきことはほとんどない。

 メンバーたちには休むように言い、自室へと戻る。


 ベッドに座って、深呼吸だ。

 考える時はそろそろ終わり。

 残りの時間は全て魔法の集中に当てる。どこまでも研ぎ澄まし、備えようと思う。


 本来、俺ができることは魔法だけだ。

 魔法を修練している時だけは、他のことを考えずにすむ。

 ディジアさんにもらった俺だけの魔法。


 あの時――アルテト村での戦いで、俺は一度やられた。

 俺の魔法がもっと強ければ、いまの状況とは違ったものになったはずだ。

 

 悔しさを力に変えてやる。

 握る手に力が入った。

 目をつむり、魔力を解き放つ。

 生き返ってからフォールンに帰るまでも、仲間を集めている時も、アークスの時だって、全力で魔法を撃てなかった。


 昨夜の戸惑いは遠くに追い払う。俺はだいじょうぶだ。もうだいじょうぶ。 

 全てをかけて、フォールンを取り戻そう。

 と、ここでドアがノックされる。


「どうぞ」

 

 入ってきたのはミューズさん……に加えてカサンドラやアリステラにラナ……って全員じゃん。


「ものすごい地震だったんですけどぉ……」


 あ、いけない。揺らしてしまったみたいだ。


「……いまの、なんの魔法?」

「なにも使ってないけど」

「うーむ、どうやらシント少年はただ魔力をたかぶらせただけで、地震を起こしたようだ」

「……マジやば」

「シント、ほどほどにしておけ。敵を警戒させるのはめんどうだからな」

「すみません、ちょっと気がはやったみたいで」


 なんとなく非難めいた視線を受けてしまう。

 

「とはいえ、おれたちも気持ちは同じだ」

「ガディス殿の言うとおりです。先駆けはぜひ僕に」

「クロード、それはあたしの役目さ。譲るつもりはないね」

「悪いけど、それはわたしがやる」

「アリステラ姐さんはいっつもじゃん。アミール、ちょっと言ってあげて」

「うーん、僕が言って聞く人では」

「今度はわたしがやるんだぞ」

「みんな、ずいぶんとやる気ね」

「気持ちは一緒ですぅ」

「マスターはわたしが守ります。それは決められたことです。ですが、地震を起こすのはまずいのではと控えめに諫言します」

「ああ、イリアちゃん、どうかシント君をお許しください」

「さすがにわたしも熱くなってきましたわね」


 わいわい言ってる。

 ちょっとだけ心が和んだ。

 気負いがなく、かといって熱いやる気が伝わってくる。


「シントおにーちゃん、いまのミコにもできる?」

「おじ、わたしもやりたい」

「ああ、いつかできるはずさ」

「おい、シント、ミコになにを教えるつもりだ」

「そうですわ。ミリアが地震を起こしたらわたしの心臓が止まります」

「あのー、シントさん、もし眠れないのでしたらお夜食でも……」


 ルーナちゃんがそんなことを言う。

 よし食べよう。いますぐ食べよう。


 それから、結局みんなで夜食を口にしながらの話語りとなってしまった。

 まあでも夜食の魅力にはかなわないってことで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ