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ドーン・イン・フォールン 18 光明

 エターナルズの副学長派がこちら側に加わったことで、かなりの進展が見えた。

 カラデインさんは意識がないので他の方に話を聞き、情報を得る。

 その中には貴重なものもあった。


 やはり、フォールンを支配する司令官は行政府施設にいて、そこから命令を下しているとのこと。

 ただ、表に出ることはなく、引きこもっている。中でなにをしているかは誰も知らないという。


 饗団はフォールンの牢獄を解放し、全員を従わせた。収監されていた元貴族や、街でくすぶる爵位の低い者たちを要職につけ、フォールン行政府や帝国への不満を利用する。効果的なのは認めよう。ただ、悪辣なやり方をするものだ。


 ゲース将軍もその一人なんだろう。どうでもいいことだが。

 他に気になることといえば、生き残った人々の情報だ。

 多くの者が処刑されたが、フォールンの街を回すための最低限は確保され、役人として働かされている。

 重要人物のうち、殺害した場合に反感を買うであろう人物はまだ生かされているとのことだ。


 特に喜ばしいのは、アルフォンス長官の生存が確認されたことだろう。

 あの人は冒険者たちを生かすため、饗団に逆らわないよう説得した。

 従うふりをしておけば、いつか必ず反撃の時が訪れる。逃げるチャンスもあるだろう。そうカラデインさんには言ったそうだ。


 是が非でも助けないと。俺も彼には世話になっている。

 それと、ウチの新本部のことも聞いてみた。

 残念ながら、エターナルズの人たちは詳しいことを知らないようだが、少なくとも壊されてはいないらしい。


 ジュールズ社長やタタラズさんといった店舗のオーナーたちの情報はほとんどなかった。姿を消し、店は放置された状態だという。

 生きていてほしい。無事を祈るばかりだ。


 エターナルズの副学長派は古街へ行ってもらう。カラデインさんがまだ回復していないからしかたない。それと、彼らが言うには、戻ってもカス扱いされるだけなので、帰りたくないようだ。


「強引に通らなくてよかったよ。ありがとう、カサンドラ」

「礼はいらないさ。エターナルズはそもそもヘタレだって話だし、押せばいけそうだと思ったんだよねえ」

「あー、そうそう、わたしも聞いた。エターナルズの人たちって女の人が苦手なんだってさー」


 ……ちょっとかわいそうになってきた。


「地図が一番の収穫だ。これをもとに探そう」


 彼らは地下遺跡の地図を持っていたので、もらった。

 もちろん一部にしかすぎないが、憲兵たちがいそうな場所に丸がしてある。

 ワーカーズの連中に渡さなかったのは、せめてもの意地悪、といったことかもしれない。


 探索を再開する。

 丸のついたところを数か所、回ってみた。

 憲兵たちはいない。


 だが、最後のところで倒れている男たちを発見した。

 それと血だまり。


「ワーカーズだね。ここで戦いがあったみたいさ」

「シント、引きずった跡、ある、よ」


 血の痕が奥に続いている。

 行ってみるべきだろう。

 お互いにうなずき、走る。


 そして、見つけた。

 巨大な広間だ。こんな場所があったなんて、信じられない。


「ちいっ! 追手か!」

「こうなれば!」


 俺たちを見るなり、憲兵の制服を着た者が襲いかかろうとしてくる。


「待て! おまえたち!」


 久しぶりに聞く声だ。

 見た目からして厳格、といった風の男性がやってくる。


「……」

「お久しぶりですね」


 がしっと肩を掴んできて、くわっと目を見開く。


「アーナズ君! 待っていたぞ!」


 俺の名を聞き、ぐったりと休んでいた憲兵たちが立った。


「臨時特別捜査官殿!」

「戻って来たのか……彼が」

「副長官! これで!」


 ものすごく盛り上がっている。

 まだなにもしていないから、喜ぶのは早いだろうに。


「副長官、さっそくで申し訳ないのですが」

「反撃するのだな?」

「ええ、もちろんです」


 さらに盛り上がる。だけど、彼らはみなボロボロ……というのが控えめな表現なほど、疲弊しているように見えた。


「ですが、さすがに疲れていらっしゃる」

「なに、このくらいはわけのないことだ。正義を為すためにはな」


 苦笑するしかない。副長官の正義感は衰えを知らないようだ。


「これで全員ですか?」

「いや、何か所かに分かれ、潜伏している」

「物資はどのように調達を?」

「ビョー子爵やアルフォンス長官が密かに援助してくれた。他にも、匿名で支援してくれた者もいる。まったく、素晴らしい御仁たちだ」


 総監代行ビョー子爵も無事か。

 匿名の支援というのも、心が熱くなる。表向きは饗団に従い、裏では街の解放を願っている市民がいるということだ。


「だが、それにも限界があった。ゆえに我らは玉砕を覚悟で突撃を計画していたのだが」


 それはいけない。玉砕など、許さない。


「君が死んだと聞いた時、まったく信じられなかった。しかし……半年以上もたって現れるとは思いもしなかったよ」

「いろいろありまして」


 それから互いに情報を交換する。


「アークスとパラメイズ港を奪還……か。予想以上だ。君というやつは」


 副長官はそのたくましい体を震わせている。

 それを周囲の憲兵たちが涙目で見ていた。

 暑苦しさはあいかわらずだ。


「それで…………これからどうする?」

「予想のとおりなら、フォールンは一時的に手薄となります。それが好機だ。副長官方はタイミングを見て反攻を開始してほしい」

「もちろんだ。準備しておこう」

「俺たちは古街から出て、中心部に遠いところから順にやります。あなたたちは第四地区か第五地区を」

「第四地区には一つ出入り口がある。ここからだと少々遠いが、なんとかなるだろう」

「わかりました。とりあえずいまはここで休息を。食糧をあとで送りますね」

「そこまでやれるのか。己の不甲斐なさが情けない」


 そうは言うけど、半年に渡って抵抗を続けるなんて、普通じゃできないことだ。


「時が来たら、ここへミッド少尉を送ります」

「ああ、待っているぞ」


 とてつもない力の握手をされて、戻る。

 これで一つ目的は達成された。戦える憲兵の数は五千を超えるという。

 反乱以前の公職についていた憲兵の数は二万人を数えていたが、四分の一も残っていた。正直、千人くらいかと覚悟していたが、朗報と言っていいだろう。


 あとは街の人々がどこまで協力してくれるのか。

 運の要素がでかすぎて、それがずしりとのしかかってくる。

 だが、大穴事件を乗り切ったんだ。俺はそれを信じるのみ。


「カサンドラ、ラナ、ダイアナ、助かった。戻って休もう」

「ああ、見つけられて安心したよ」

「けど……ウチの本部、好き放題されてるかもね」

「……悔しい、です」


 ああ、そうだ。悔しいんだ。

 手に入れるのも大変だったし、軌道に乗せるのも楽じゃなかった。

 

「わかってる。いまは……力を溜めよう。少しでも強く爆発できるように」


 始まればもう止まらない。

 予想だにできないことも起きるだろう。

 でも、それでも、取り戻す。



 ★★★★★★



 ギルドに戻り、みんなから報告を聞く。

 憲兵たちと無事接触ができたことはウチのメンバーどころか、古街に逃げ込んできた憲兵の方々を安堵させ、喜ばせた。


 あとはこちらの思惑通りにことが進めば、すぐに好機が訪れるだろう。

 だが、それでも不安要素は消えない。なにが起きるかはわからないのだ。


 今日のところは解散し、みな眠りについた。

 俺も寝ようとしたけど、なかなかその気になれない。


 ギルドの中で一人、椅子に座る。

 誰もいない。静かなものだ。

 こういう時はきっと酒でも飲むのがいいんだろう。

 飲みたいとは……思わないが。


 大きな戦いを前にして、魔力はたかぶり、力がみなぎっているのはわかる。

 しかし一方で、いつまでも気が晴れることはない。


 一人でいるとのしかかってくる重苦しい『なにか』。

 その正体がなんなのか、わからない。わからないのだ。


 ディジアさんとイリアさんは、いまだに目を覚まさない。

 力はまだ弱くて、いつまた小さくなるかは誰も予想できないだろう。

 焦りが大きくなり、その分自分がどんどん小さくなってくる錯覚を覚える。


 気がつけば暗いところにいて、沈んでしまいそうだった。

 みんなには偉そうに言ったけど、俺にはできるのか?

 誰一人として欠けることは嫌なのに、激しい戦いへと誘ってしまった。


 ずっと矛盾し続けている。ずっと、ずっと、ずっとだ。

 俺が立てた作戦で多くの人が傷つき、倒れた。命を失った者もたくさんいる。

 相手が饗団なら、もう手加減も遠慮もしない。それはいいんだ。

 だが、彼女たちが命を賭して守った世界と人類は、飽きることなく今回みたいなことを繰り返している。

 もう後戻りができない俺は、どんな顔をして二人に会えばいい?


 もう二度と折れることはないと思っていたのに、時が進むにつれ、決意が薄まっていくような錯覚を覚える。

 これをどう消せばいいんだ?


 誰か教えてくれないだろうか。

 そうだったら、どんなに楽だろう――


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