ドーン・イン・フォールン 17 エターナルズ
まずは周囲を確認する。
燭台や立てられた松明により、この場は明るく照らされていた。
たむろする男たちまでの距離はおおよそ三十メートル前後。これ以上は近づきたくないところだ。
≪心意ノ波形≫で探知をしたいが、相手が魔法士なら対策をされている可能性もあるし、逆にこちらの位置を知らせることになりかねないから、やらない。
迂回できるような道は見当たらない。彼らがいる場所は円形の空間であり、奥へと続く道がある。割と広く、拠点にするにはもってこいだろう。
「シント、相手は冒険者なんだ。買収できないかい?」
どうするかを考えていると、カサンドラがそんなことを言う。
「買収?」
「あんたは嫌かもしれないけどさ」
いや、ぜんぜん問題ない。
しかし買収とは、思いつかなかった。
彼ら冒険者が心から饗団に与しているとは思えないが、どうだろう。
しかし『エターナルズ』だとしたら、彼らは魔法士のみで構成されたギルドだ。金で動くとは思えないんだよな。
「どうするんだい?」
「……話してみるのもありか」
決まったら即行動。ラナとダイアナにはこのまま身を隠してもらい、交渉ができない時の切り札になってもらう。
「カサンドラ、行こう」
「ああ」
物陰から出て、近づく。
とうぜん、気がつかれた。
「副学長、誰か来ましたよ」
学長?
「彼らが戻ってきたか」
「いえ、ワーカーズではないようですが」
「……そうか」
十人くらいの集団で、みな厚手のローブ。フードをかぶった者もいる。
三人が杖を持ち、どれも魔導具っぽい。
副学長、と呼ばれた青年がずれた眼鏡を直しつつ、俺の前に来た。
「……って、『烈光撃槍』じゃないか。もうとっくにやられたと噂になっていたが」
青年がカサンドラを見てうなる。
それにして『烈光撃槍』だって? 異名が変わっている。しかもめちゃ強そう。
「あんたたち、エターナルズだね?」
「ああ、そうだよ。私はカラデイン。『火炎弾丸』と呼ばれることもある。エターナルズで副学長を務めている者だ」
彼は右手を挙げた。それが合図となり、他の男たちが魔法を構える。
「待ちなよ。あたしらを通してほしい」
「あの『烈光撃槍』の頼みとあれば通したいのはやまやまなんだがな」
いきなりしかけてくることはなさそう。なので、気になることを聞いてみる。
「ちょっと質問なのですが」
「ん? 君は……」
「ギルドマスターのシント・アーナズです」
「それって……『Sword and Magic of Time』の?」
「はい」
エターナルズの冒険者たちが急にざわつきはじめた。
「謎に包まれたギルド連合のトップ……まさか会えるとはね」
謎に包まれているのか? そんなことはないと思うが。
「別に謎にはしていませんけど」
「そうかな? 正体は杳として知れず、オリハル級でありながら企業も経営。瞬く間に商業区への進出を果たし、そのギルド名から剣と魔法を使いこなす人物だともっぱらの話だが」
わかるようでわからない人物像だと思う。
「半年以上前に亡くなった、と聞いた」
「いえ、生きてます」
「そのようだね。ニセモノじゃなければだが」
彼は興味深そうに、俺を見る。
「それで、質問というのは?」
「副学長、というのはいったい」
「……ん? そんなことを聞きたいのかい?」
心なしか、エターナルズの人々はがくうっとした気がする。
「あ、いや、てっきり饗団と手を組むなんて、とか言われるかと」
そう言われましても。気になるし。
「我がギルドでは、マスターが学長、副マスターは副学長、と呼ぶんだ。創立時からの習わしさ」
「なにか理由が?」
「ずいぶんと聞いてくるな」
「俺も魔法士ですし、エターナルズのことは気になっていましたよ。見学に行こうかとも考えていたくらいです」
「なるほどね。まあ、理由については単純だ。我がギルドは魔法の研究が第一であり、魔法学を探究する団体。ゆえにマスターは学長なんだよ」
はー、そうだったのか。
「すごいじゃないですか」
「すごくはないさ。我らはラグナでもなければ、グーレンベルクやメギストスのような魔法貴族でもない。一般家庭の出で、たまたま魔法の【才能】を持っただけ」
「でも、別に魔法の研究をしてはいけないなんて法はないはず」
「そう言ってくれるのは、嬉しいが」
悪い人たちではなさそう。あとは交渉に応じるかどうかだ。
「で、あたしらの話を聞く気はあるかい?」
「……」
カラデインさんは迷っているようだ。
「君たちはここでなにをするつもりなんだ?」
「フォールンを解放するために準備を」
「……それは、本気……なのか?」
隣のカサンドラは苦笑いだ。いきなり本音を言うとは思ってなかったんだろう。
「いまここで戦うつもりはありません。ちょっと通してくれればいい」
「それはさすがにできない。我らはここで不満分子を捕らえる任務を請け負っている」
「エターナルズは魔法の研究者集団でしょう。罪のない人間を捕らえるのが仕事だとは思えない」
「言いたいことはわかるが、研究するにも金がかかる。だから冒険者として活動しているんだよ」
結局は戦うしかないのか。
周りの魔法士たちが動き始める。
俺たちも臨戦態勢だ。
だが――
「副学長、これは好機なのでは」
「そうそう。こっちがエターナルズの本家ってことでいいんじゃ」
様子が変わった。彼らは手を下ろし、戦闘態勢を解く。
「いまの学長は、なにかにとり憑かれているとしか思えませんね」
「おれたちにこんな仕事をさせて、嫌がらせもはなはだしいですよ」
不満をぶちまけている。
「どうやら事情がありそうですね」
「……まあ、その、なんだ。我らは学長から好かれていない」
「学長は、副学長が若いから嫉妬してるんですよ」
「そういうことは言うな。あの人は師のようなものだ」
話を総合すると、彼らは副学長派であり、カラデインさんが若くして台頭したものだから、学長から疎まれて雑用のようなことばかりさせられているらしい。
「ラナ、ダイアナ、もう出てきていい」
おそらくはもうだいじょうぶだ。
二人がすっと現れ、誰かがごくりと息を呑む。
「『音無ノ女』に『幽玄識眼』もいたのか……」
「潜ませていたわけ? さすがに相手が悪い気がする」
『音無ノ女』に『幽玄識眼』って、二人も異名が変わってる!?
なんかずるい。俺は異名なんてないのに。
「つい一昨日に、アークスとパラメイズ港を奪還しました。ここも慌ただしくなるでしょう」
「はあ?」
「知らなかったので?」
「我らは……ここにもう五日もいるからな……だが、それはつまり、帝国が反撃を始めたということだろうか」
「上に出て確かめてみては?」
「……」
全員の目がカラデインさんに集まる。
「利害は……一致が可能、か。勝算はあるのかい?」
「それなりには。あなたがたが加われば、さらに確率は上がります」
「そうか。うーむ……」
「副学長、我らはこのままだとずっと雑用です」
「学長はもう饗団の犬だ。力をもらえるならおれたちだって切り捨てますよ」
みんなうんざりしていたんだな。
「私にもこうして慕ってくれる者たちがいる。彼らをおいそれと死地に飛び込ませることなどできない」
「交渉は決裂ですか?」
「いや、安心できる材料が欲しい。君は魔法士なのだろう。力を見せてもらいたい」
そうきたか。いいだろう。
「ではさっそく。≪魔衝――」
「ちょっとちょっと! 障壁を――」
「一秒待ちます。カウントいち。はい≪魔衝撃≫」
「おわあっ! ≪ファイアシールドォーーーーーー≫!」
大きな魔力弾がカラデインさんを吹っ飛ばす。
シールドは間に合ったから、たいしたダメージはないだろう。
「副学長!?」
「な、なんだいまの魔法……ありえんぞ。副学長がここまで……」
彼は壁に背をぶつけ、倒れる。
しかし意識を失っておらず、仲間の肩を借りて立つことができた。
「な、なんて威力だ。さすがはオリハル級……しかし、いきなり最大で撃ってくるとは」
「いえ、手加減はしました。最大ではありません」
「へ……?」
「いまのは百分の一くらいです」
「ぶっ!?」
わざと大げさに言った。こういう時は効くだろう。
「……君に乗ろう。フォールンの解放に加わる」
「ありがとうございます」
「落ち着いたら君とは……魔法の話をしたい……おうええ……ごふう」
「副学長!」
「カラデインさんがゲロ吐きながら気絶だって? なんてこった。これが……『烈光撃槍』『音無ノ女』『幽玄識眼』を従える男……」
交渉は成立。
思いがけず仲間が増えた。
ここへ来てよかったと思う。




