ドーン・イン・フォールン 15 君の女神
戦艦ディエンドはフォールンの近郊に到着。
場所は鉱山跡になる。
ここはとても懐かしい所だ。俺とマスクバロンとカサンドラにとって思い出がある。
もう二年以上前のこと。ここでは違法な労働がなされ、人が奴隷のように働かされていた。
カサンドラはアミールを人質に取られ、アクトー子爵という悪党に駒として扱われていたのだ。
さらには『絶望の暴君』という最悪のモンスターが眠っており、それが起きたせいで、鉱山は破壊された経緯がある。
だが、放置されたままのおかげでいい具合にスペースがあり、ディエンドを着陸することができた。
そこからは≪空間ノ跳躍≫で移動。
古街へひとっとびだ。
ギルドを二日ほど空けていたが、変化はない。
すぐにミッド少尉と会い、状況を聞く。
ここ数日、古街の様子を偵察に来る兵士たちが激減しているという話だ。
アークスでの出来事に反応しているのは、タイミングを考えても明らか。
いまのうちにできうるかぎりの行動をしておこう。
「あ、それとミュラーさんという方が来ていますよ」
「ミュラーさんが?」
「ええ、そこらへんにいる、と言っていましたが」
そこらへんって、どこらへん?
「戻って来たか」
いきなり声をかけられ、びくうっとする。
振り向けばそこには、仏頂面の男性がいた。
「ミュラーさん」
「どこかに行っていたようだな」
「ええ」
ざっと話す。
ミッド少尉は跳び上がった。ミュラーさんは普通だ。
「場合によっては挟撃も可能。どちらに転んでも悪いようにならない。まるで天上から大地を見ているかのような戦略」
彼は感心したようにうなずいた。
「本来であれば数カ月はかかりそうなものだ。どうやって時間を短縮した?」
「いろいろ使いました。使えるものは全部です」
「それを聞くのは、長くなりそうだな」
「そうですね」
「ちょっとちょっと! お二人だけで納得しないでくださいよ! アークスとパラメイズ港が解放!? 大ニュースではありませんか!」
それはまあ、そうだけど。
「ミッド少尉、近いうちに動きます。そのつもりで」
「……! わかりました。古街にいる憲兵にも伝えておきます」
ミッド少尉が小走りで去っていく。
「ミュラーさん、古街へはどうやって? 大変だったのでは?」
「そうでもない。フォールンの地下はどこを掘っても遺跡が出るという話が有名だろう」
「つまり、地下を?」
「古い下水道を通った。だいぶ入り組んでいたがな」
ふむ。これはなかなかに良い情報だ。地下遺跡には忌々しい思い出が多いから考えないようにしていたが、俺の魔法と合わせれば、光明が見えるかもしれない。
「ミュラーさん、頼らせていただいてもいいでしょうか」
「構わない。そのために来た」
なんだこの安心感。やばいぞ。なにもかもを委ねたくなってくる。
「さしあたってどうする」
「ウチのギルドへ来てください。打ち合わせを行います」
「いいだろう。ついでに魔導具のメンテナンスをする」
うおお、一気にテンション上がってきた。
★★★★★★
ミュラーさんに事情を話す。
彼はそれを黙って聞いていた。きっと信じられないだろう。しかし、真実だ。
話し終えたあと、沈黙が訪れる。
「……かつて」
彼はつぶやくように語る。
「俺の故郷には十二の神がいた。しかし、神々の間に対立が起き、二柱の女神が世界から離れ、さらには冥府の女王が楔を取り払い、自らを世界から切り離したという」
なんの話だろう。聞いたことのない神話だ。
ミュラーさんから目を離せないのはなぜだろうか。
「君の話を聞き、なんとなく頭に浮かんだ。特に理由はない」
「そうですか」
「神の実在する。しかし人間の前に現れることはない」
「ミュラーさん」
「信仰は人を縛り、狂わせることもある。いまは饗団がそうなのだろう」
超常の存在は、憧れであり恐怖。そう彼は口にする。
「俺には、俺にとって女神に等しい存在がいる。それが妻だ。そして君には君の女神がいる。だから求める。守る。その行為になんら問題はない」
謎かけみたいな言葉だらけなのに、心が落ち着いてくる。
「俺には君の千々に乱れた精神体が見える。かろうじて繋ぎ止めるものもな。それを大切にすることだ」
「……」
さっき上がったテンションが下がりまくって、突き抜けてしまった。
「改めて策を聞こう」
「え、ええ、説明をします」
考えていることを話した。それを聞いたミュラーさんは、あごに手を当て、思案している。
「地区を一つ受け持とう」
「あなた一人で?」
「ああ」
なんてことないように言ってるけど、一人で千人規模を相手すると言ってるようなものだ。
「君の手に乗る。決行は軍の大方が街を離れたあと」
「なにをするつもりか、聞かせてください」
「前の注文を覚えているか? 隠密メットのことだ」
ラグナに行く前におねがいした変装用のアレかな。
「そう、あれは旧帝国時代のこと……」
彼は両手を組み、いかにも感じで昔語りを始める。
「帝都には有名な都市伝説があった。『黒の貴婦人』というものだ」
「は、はあ」
「黒の貴婦人の正体は帝都を震え上がらせた連続殺人犯。しかし、それを止めたある人物の伝説が存在する……」
「そう……ですか」
いったいなんの話なんだ。
「夜の帝都を駆け、人知れず悪を討つ。その者の名は……『黒ノ王魔』」
なんだそれは。
「いまはもう忘れ去られたかもしれない。だが、復活させてもいいだろう」
「すみません、話が見えない」
それにしても『黒ノ王魔』ってすごいネーミングだな。全身がかゆくなってきたんだけど。
「ことを起こす前日の夜、敵指揮官級に標的を絞り、これを討つ」
「つまり、闇討ち……」
「そうだ。不服か?」
「いえ……最高です!」
思わず親指を立ててしまった。
「殺しはしないさ。ただ、肝心な時に動けないよう再起不能にする」
ミュラーさんはやる気だ。
「計画を一部修正します。少し楽になったと思う。ですが無理はいけません」
「タイミングさえ見極めれば、無理も一つの手だろう」
いやそれはおすすめできないことなのですが。
「俺は準備を整える。日にちを定めたら教えてくれ」
ミュラーさん、心なしか嬉しそうなんだけど。
とりあえずは好きにさせよう。邪魔するのも気が引ける。俺にも変装用の装備があるから、なんなら手伝ってもいいし。
では次だ。
さっそく動く。
みんなを集め、テーブルにフォールンの地図を広げて、会議を行う。
第一地区、第二地区は無視していい。街人はほとんどいないから考慮には入らない。
古街に一番近いのは、新市街。ただし、新市街に住む人はおそらく抵抗する力がない。次に近いのは商業区だが、饗団兵が多いため、攻めるにはリスクがある。
「第五地区なんだけど。ジョルジオ、敵の配置はわかる?」
「ああ、だいたいはな」
ジョルジオは第五地区で抵抗を続けていたからある程度の情報を持つ。
彼に『剣棋』の駒を渡し、置いてもらった。
「中心部から遠い地区から順に解放していく。これは相手の対応がどうしたって遅れるからだ」
時計周りがいいだろう。新市街に出て、外縁部を進むつもりだ。
「第六、第七地区の情報はまだない。グレイメンさん、マスクバロン、いまのうちにできるだけ情報を頼みます」
「ああ、いいだろう」
「任せてくれ」
無理はしないよう重ねておねがいする。
「少し厄介な問題があるんじゃないかい?」
「カサンドラ、続きを」
「ああ、たぶん冒険者が出てくるはずさ」
「饗団に従う者たちか」
「そうだねー、冒険者たちは軍に組み込まれてないってさー。遊撃隊? ってやつ」
「ああ、前もちらっと話したけど、Aランクギルドの連中はだいたいあっち側なんだ。饗団兵とは別の嫌な戦力だね」
敵は複数。ただでさえ厄介な兵士たちに加え、街を動き回り逆らう者を狩る冒険者たち。そしてもっとも恐ろしいのは、機械兵と天至だ。
「……」
「どうしたのよ、ハイマス」
ほんとうにそれだけか?
結局のところ、敵の司令官は誰なのかがわからない。
行政府にいるのは間違いなさそうだが。
嫌な予感がするな。
しかし、足踏みはできない。
「明日から行動だ。いったん古街の指揮はグイネヴィアさんとガディスさんに任せます」
「それはいいけどさ、あんたはどうするじゃん?」
「カサンドラ、ラナ、俺と一緒に。それとダイアナも、頼む」
楽しい楽しい地下探検としゃれこもう。




