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ドーン・イン・フォールン 14 作戦会議室にて

 フォールンを饗団から奪還する。

 その目的を達成するため、俺たちは帰還している途中だ。


 空を征く戦艦ディエンドは、高高度を維持し航行中。人が見てもわからない高さであれば迷彩をかける必要もない。


「アテナ、体調はどう?」

「問題ありません、マスター。そしてその質問は十二回目であると言っておきます」


 彼女は振り向いて微笑む。

 だって心配なんだもの。


 アテナはずっと起きっぱなしで、パラメイズ港での仕事が落ち着いたとたんに倒れた。がんばりすぎだ。


「フォールンへはまだ時間がある。いまのうちに話しておくか」

 

 ラナたちを呼んでもらい、ブリッジでの作戦会議と行こう。

 すぐにやってきたマスクバロンとグレイメンさん、そしてラナと俺で、輪を作る。


「頼んでた件はどうかな?」

「ごめん。あまり詳しくはできなかったよー」

「警戒は厳しい。おれも行けるとこまでは行ったんだけどね」

「グレイメン君とラナ君はよくやっただろう。敵が手強いだけだな」


 多くは求めない。危険が多いなら無理をすべきではないだろう。

 二人から現時点でわかっているフォールンの状況を聞く。


 マスクバロンの意見を交え、出た話を整理した。

 やはりというか、いまのフォールンは自由がない。各区域の出入りは制限され、まとまった反抗など不可能。


 俺自身も少し見ているから、そこはいい。

 知りたいのは倒すべき標的と、潜伏している憲兵たちの居所だ。


「誰がトップかはわからなかったんだー。でもおおかたの居場所はわかると思う」


 ラナからの話では、中央区、とりわけ行政府施設の警戒がそうとうに厳しく、各部隊が絶妙な間隔で配置されているという。しかも隊に最低一人は感知系【才能】を持つ者がいて、隠れて入りこむことはまずできない。


「誰が仕組みを作ったかは知らないが、そうとうな切れ者だ。注意したほうがいいと思うね」

「マスクバロン、心当たりは?」

「ないこともない。饗団の最高幹部クラスがいる可能性もある」


 それは心に留め置いておこう。


「あとは天至と機械兵か」


 やられて一番嫌なことは、天至に無差別破壊をされることだ。

 つまり俺が集中するのは、そこ。

 天至という相手の切り札を倒し、形勢を逆転する。


「アテナ、全員に伝達だ。作戦会義室に集合。フォールンへ着く前に、あらかじめ話をしておきたい」

「承知しました」


 戦艦ディエンドには『ブリーフィングルーム』なる部屋が存在する。アテナがなぜそのようなことを知っているのかさておき、利用させてもらおう。



 ★★★★★★



 照明が薄い一室にほぼ全員が集まっている。

 艦内の家事についてはルーナちゃんに一任しているため、いまは彼女とミコちゃん、ミリアちゃんに食事の準備をしてもらっている。


「フォールンまで少し時間があるから、みんなと作戦について話したかった」


 すぐに始めよう。


「まず目的は二つ。敵の配置を調べること。そして、憲兵隊と連絡をとることだ」

「敵の配置について詳しく頼む」


 これはガディスさんの言葉だ。


「襲撃をするにあたり、主要な、つまり急所を突く必要がある。フォールンでは援軍が望めない。だから効率を重視します」

「わかった」

「ハイマスター、憲兵との連携を考えているのですか?」


 今度はクロードさん。


「アークスでは情報の漏洩を避けるため、連絡を取りませんでしたが、今回は違います。憲兵が動かなければ、蜂起は不可能だ」

「街人を動かすために必要なのですね」

「ええ。なので、フォールンが手薄になるまでの数日が勝負。敵軍が街を離れ次第、動きます」


 おお、とみんなから声が上がった。


「水を差すようですまないが、敵軍が動かない場合は?」


 マスクバロンの意見はもっとも。

 これは一度話したことではあるが、おさらいのつもりでもう一度言っておこう。


「いろいろありますが、一番よさそうなのは、一点突破でしょう。敵の頭を即座に叩き、逃げる」

「うーん……」

「それはあとが怖そうさね」

「とはいえ、フォールンから軍が動かければ、アークス勢が有利になるということでもある。大きく見ればそれはそれでいいってわけ」


 あとは予想外のことが起きた時を思う。

 こちらは一人一人の質に疑いはない。最高の仲間たちだ。

 しかし人数差は圧倒的。


 俺は考え抜かなければならない。

 敵を欺き、出し抜く方法を。


「シント少年、ちなみになんだが」

「ちなみに、なんです?」

「最悪かつ最高の方法を聞きたい」


 なんの話だ?


「あるのだろう?」

「シントさん、僕も興味があります」

「聞きたくないけど、聞きたいわね。教えてよ、ハイマス」


 ないことはないけど。

 なんだか場がざわざわしてきた。

 実際にやらない方法を聞いても意味はないと思うが……


「行政府施設を一撃で丸ごと全部爆破する」

「……」

「……」


 やらないよ?

 普通の人が中にいるかもしれないし。


「くっくっく……他には?」

「まだ聞くんですか?」

「緊張しているばかりでは、みなもつらいだろう」


 ええ……

 じゃあしょうがない。


「敵兵だけ全員空間の移動で海上に放りだす」

「……」

「……」


 できないよ? いや、やればできそうだが代償は身の丈以上の魔力を消費したことによる精神体の崩壊。つまりは、死だ。

 今にして思えば、あの剣魔大戦ではディジアさんもイリアさんもそれをしたのだと思う。大魔法を使い続け、外導神を封印できたはいいものの、倒れた。


「一対一を二万回繰り返す、とか」

「……」

「……それって、アレでしょ? 全部の兵士を一人ずつおびき出して始末するってことよねえ?」

「戦術の基本ではある」

「たしかに。数の差がなければ遅れはとりません」


 真面目な顔でガディスさんとクロードさんがうなずいている。


「いやいや、いまのはシントの冗談、だろ?」

「え?」

「え?」


 カサンドラは目が点だ。

 冗談じゃないよ? 条件さえ整えばやれるだろうし。ただ、条件を整えるのに多大な時間と労力が要る。つまり費用対効果が悪すぎる。それこそ、最悪かつ最高の方法だ。


「いやはや、面白い手を考えるものだ。さすがはシント少年」

「話の腰が折れましたよ。どうするんですか、この空気は」

「空気をおかしくしたのは君だろう」


 人のせいかよ!

 

「とりあえず、古街にこだわる必要はなくなったから、縛られることはない。だけど、あそこは俺たちの家で帰る場所だ」 


 失くすことなんてありえない。


「誰だって、帰る場所が必要なんだ。俺も……だから帰って来れた」


 間違いのないことだ。


「そして、ディジアさんとイリアさんも……」


 座して待つことなんて、俺にはできない。彼女たちが戻って来るべき場所を守る。取り戻す。絶対にだ。


「フォールンは俺たちの街だから、これ以上好き勝手やらせるなんてなにひとつ納得はできない。だから……」


 顔を伏せて、上げる。

 みんなが俺を見ていた。


「わたしたちのことは……きっと剣神さま、いえ、イリアちゃんが見ています。ディジアちゃんも」

「シスター・セレーネ」

「わたしにはもう、故郷がありません。長老さまの選択は間違いではないんでしょうが……」


 ダークエルフの里にはもう戻れないだろう。


「ですから、フォールンがいまはわたしの居場所なんです。取り戻しましょう、シント君」

「わたしも同じだと、控えめに言います。ビッグウッド山はもうないのですから。でも、マスターが破壊したわけではないと明言しておきます」


 明言してくれるのはいいんだけど、それだとかえってかばわれているような印象を受けますね。うん。


「そうそう、みんなよく聞いてくれ。ビッグウッド山が吹っ飛んだのは俺がやったわけじゃないから」


 無言。そして疑惑の視線。

 だめだ。話を変えよう。


「そういえばシスター・セレーネ。長老から聞いたのですが」

「はい、なんでしょう」

「水の上を走れるというのは、ほんとうですか?」

「……? できますよ?」

「それは右の足が水中へ落ちる前に左足を……って感じですか?」

「そうですが、どうしたんですかあ?」


 やっぱできるのか。


「え? みなさんもできます……よね?」


 なんかできて当たり前みたいに言ってるんですけどぉ?

 これについては誰も返事ができなかった。


 しかし朗報ではないだろうか。

 ウチのギルドには魔法を使わずに水上を走れる女性がいる。

 なんてすばらしいことだ!

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