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ドーン・イン・フォールン 11 名付けて――空爆

 各所にて戦いが終わったことで、主だった全員が集まってくる。

 あともうひと踏ん張り、と行きたいといころだが、その前にこの神剣のレプリカを誰かに渡そうと思う。

 ということで、ガディスさんに話しかけてみた。


「戦いの途中で剣が折れましたよね」

「数打ちの安物だ。頑丈なものじゃない」

「ではこれを」

「……?」


 神剣『水姫』のレプリカを渡す。彼はそれを軽く振って感触を確かめた。


「いや、いい。おれよりもふさわしいヤツがいるだろう」


 ガディスさんはクロードさんに渡した。


「僕ですか? せっかくの話ですが、いりません。これはエーギル家の所有物ですし、僕が持つといろいろ面倒が起きそうです」


 クロードさんにも拒否される。

 離れたとはいえ、ティール家出身の人間が持つのはまずいらしい。お家の事情ってことだな。

 どうしようかと考えていたところ、侯爵親子やジェラルド長官がやってきた。


「シント殿!」

「アーナズ君、ここだったか」

「まさか敵将を捕らえるとはな」


 ダヴィド・エーギルは気絶し、縛ってある。

 長官と握手を交わし、後処理を頼む。彼は侯爵に一礼し、すぐに仕事へ取りかかった。


「あ、そうだ」


 いいこと思いついた。


「マクシミリアン君、これあげる」

「……? この剣は」

「神剣『水姫』のレプリカだよ」

「……へ?」


 これに反応したのが、父親だ。


「待ちたまえ。さすがにそれはどうかと思うぞ。私の息子を甘やかさないでほしいのだが」

「でもほら」


 マクシミリアン君は感涙にむせんでいるようだ。


「シント殿……これは家宝にします! 絶対に家宝にします! おおおおお! やったー!」

「マクシミリアン! そのような高額なもの! あとでアーナズ君に借りを返せと言われたらどうする!」


 なんてひどいことを言うんだ、この人は。


「初陣を生き延びたのだから、このくらいはあってもいいでしょう」

「まだ早い。調子に乗らせたくないのだ、私は」


 息子の教育に厳しいんだよな。

 それはさておき、まだ戦いは完全に終わっていない。


「カサンドラ、みんなを連れてディエンドへ。アテナ、対岸のパラメイズ港上空まで来てくれ。迷彩をかけて、見つからないように」

「承知しました、マスター」

「シント、あんたがたびたび口にするディエンドってのは結局なんなんだい? ミューズたちも先に行ってるんだよねえ?」


 話してなかったかな。そういえば話してない気もする。


「わたしも気になる。なんなのそれ」

「メリアムさんたちが先に行ってるんなら、家かなにか? それとも……ハイマスのことだから城だったりして? めっちゃ豪華なやつ」


 リーアはなんだか変な想像をしているようだった。


「行けばわかるよ。それまでは秘密」

「シント、意地悪、です」

「でもなんだか、久しぶりに笑顔を見た気がしますぅ」


 俺、笑ってなかった?

 そうかな。そうかもしれない。


「束の間の休息で申し訳ないんだけど、頼んだ。俺が合図したら、下に移動させてほしい」


 というわけで、≪空間ノ跳躍(ジャンプ)≫を使う。

 ウチのメンバーをヴィクトリアを残し、移動させた。


「では侯爵、俺たちは先にパラメイズ港へ向かいます。船と水夫を調達し、渡河を。ガランギールさんたちにも――」

「アーナズ殿、ここだったか」

「シント、これで終わりか?」


 ちょうどよくガランギールさんと長老が来た。ちらっと見たけど、とんでもない戦いをしていた気がする。

 ガランギールさんは大砲クラスの≪アクアボール≫だったし、長老の雷魔法は、一撃で敵兵を百人くらい吹き飛ばしていたと思う。


「いったんは終わりですが、少し休んだあとは船を調達し、渡河をおねがいします」

「船などいらないだろう」


 なんで? まさか長老も飛翔を?


「そういえばセレーネはどこだ?」


 さすがに心配なんだな。


「心配はいりません。すでにディエンドへ」

「うん? 心配などしてないがな。儂とバシレウスとセレーネであれば、水の上を走れる」

「走れる……? 泳ぐのではなくて?」

「うむ」


 魔法で走るのか。


「右足が落ちる前に左足で水上を蹴り、左足が落ちる前に、と繰り返せば問題ないだろう」


 問題ありすぎぃ! そんなわけないだろ!

 ていうかシスター・セレーネってそんなことできるのか。あとでこっそり聞いてみよう。


「ま、まあ、長老殿のジョークだろう。まずはそなたに賞賛を。よくぞ敵将を捕らえた。それと」


 ガランギールさんはダメオン侯爵の前に立つ。


「こうして話すのは初めてだが、わしはガランギール。ドラグリアの族長をつとめている者だ。大戦の時以来ですな」

「うぉっほん、丁寧に痛み入る。私はリバズ・ダメオン。畏れ多くも帝室より侯爵位を賜った者。こうして会えるとは、光栄ですぞ」


 二人はがっちりと握手を交わす。


「帝国の名将と謳われる方とともに戦うことができて、心強い」

「なにをおっしゃる。あなたこそ、あの時以上に素晴らしい。今回は敵ではないことを幸運に思う」

「それこそ、こちらのセリフよ。すさまじい采配だった」

「いやいや、それはたまたまで」

「いやいやいや、謙遜を」


 おじさん同士で盛り上がっている。


「儂はダークエルフの里をまとめておったアレスターだ。ともにシントの元へ集まった者同士、一献いかがか」

「おお、それはいいですな」

「うむ、まことに嬉しい申し出」


 うーん、なんだこのノリ。とはいえ、まだ終わっていないわけで。


「俺とヴィクトリアは、王子を連れて飛びます。あとは頼みました」

「あまり無理はするな」

「ヴィクトリアを連れていってだいじょうぶなのか?」


 ヴィクトリアは俺たちの会話が退屈だったようで、資材の上に座り、足をぶらぶらさせていた。


「まだ元気みたいですし、だいじょうぶでしょう」

「役に立っているといいのだが」

「役に立つどころか、敵船を三十隻くらい撃破しましたよ」

「ふむ……ようやく成長したということだろうか」

「いや、待った族長殿。あのような若さで……三十隻!? あなたの娘はアーナズ君並み……」

「侯爵殿、アーナズ殿と我が義娘では天と地ほどの実力差があろうて」


 ガランギールさんは楽しそう。

 俺だってヴィクトリアの成長にはつい笑みを浮かべてしまう。


 とりあえず三人と別れ、ヴィクトリアとともに王子を探す。そこらへんにいる兵士さんたちにやたらキラキラした王子風の若者のことを聞いたところ、すぐにわかった。


 彼は積まれた木箱の上の立ち、大河を眺めている。

 なにか浸っているようにも見えるが、どうしたんだろう。


「アルクルス君」

「あ、シント」

「そこでなにを?」

「あー、いや、ちょっとね」


 やはり戦争に対し、思うところがあるんだろうか。


「で、もう終わり? 帰るの?」

「クルクル、まだなんだぞ」

「まだって、なに」

「いまから俺たち三人で、対岸へ殴り込みです」

「ふぇあ!?」


 敵が態勢を整える前に、叩く。

 

「さ、行こう」

「ちょっ……待ってよ!」


 飛翔の魔法を使い、飛ぶ。

 大河の川幅は最大で300キロ以上あるとされるが、俺たちであればすぐに移動が可能。

 

「シ、シントー! さすがにさ、もう息が……」

「もう少しだから、がんばって」

「いやだって魔力も」

「クルクル、諦めるんだぞ。それに、情けないんだ。わたしなんてまだまだいけるんだぞ」

「くっそー、君みたいな竜人体力おバカ娘と比べるなよな」


 二人してぎゃあぎゅあ言ってる。

 でもそれはストップだ。

 対岸が見えたのはいいが、同時に敵船団らしきものが見えた。


 もう夜も遅いというのに、ご苦労なことだ。

 数は三十隻くらいだな。アークス側の火の手を見て、慌てて来たか。

 帝国側だとまずいと思い、確認する。


「エーギル家の紋章か。ならいい。二人とも、一隻だけ残して破壊だ」


 高度を落とし、爆撃開始。

 ほとんどの船が対抗できず、されるがままだ。

 兵士たちが夜の大河に飛び込んでいく。


 約三十の船は一隻を残して、大破。

 残った最後の船へ降り立つ。


 甲板の上にいる兵士たちは、なにが起きたのかわからず混乱中。

 俺たちに気づいて挑んでくる者もいるが、一人二人じゃどうしようもない。


「沈めないの?」

「沈めるけど、一人捕まえたい」


 ものすごくちょうどいい。

 そばで逃げようとする男性の後ろ襟をがっと掴んだ。


「こ、殺さないでくれーーーーー!」

「殺さないかわり教えてほしい。あなたは雇われ? それともずっと前から饗団の人?」


 振り向いた男性は痩せていて、歳は30代くらいか。


「おれは傭兵だよ! 雇われただけ! ていうかあんた羽根生えてね!?」


 さらにちょうどいい。


「俺と握手」

「え?」


 思い切り掴んで、浮上。


「うわわわわわわわわ!」

「飛翔の魔法です。ヴィクトリア、やってくれ」

「わかったぞ! ≪ファイアギガシュート≫!!」


 離れた瞬間、魔法で爆砕。これで全滅だろう。


「ああ……一撃かい……」


 絶望する男性。暴れたりしないのは助かる。


「こちらの指示に従えば、危害は加えません」

「ほ、ほんとうか……? って、高ぇ! これ死ぬ!」

「下を見ないように」

「シント~ そんな野盗みたいな人連れてどうするの」

「だからいいんだ」


 なんの忠誠もない雇われ。うってつけの人物だろう。

 男の腕を掴んだまま、パラメイズ港へと進む。

 上空から見ると、戦艦らしき船がまだまだある。かなりの戦力だ。


「さて、武器庫は?」

「武器庫……?」

「教えないと、手を放すけど」

「はあっ!? ま、待って! 言う! アレだよ! アレ!」


 男が指さしたのは、桟橋にほど近い場所の大型施設だ。


「あの倉庫に武器がある」

「中に人は?」

「見張りが何人か。中にはいない。特にこんな時間じゃ」


 ヴィクトリアと王子を見る。さすがに意図を理解してくれたようで、魔法をぶっ放した。

 倉庫は派手に爆砕。ややあって鐘の音が鳴り、さまざまなところから武装した男たちが外に出てくる。


「次は食糧庫だ。どこに?」

「食糧庫ぉ! いやいや! それはちょっと……」

「じゃあさようなら」


 と、手の力を緩める。


「うひいいいいいいいい! わかった! わかったって!」


 この男は盗賊上がりで、盗賊団丸ごと雇われたらしい。時々食糧庫に侵入し、つまみ食いをしていたそうだ。聞いてもいないのにべらべらしゃべってくれる。口の軽い男だな。


「それって、バレたら処刑されますよね?」

「そ、それは……」

「証拠隠滅して差し上げますよ。≪巨人之土岩(タイタン・ジ・アース)≫」


 巨岩を生み出し、落とす。

 バカでかい音と揺れ。食糧庫は潰され、使用は不可能だろう。


「ヴィクトリアとアルクルス君は停泊中の戦艦を頼む。いまなら人は乗っていないだろうし、遠慮なくぶちかませ」

「マジかー……そろそろ疲れが……」

「クルクル、早く行くんだぞ」

「うごごごごご!」


 ラリアット風に腕で首をやられ、王子は苦しそうにしながら連れていかれた。

 こっちはもう主要な軍関係の施設を破壊しまくる。

 相手は抵抗などできない。空を征く俺たちの姿を認識すらできないのだ。


 たしかに王子の言うとおりかもしれない。

 空から魔法での直接爆撃――名付けるなら『空爆』は効果がありすぎる。

 戦争を変えた、なんていうのは言い過ぎだし、興味もないが、敵にしたら悪夢でしかないだろう。


 一時間がたつころには、パラメイズ港は大騒ぎだ。

 ここまでの混乱を起こせれば、アークス側からの渡河は問題ない。


「こんな……あ、ありえねえ……こんなの、壊滅……あっと、いう間に……」


 俺にぶら下がる男が細く声を絞り出す。

 饗団などに与するからこうなる。手加減も遠慮も、俺はしない――



 

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