ドーン・イン・フォールン 10 討ち取ったり!
【神格】神機クロノスによる時間魔法は成功。
ガディスさんの叫ぶ顔、クロードさんが決死の表情で手を伸ばす様子がよく見える。
機械兵の大剣は俺の顔面の間近で止まった。
止められる限界は一秒。
大剣の内側に入り込み、力を溜める。
次の瞬間、再び正常に時が進む。
大剣は頭の上を通りすぎ、空振り。
「≪魔衝八極蹴≫」
爆発する前蹴りが、機械兵をシールドごと吹き飛ばした。
兵士たちを巻き込み、倒れる。
「まだ壊れないよな」
立とうとする機械兵に胴に乗り、頭部を掴む。バチバチと火花が散って、妙な音を内部から出してきた。
思い切り力を込めて、引き抜く。
機械兵の首の部分が伸び、人間で言う血管のような管が数本見えた。
「ブッ……壊す!」
管がブチブチいって、千切れた。機械兵は動きを止め、黒い煙を出す。
敵の切り札はこれで仕舞だ。
ぶち切った頭部を捨てて、地面に降りる。
兵士たちは下がった。
戦う気が失せたのだろうか。
誰も言葉がない。俺の周りだけずいぶんと静かだ。
やがて、ガディスさんとクロードさんが左右につく。
俺たち三人が前に進むと、さらに兵士たちが下がる。
道を空けてくれるならありがたい。
「貴様……」
ダヴィド・エーギルがその姿を現す。
顔には憤怒と憎悪と、そして焦燥が見てとれた。
「剣神機をこうも簡単にやってくれるとはな」
「こいつらは『剣神』機などではない。ただのガラクタだよ」
「ふん……もとより頼ってなど」
苦しそうな顔だけど。負け惜しみか?
「ダヴィド・エーギル、降伏しろ。ダメオン侯爵なら寛大な処置をするだろう」
「帝国の名将の手腕はさすがだ……と言いたいところだがな。実際の指揮官は貴様だろう、シント・アーナズ」
「俺はただの冒険者だ」
「それはありえんな。どうやってかは知らんが、密かに各派へ連絡をとり、港への奇襲を成功させ、我が軍船を沈めた。全ては貴様の仕業だ」
ダヴィド・エーギルは剣を抜いた。
「いままでどこに隠れていた? 帝国軍の人間ではない…………魔法の使い手というのならば、ラグナか?」
「隠れていたわけじゃない。起きたら七カ月たっていただけ」
「わけのわからぬことを。この場に及び、冗談で返すとは」
「信じないなら、もう話すことはない。降伏しろ」
「まだだ。貴様を倒せば逆転はできる。貴様こそがぁ!」
ダヴィド・エーギルの命令で彼の側近たちが一斉に襲いかかってきた。
ガディスさんとクロードさんが応戦。
「これで一対一だ、シント・アーナズ」
「潔いことだな」
よほどの自信がありそうだ。
手にした剣から異常な魔力を感じる。
邪剣とも考えたが、おそらく違う。
レイピアよりも細い、針みたいな剣だ。
「エーギル家の武! 味わえ!」
嫌すぎる予感。シールドを全開で張る。
針みたいな剣が形状を変化。水の刃が発生し、障壁とぶつかった。
ただの魔導具ではない。これは、レプリカだ。
「このようなシールドなど!」
水の刃は力を増し、俺の障壁を徐々に割り切る。
「神剣のレプリカか!」
「いかにも! ぜおっ!」
気合一閃。障壁は弾けた。
「【神格】神剣『水姫』のレプリカよ。エーギルに伝わる宝剣の力を存分にしみ込ませ、海の藻屑となれ!」
連続した剣撃。鋭く、速い。
しかしその全てを避ける。
「くっ……なんだその気味の悪い動きは!」
上段に振りかぶったわずかな隙に、踏み込む。
剣の柄を≪魔衝拳≫をともなう掌底で叩き、止める。
その場で倒れ込むように肘打ち。もう一歩踏み込んで、ボディブロー。
一撃一撃に魔法を込め、衝撃が突き抜ける。
ダヴィド・エーギルは口から血を吐き、片膝をついた。
まだ動けるとしたら、たいしたタフさだ。
「閣下!」
「将軍を守れ!」
もう遅い。すでに勝敗は決した。
俺を守るようにシールドが囲む。これはアテナのもの。
そして、カサンドラたちが雪崩れこんでくる。
「敵将! シント・アーナズが討ち取ったり!」
クロードさんが声を張り上げた。ここにいる敵兵にとっては、それはブラフ。だが、味方がそれを聞いて口々に伝え、一気に広がっていく。
憲兵隊とガラル軍が士気を上げ、逆に饗団の軍は困惑。
形勢はもう覆せないほどに傾いた。
ここでの戦いは、ついに終わりだ。
逃げずに戦う者は少ない。
多くの者が降伏するか、どこかへ散っていった。
エーギル家の戦士達はしぶとく抵抗したが、司令官がなにもできない状態では、分断されて撃破されるしかない。
死体とけが人がどんどん積み重なっていく。
大河にも魔法に巻き込まれ、命を落とした者がいるだろう。
これが戦争か。
俺たちはいつまでこんなくだらないことを続けなきゃならない?
やらなけりゃ、やられる。手加減などする余裕は、ありはしない。
饗団の連中は、愚かだ。なにもわからずにただ戦い、なにを得る?
「ダヴィド・エーギル、覚悟はいいか?」
「……」
彼は動かない。喋られる状態じゃないか。
「≪衝破≫」
衝撃波が彼をさんざんに撃つ。
利用価値があるから、殺しはしない。
力なく倒れ伏すダヴィド・エーギル。手放された神剣のレプリカは回収しておこう。レプリカだが【神格】に関連するものだ。饗団になど使わせたくない。
「ハイマスター、終わりましたね」
「ええ、みんな、お疲れ様」
アークスはこれでいい。戦はもう後処理に移っている。
「シント、あの時になにをした?」
「機械兵の時ですか?」
「ああ、そうだ。魔法ではなく体術なら、あれはもう人間の動きではない」
ガディスさんは気になるようだ。
「魔法です。時を止めました」
「時……?」
「それはどういう……」
「これの力です」
と、左腕を上げる。
「【神格】神機クロノス。イリアさんにほんのちょっと力を借りました」
止められる時間は一秒が限界。それ以上は、人間である俺には無理だ。
おそらくはもう使用不可。これは俺の問題だ。一度の使用で術式が壊れた。どこかの部分が不完全で、発動まではよかったが、維持ができなかったのだと思う。
「神の力を使ったと?」
「いえ、解析で見つけた術式を模倣したものです。彼女たちには遠く及ばない」
「ものまね、ということか」
「そうそう」
ガディスさんは微妙な表情で、小さく息を吐いた。
クロードさんは、ものすごい早さで手帳になにかを書き込んでいる。
カサンドラたちは周囲の敵兵を追い散らしたあとで戻る。
全員集合と、思いきや、テイラー夫妻の姿はない。
「夫妻はどこに?」
「さっきまではいたけど?」
「なんか探してたみたいだよー」
なんだろう。気になるので行ってみる。
ほどなくしてテイラー夫妻は見つかった。
二人のそばには、心臓付近を矢で貫かれた男が倒れている。
エーギル家の装備ではない毛皮の軽装と矢筒。鳥の羽根で飾った兜が印象的だ。
「ダグマさん、アニャさん」
「ハイマス」
「お互いに無事ね」
「ええ、お疲れ様です。それで、どうしたんですか?」
「こいつさ」
かたわらには特殊な意匠を施した弓が落ちている。
「たぶん、『風葬弓』だな、こいつは」
なんだその強そうな名前。
「有名人なんですか?」
「狩人界隈じゃ有名よ。密猟、密輸、暗殺が得意なヤバイ奴なの」
「弓の腕なら大陸でも五本の指に入るって話だったが……饗団に雇われてたか」
悪者なら、ここで倒したことは僥倖だと思う。
しかしダグマさんの顔色は優れない。
「もったいないよな。そんな凄腕をまっとうに活かせないってわけだし。まあ、おれらもこうして戦争に参加したから、悪くは言えないか」
「そうかもしれませんが……でも、すごいですよ。そんなのを倒せたなんて」
「こっちは二人がかりだったしな。それに射ったのはアニャさ」
それは謙遜だ。少なくともアニャさんはこれで五本の指に入ったってことだろう。
「この弓は……なんだろう。魔力がすごい」
なんの材質でできるのか、ぱっと見はわからない。だけど、左手に持った神剣のレプリカと同等の力を感じる。
「……風の魔力、感じる」
「アリステラ?」
「これ、レプリカ?」
なーる。これもレプリカか。しかし弓の形をした【神格】はない。
となると――
矢をつがえず、構えてから弦を引いてみる。
魔力の高まりを強く感じた。
属性は風か。【神格】神風エルウィンのレプリカかもしれない。
「はい、アニャさん」
「ん?」
「これはあなたが持つべきだ」
「え、いいわよ。なんか高そうだし」
「そのほうがイリアさんも喜ぶ」
「つうかハイマス、これがなんなのかわかったのか?」
「十中八九、【神格】神風エルウィンのレプリカでしょうね」
「は?」
「うそ!」
これで射られた矢は軌道を変えた。恐ろしい技だ。
「おねがいします、アニャさん」
「……わかったわ。イリアが喜ぶなら、それがいいもの」
テイラー夫妻は笑顔だ。
それでいい。饗団などには使わせない。
レプリカですらも触らせたくないと、心から思うのだった。




