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ドーン・イン・フォールン 12 アークス勢力

 朝を迎えた。

 太陽がまぶしい。朝日がこんなに輝くものだったとは、思いもしない。

 美しい光を堪能しながらぼーっとしていると、隣に座るヴィクトリアが寄りかかってきた。


 夜通し戦っていたから、もう限界、といったところだろう。

 俺の肩の頭を預け、眠る。角が少し頬に刺さって、痛いのだが。

 やがて鼻提灯がぷくーっと出てきた。こんなに見事な鼻提灯を見たのはいつ以来だろうか。


 いまいる場所は大河上に伸びた桟橋の上だ。物の詰まった木箱に座り、アークス勢を待っているところ。

 アルクルス君はそこらへんで大の字になり、仰向けで寝ている。白目をむくほどに眠かったようだ。起こすのもかわいそうなので、そのままにしておく。


 戦艦ディエンドはすでに上空で待機。

 ウチのメンバーのうち戦闘員はパラメイズ港に残った兵士たちを追い出し、警戒中。俺たちが敢行した『空爆』でほとんどの戦力を削ったあとだったから、特に苦戦はしない。


 捕まえた男は、放したら一目散に逃げた。

 どこに行ったかは知らない。だが、いい宣伝役となってくれるだろうよ。


「来たか」


 数十の船が大河の水面に並ぶ。

 ダメオン侯爵率いる軍がやってきた。

 戦艦ではなく民間船や商船で構成されているのは、しかたのないことだ。

 むしろ乗れる船があってよかったと思う。


 彼らが降りるのを待つ。

 ガラル、アークスの憲兵、街人からなる義勇軍たちが次々と陸へ上がり、パラメイズ港を見て驚いている。


「なんという有様だ。アーナズ君、これは君たちが?」


 ダメオン侯爵がやってきた。

 マクシミリアン君の姿はないけど、どうしたんだろう。


「魔法による空からの爆撃をかましたんですが、思ったよりも効果が出まして。それはともかくマクシミリアン君は?」

「船で寝ておる。さすがに気が抜けたようだ」


 気持ちはわかる。俺もそろそろ限界だ。


「もう制圧は済んでしまったのか?」

「大方は。仕上げについてはお任せします」

「……こうもうまくいくとはな」

「うまく混乱を利用できましたし、あなたの力が大きかった」

「ふーむ……少々、胃が痛くなってきたぞ」


 侯爵の顔色が悪くなってきた。


「やはり私はアークスに引っ込んでいたほうが……」

「それでもいいですが、マクシミリアン君は飛び出しそうですね」

「うっ……ま、まさかそこまで計算に……? 私の息子をだしにしてあとには引けぬようにしたのではあるまいな?」

「そんなことするわけないでしょう。どのみちここまで来たんだ。侯爵はもうとっくにあとへは引けません」

「まったく、とんでもないな、君は」


 呆れられてしまった。

 しかしながら、ダメオン侯爵の力はまさに望外の戦果なように思う。

 この人は、すごい。普段はあんなにダメダメなのに、やる時はやる。


「ことがあまりにも急展開なゆえ、聞いていなかったが……これからどうする」

「ええ、話します……」

「アーナズ君?」

「……」


 もうダメだな。意識が遠のいてきた。さすがに無理をしすぎたか。


「しっかりしないか」

「…………すみません。なにか、あったら……起こ……」

「ん? アーナズ君? ちょっ……死んではいかんぞ!」


 死なない死なない。ただ眠いだけです。



 ★★★★★★



 目を覚まし、勢いよく体を起こす。

 無機質で生活感のないキレイな部屋だ。


「ディエンドの中か」


 暖かい室温がさらなる眠気を誘う。

 もう少し寝ようかと思ったが、まずは状況の確認だ。


「アテナ、聞こえる?」


 遠隔での会話を行う。

 しかし、返事がない。

 なにかあったのかな。だとしたら、まずい。


 一気に頭が冴える。

 部屋を飛び出して、ブリッジへ向かった。途中、広い廊下にある共有スペースで、女性陣が集まっているのを発見。


「あ、シント」

「起きたんだね」


 あいさつもそこそこに、話を聞く。


「あのあとねー、大変だったんだよ」


 ラナが苦笑交じりに言う。

 アテナは俺を収容したあとに倒れた。艦を動かせる者がいなくなり、大混乱になったという。


「いやもうこの船落ちるんじゃないかって、姐さんが大慌てになってさ」

「リーア! 余計なことは言わなくていいんだよ!」

「……ね、ねえ、シント。わたしたちが乗ってるコレって、なんなの?」

「正直、怖いです、シントさん」


 ミューズさんやアンヘルさんは青ざめている。

 フォールン組はだいたいそんな感じだ。


「マスクバロンに聞かなかったので?」

「あの人は下で偉い人と会議してるみたいよ」


 それはありがたい。手間が省ける。


「怖がることはありません。ドラグリアで目覚めさせた【神格】です」

「え……」

「そ、そうなの?」

「これは魔龍『九頭流布』の一部です。つまりディジアさんの一部でもあります」

「はあっ!?」

「でかすぎ……それマジ?」

「うちら、ディジアの中にいるってことじゃん?」


 グイネヴィアさんの問いに、大きくうなずいた。

 ここにいると、すごく大きなものに包まれているような気がするんだ。


「信じられないニャ。でもそれなら安心ニャ」


 クロエさんの一言で、いちおうの落ち着きをみた。

 それにしてもアテナが心配だ。


「アテナの容体は?」

「本人が倒れる直前に寝るって言ってたさ。よっぽど眠かったんじゃないかい?」


 思い当たるふしは、ある。戦艦ディエンドを起動してからというもの、彼女が眠ったところを見なかった。

 まさかとは思うが、五日くらい寝てない?


「いまはセレーネがついてるわ。もう丸一日たつし、病気じゃないなら、起きるんじゃない?」

「だといいんですが」


 って、俺も丸一日寝ていたのか。魔力を使いすぎたのは間違いない。


「あ、シントさん」


 ここでルーナちゃんがやってきた。エプロン姿、ということは。


「みなさん、朝食の時間ですよ」

「なんだか悪いわね、ルーナ」

「いいんです。少しでも役に立ちたいから」

「シントからも言って? 働きすぎだから」

「まあまあ、好きにさせてあげてください。きっといまが成長期なんです」

「シントさん! 変なこと言わないでー!」


 ルーナちゃんは顔を真っ赤にした。なんか俺、変なこと言ったか?

 とりあえずは朝食。

 その後は地上に降り、教えられた臨時本部へと行く。


 パラメイズ港の行政府には多くの人が集まり、みんな忙しさで目を回している。

 特に咎められることもなく、二階へ。

 そこにいたのは、ダメオン侯爵、ガランギールさん、長老、マスクバロンだ。それと、老紳士が二人いる。


「アーナズ君、やっと来たか」

「もういいのか? だいぶ疲れただろうに」

「ええ、ぐっすり寝ました」


 さっそく話を始める。

 二人の老紳士はパラメイズ港のお役人。ここを管理していた貴族たちはみな処刑されるか、どこかに連れていかれた。

 彼らは貴族ではないが、ここの名士だそう。


 軽くあいさつを交わし、大きなテーブルの上に広げられた地図を見る。

 帝国の南部地図だ。アークスを含む大河と、フォールンより南を網羅したものだろう。

 ところどころに差してあるピンや置かれた駒は、各勢力を表している。


「いまのところ饗団――神軍に動きはないが、そろそろアークスやパラメイズ港のことを知ったであろう」

「すでに斥候は放ってある。動きがあれば報告が入るはずだ。シント少年、これからどうするか、みなに説明を」


 特にやることはない。南部を脅かす敵軍が南下すればその時点で目的は達成される。


「饗団の軍を撃破し、アークス・フォールン間の流通路を確保できればベスト。ここにとどまり、パラメイズ港を守るのがベター。最悪の場合はここを放棄してアークスに撤退」

「君が寝ている間、協議したが……放棄はいささかもったいないのでは?」

「ダメオン侯爵の言うことはわかります」


 パラメイズ港は重要な拠点だ。大河に存在する他港からも物資が集まる場所である。ここを維持しておけば、多くの恩恵を得られるのだ。


「実は近隣にて潜伏していた帝国軍やらの兵たちが集まりつつある。うまくいけば二万程度の数が揃うだろう。軍需物資についてもエーギル家がアークスで貯め込んでいたものを接収済み。つまり、戦えるだけの用意が充分にできる」


 マスクバロンから説明を聞く。

 

「南部に展開している神軍の規模は全てを合わせて五万から六万。ただし情報が錯綜していることでもあるからね。参考程度でしかないが」

「主力は北部やガラル、ラグナにいるんでしょう。南部貴族の勢力は?」

「おそらく一万人、という話だね。ただ難攻不落と名高いデオバルト城塞都市を拠点としている。そう簡単には落ちないだろう」

「なんとか連絡をとろうとしているのだが、さすがに距離もある。時間がかかるな」

「いえ、ダメオン侯爵。連絡はしません」

「な、なに?」


 南部貴族の勢力は俺たちにとって、益にはならない。

 

「アーナズ殿、それはなぜか、わしにも教えてくれ」

「そうだな。儂も聞きたいところだ」


 みんなの目が俺に集まった。

 ちょっとだけ呼吸を整える。いまから話そう。

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