希望と絶望と、絶望と希望 23 仲間を求めて『アクアウインド』
次に向かった先は、フォールンの第四地区。
ここも住宅地がほとんどで、大都市に住む多くの人がここに家を構えている。
第四地区は饗団の標的にはならなかったみたいで、破壊の跡はまったく見られなかった。
巡回している兵士は見かけるが、人々が不当な扱いを受けている感じはしない。
「どうにもわからなくなってきた」
抵抗する人間が少なかった、といえばそうだが、第一地区や第二地区はかなり破壊されているようだし、奇妙に思う。
「まあいい。まずはアクアウインドだ」
ウチと連合を組む『アクアウインド』の事務所に来てみた。
ノックしてみても、返答はない。
いちおう、中も確認する。ギルドマスターであるアクエリナさんからは予備の鍵を預かっているので、お邪魔した。
「いないか」
反乱が起きる直前はフォールンの外で仕事をしていたようだから、まだ戻っていないと判断したほうがいいのかも。
「人が入った形跡はない……まだ外にいると考えたほうがいい」
うっすらとホコリが積もっており、新しい足跡も皆無だ。
いないなら、ここに用はない。
勝手に入ったから申し訳ない気持ちになった。すぐに出る。
アクエリナさんたちがいる可能性が高いのは、バーモンド市だ。
一度だけ行ったことがあるので、移動は容易い。
「すれ違いにだけはならないでくれよ」
願いつつ、再び魔法で移動を行った。
★★★★★★
バーモンド市には有名な観光名所がある。
世界でも十番目に大きいとされる大樹が、街の真ん中に立っているのだ。
大樹の根本ははるか昔から旅人の休憩所として活用され、今では街ができているというわけ。
俺がいきなり現れても、気づく者はいない。
反乱が継続する最中で観光をする者がいないからだ。
「しかしまさか、誰もいないとは」
前に来た時は観光客相手の出店とかがあって、かなりにぎわっていたように思う。
戦争はそこに住む人間の生活そのものを破壊する。それを痛感した。
見渡しても手がかりになりそうなモノはない。
どう探すか、少し考えてみる。
「エルフの三人組は特に珍しくもないしな」
エルフという種族は、剣帝アーサーが存命の時から親帝国派であり、住んでいる人も多いから、探すのは時間がかかりそうだ。
とはいえ、聞いてみるしかないのだが。
少し歩くと、三人組の武装した男たちが前方からやってくる。
兵士、というよりは冒険者風だ。
「すみませーん」
「あん?」
いきなりにらまれた。人相が悪い。
「エルフの三人組の魔法士を探しているのですが、知りませんか?」
「……は?」
「おい、こいつ」
彼らは剣や斧を構え、俺に突きつけてきた。
どういうこと?
「いちおう聞く。どこの隊のモンだ?」
「どこの隊でもありません」
「じゃあ、エルフのお仲間ってことか?」
「そうなりますね」
「知ってることを吐いてもらう。じゃなきゃ死ね」
物騒すぎないか。バーモンド市ってこんなに治安が悪いところじゃないはずだ。
「いきなりですね」
「ちいっ! 素早いな!」
「つうかなんで当たらねえのよ!」
剣や斧を避ける。
これじゃ話の一つもできない。
「≪衝破≫!」
衝撃波が無策で飛び込んできた二人を倒す。
残った一人が困惑したところを、太ももに≪魔弾≫。
「あぎっ!」
魔力弾が大腿骨を割り、男は動けなくなった。
「いでえええ! く、くそが!」
「なぜいきなり襲ってきた」
「てめえは……お尋ね者の仲間なんだろうが!」
お尋ね者だって?
「詳しく聞かせろ」
「ふざけんな! 足が折れて――」
「じゃあもう片方も」
「待て! 待って!」
もう一方の足に≪魔弾≫を放つ。
「うおおおおおおおおお! なんてひどいことををを!」
「足だけじゃバランスが良くない気もする。腕もいこう」
「バカ! やめろ! 教える! 教えるからぁ!」
泣きじゃくる男から、話を聞いた。
エルフの四人組の魔法士が饗団の物資を奪ったり、戦士を襲ったりして、賞金がかけられているとのこと。
「三人じゃなくて、四人?」
アクアウインドじゃないのか。
しかし、特徴を聞くと、四人のうち三人はアクエリナさん、ルビィさん、エンディさんだと思われる。
「どこにいる?」
「探してんのはこっちだっつうの! それよりもさあ! 病院に――」
「黙れ。知っていそうな人間を教えろ」
男は口をぱくぱくさせて、汗まみれの顔を俺に向けてきた。
「隊長が……東の森で探してんだ。おれらはいちおう街にいるかもってんで――」
「≪衝破≫」
魔法で気絶させ、その場から飛翔。
上空から東の森とやらを探す。
「あそこかな」
街道沿いの森が見えた。フォールンとつながる道の脇だ。
「フォールンへの補給路を断っていた?」
だとしたら、アクエリナさんはさすがだ。
四人組、というのは気になるけれど、急ごう。
東の森へは、一分もかからない。
空から観察し、すぐに見つけた。
誰かが魔法を使っている。それと悲鳴もだ。
急いで降りると、そこには惨状が広がっていた。
武装した兵士たちが何十人も倒れている。
兵士たちは生きているようだが、ギリギリって様子。
「お姉、やりすぎだって」
「もー」
ルビィさんとエンディさんだ。
そしてアクエリナさんがいる。なんとか見つけられた。
「あれ、もう一人いる」
一人、といっていいのだろうか。
正直、人には見えない。簡単に言うなら、水でできたエルフっぽい人、とでも表現しようか。
「新手?」
「≪ファイアボー……って、まさか!」
ルビィさんとエンディさんは俺に気づいたようだ。
だが――
「シントさんの仇ー!!」
アクエリナさんが放つ凶悪な≪ウインドカッター≫。同時に突っ込んでくる水でできた人。
「≪全方位障壁≫!!」
とっさに障壁で守る。ありえない衝撃が伝わってきた。
巻き上げられた砂塵が収まる。
次の攻撃がないから、きっと落ち着いたのだろう。
「お姉! ちゃんと見て!」
「ハイマス! ハイマス!」
「えっ……」
アクエリナさんはその切れ長の目を見開き、杖を落とした。
「シント、さん?」
「迎えにきましたよ」
「シントさーーーーーーーーーーーーーーん!」
彼女が泣きながら胸に飛び込んできた。
ふわりとした森の香り。間違いなくアクエリナさんだ。
「わたし……わたしもう、あなたが死んだと……生きていたのですね!」
「ええ、戻りました」
俺の胸に顔をぐりぐりしてくる。
「ルビィさんとエンディさんも、ただいまです」
「はー……死んでなくてよかったよ」
「うん、おかえり、ハイマス」
お互いに安堵する。
「ところでお姉ー、いつまでハグしてるわけ?」
「ハイマスの服、濡れ濡れだよ」
「あっ……これはその、失礼しました」
アクエリナさんは俺からさっと離れ、涙目でもじもじしていた。
「なんでここにいるってわかったの?」
「事務所には戻ってないみたいだったから、最後の仕事場所だったバーモンド市かなと」
「さっすがハイマスー!」
ルビィさんとエンディさんがいつも通りすぎてびびる。
「じゃあフォールンって解放された?」
「いえ、ぜんぜんです。俺も昨日ようやくフォールンに戻れたので、いまは散り散りになったみんなを集めているところでした」
「ていうかハイマス、どこにいたの? わたしたち帝都まで行って探したんだよ?」
「心配かけてすみません」
そうだったのか。
俺を捜してわざわざ帝都まで行くなんて。
「ところで、さっきは四人いませんでしたか?」
水でできた人が、いつの間にかいなくなっている。
「あー、アレね」
「お姉、説明したらいいんじゃない?」
「アクエリナさんが?」
もしかして、魔法?
水属性魔法の中には、己の分身を作り出す≪アクアダブル≫という上級のものがある。
しかしあれは、≪アクアダブル≫と違うものだった。重さがあり、攻撃力も持っていたのだ。
「すみませんでした、シントさん。アレはわたしの怒りゲージがマックスになった時に使える魔法でして~」
怒りゲージって、なに?
「お姉ってウチの一族の変わり者なの」
「そうそう。精霊の顕現」
それ、マジ?
古の大魔法士には、人を象った魔力の凝縮体である『精霊』を扱える者がいたという。
召喚魔法と同じく、いまは失われたもの――俺は存在自体を疑っていた――魔法である。
「滅多に発動しないものでして……」
なんでそんなに恥ずかしそうなんだ。
「まあ、ハイマスが死んだかもって落ち込んでた時に、饗団でしょ? フォールンにも入れないし」
「で、お姉はずっとブチギレ状態」
ああ、グイネヴィアさんと同じ感じか。
「うう……しかたないでしょ……あうう」
いつも落ち着いていておっとりしている風のアクエリナさんがブチギレって、見たいような、見たくないような。
とりあえず怒らせるのはまずいのだと把握した。
「とりあえず古街のギルドに移動します」
「他のみなさんは無事なのですか?」
「まだ安否確認は終わっていません。が、全員無事だと信じています」
「そう……ですね」
これでフォールン組はみんなそろった。
俺も一度戻ろうと思う。
「シントさん」
「どうしました」
「もうちょっと顔を……ちゃんと見せてください」
アクエリナさんはまたしても泣きそうだ。
「おかえりなさい」
「はい。ただいま」
笑顔を見ると、再会できたことが心から嬉しいと思うのだった。




