希望と絶望と、絶望と希望 24 仲間を求めて『ダレンガルト』
アクアウインドの三人とともにギルドへと戻った俺は、まず先にジョルジオからの苦情を受ける羽目となった。
「おまえなあ! いっきなり飛ばしやがって! このっ!」
「助けたじゃない」
「ああそうだ! ありがとよ! 馬鹿野郎!」
殴ってくる拳を受け止める。
「カタリナちゃんは?」
「あいつは安全なとこにいる」
カタリナちゃんはジョルジオの妹だ。
「ここに連れて来るよ」
「ああ? じゃあおれも行く」
「だめだよ。ここで待機」
そう言うとまた怒りだした。
「つうか生きてんなら連絡くらいしろよ! てめえ!」
「まあまあ、兄貴」
「兄貴、泣いてるし」
「タッド! エラン! てめえらは黙ってろ」
タッくんたちも無事だ。処刑されかけてたけど。
「ユーリエさん、ルーリナさんも」
「うん、ほんとありがと」
「死ぬかと思った」
話を聞くと、彼らは居場所を転々としながら饗団と戦っていたそうだ。
第五地区はならず者が多くて、街の人々が被害にあっていたらしい。
話はそこそこにして、カタリナちゃんを迎えに行く。
彼女はバーバリアンズの事務所からすぐ隣の家に住むご婦人に預けていたという。
で、連れて戻る。
カタリナちゃんは俺と何度も会っているから、少しも怪しんだりしなかった。
しかし、兄と合流してほっとしたようだったが、表情はすぐれない。
「あ、あの、イリア、は?」
カタリナちゃんはイリアさんと仲が良かったから、心配している。
「だいじょうぶ。そこにいるよ」
「あ……」
テーブルに置かれた果物ナイフを見て、微笑む。
わかるのか。すごいな。
「シント、あんたってほんとに」
「カサンドラ、こっちはどう?」
「敵の動きはないさ。それよりもこんな短時間で集めるなんてさ、どんだけ」
「姉さん、そこはシントさんだから」
「脱帽するしかないねえ。ほんとにもう、ほんと……」
カサンドラの流す涙を、指でぬぐう。
「これまでずいぶんと苦労をかけてしまった。カサンドラ、でもだいじょうぶだ。もう俺は、どこにも行かない」
「わかってるさ、わかってるんだけど」
アミールからこっそり聞いた話だと、カサンドラはみんなのリーダーとしてそうとう頑張っていたという。
俺はそれを聞いて自分の判断が間違っていなかったことを確信した。
彼女を本部マスターに指名したのは、豪快さと繊細さを合わせ持ち、優しさをも兼ね備えているから。
「カサンドラはウチのギルドにとって、まさに柱だ。今までどおり、頼ってもいいかな」
「ああ、もちろんさ」
あ互いに笑って、改めて再開を祝う。
「あとは南方か」
一気に大所帯となったわけだが、まだだ。
アリステラ、ラナ、シスター・セレーネ、アテナ、メリアムさん、ヴィクトリア、クロードさん、ガディスさん、ミリアちゃんにミコちゃんは南方にいる。
「戦力は集まったし、これから俺はラナを拾いつつアークスに向かいます」
「だめよ! 一人はだめ!」
ミューズさんが怒りはじめた。
「そうです! 僕を連れていってください!」
アミールもだ。
いやいやもうだいじょうぶだから。なにかあってもすぐに戻れるから。
「おねがいだからもう心配させないでください!」
アンヘルさんが詰め寄ってくる。
うーん、信頼がないようだ。当り前といえばそうなんだけど。
「ではこうしようか」
と、マスクバロンが言う。
「は? なにこの虫」
「って、人?」
「なんだこりゃ」
「小人、なのかよ」
マスクバロンの存在を知らなかったメンバーが仰天している。
「はあーーーーーーー! ふん!」
謎の気合。
マスクバロンが分身する。
なんかもう驚かなくなってきた。マスクバロンはなんでもできそう。
「二つの体は同期しているからね。常に互いの状況を確認しあえる。一体がシント少年についていけばいい」
二体のミニマスクバロンが同時にしゃべる。ひどく不気味だ。
「フォールンの状況を即座にシント少年へ伝えられるし、その逆もまた然り。これでいいのでは?」
みんなからに異論はなかった。というより、信じられない光景に愕然としているようにも見える。
「ついてくる気ですか」
「監視していないと、彼女たちの機嫌がどんどん損なわれていくように思えるが?」
ごもっとも。
「まあ、アルハザード卿の言うことは認めたくないけどねえ。癪だし、ムカつくんだけど、言う通りさ」
「カサンドラ君、アレについてはもう謝っただろう。普通に扱ってくれまいか」
なんの話だ?
「なにかあったんですか?」
「ほら、例のアクトー子爵像に仕込んでいた『眼』の件さ」
「ああ」
マスクバロンはフォールンの大穴事件の直前まで、魔導具を使いウチのギルドを盗み見ていたのだ。つまりは、ノゾキ、ってこと。
「いやあ、ほんとうに危なかったよ。彼女は私を何度も叩き潰そうとしてね」
「自業自得でしょうに」
「いまでも叩き潰したいさ。だけどアリステラはもっとやばいから覚悟しておくんだね」
「おお、怖い怖い」
口に割にはまったく怖がっていない。
「南方については、場合によっては日にちがかかるかもしれない。でも心配かけそうだし、定期的にここへ戻ることにするよ」
「もちろん、私も連絡をさせてもらおう」
マスクバロンの協力により、みんなかなり渋々といった様子で承諾してくれた。
「もしも天至が出てきた場合は、戦わないでくれ」
「ええ、すぐに連絡するわ」
「では、行ってきます」
「頼んだわね」
最初の目的地はダレンガルト。
そこでラナを回収しよう。
★★★★★★
「これが君の空間移動か。なんという魔法だ」
俺の肩に泊まるマスクバロンが感心したように言う。
「使えるのは知っていたでしょう」
「ともに移動するのは初めてだからね」
ここは果物の町ダレンガルト。≪空間ノ移動≫を使用し、無事に到着した。
来るのは久しぶりになる。
年中果実が実る不思議な地域で、それをあとから知った時は、ずいぶんと驚いたものだ。
しかしいまはその理由を、俺は理解している。
「このような時世に、空間の移動は便利すぎるな」
「だから、饗団の裏をかけます」
「ああ、我らに動きを想像できる者は、まずいないだろう」
魔力消費が極めて激しい≪空間ノ移動≫を、今日はかなり使っている。
平気でいられるのは、【神格】魔空ウラヌスのおかげだ。空間や異次元に関する力を持つこの神器は、いままでになく楽しそうに能力を発揮しているのだった。
一方で時間に関連する力を持つ【神格】神機クロノスは、使い方がいま一つわからない。わからないというか、感覚が理解できないといったほうがいいだろう。
人間の知覚を超えた魔法を使うことが俺にはできるだろうか。
目覚めさせた時に流れ込んできた術式の数々は、把握するまでそれこそ時間がかかりそうだ。
「シント少年、どうした?」
「いえ、俺もまだまだだなと」
「ふむ。それはなにかの哲学か?」
「ただの独り言ですよ」
目の前にあるゲートをくぐる。
看板には『エヴァンス青果』とあった。
ラナからずいぶん前に、父であるウィリアムさんがおばあさんのスーナさんとともに、一農家ではなく、会社を立ち上げたと聞いていた。
「ここは変わってないな」
今でも鮮明に思い出す。
スーナさんからいただいたリンゴの味は、一生忘れない。それくらい美味かった。
「無事だとは思うけれど」
まだ町の状況もわからないのだ。
緊張しながら、事務所を訪ねる。
そこにはスーナさんが座っていて、お茶を飲んでいた。
よかった。無事だ。
「あら、もしかして、アーナズさん?」
「ご無沙汰しております。お元気でしたで……しょうか」
「もちろんよ……さ、座って」
なんだか感極まってしまった。
「いやねえ、歳をとると……涙腺が緩んじゃって」
「ええ、ほんとうに……無事でよかった」
ついうっかり涙をこぼしてしまう。
どうにも感情の制御がうまくいかなくて困るな。
生き返ってからというもの、落ち着かない。
「そちらのお小さい方はお茶を飲むのかしら? それともジュースはいかが?」
「お構いなく、レディ」
「レディだなんて。言われたのはいつ以来かしらねえ」
うーん、マスクバロンを見て驚かない人がいるとは。
かなわないな、この人には。




