ぬ
◇◇◇
「元の世界に帰れないんじゃあ、置換石とやらが使えないじゃん!」
「そうなのです百々ちゃん……」
「とんでもない石やねんな~、置換石って」
「そうですね……。まさか私も置換されちゃうなんて、間違えて使っちゃったとはいえ、こんなことは初めてなのです……」
ちょっと待てよ?
いろはは僕を転生させるためにこの世界に来た。で、うっかりして僕らを入れ替えて、それで自分は元の世界に帰れなくなって、でも、この身体を元に戻すにはいろはに一度元の世界に帰ってもらわないとだめで、でもそれはできなくて……。
これ、つんでね?
「なので……すぐにお二人を元に戻すことはできないのです……」
◇◇◇
「あのさあ、関係のない話やけど、私も置換されちゃうなんてって、結構なパワーワードやない?」
「ゆーじ!」
「適度に緊張はほぐさなあかんかなって……いや、すんません」
何か見落としがないかを考えた僕はすぐに思い出す。
「そうだ、異世界電話! 確かつながるようになったんだよな? それを聞かせてくれよ」
「あ! そうでした!」
いろはは水晶玉を取り出して円卓にそっと置く。
そして手をかざした。
「コール」
すると、いろはの声に反応するように水晶玉はじりじりと音をたて、まるでテレビの砂嵐のようにざらざらとした見た目になった。
「ああー。聞こえますか~?」
反応はない。
ただノイズが流れる。
「とまあ、異世界電話はつながるのはつながるのですが、このままだとまったくやりとりができないのです。でも」
いろはは水晶玉をなでる。
「こうやって出力を下げると……」
水晶玉のノイズは小さくなり、砂嵐のような見た目ではなくなった。
『――聞こえるかね? いろは。聞こえたら応答を頼む』
「ええ、聞こえてますよ! スリット博士」
◇◇◇
『初めまして。私はスリット博士。この度は助手のいろはが君らに迷惑を掛けてしまったそうじゃな。その件については私からも謝っておこう』
ノイズ混じりの男の声だった。
この水晶玉が今異世界とつながってるのか。
「いえ、別に過ぎたことなのでそれはもう大丈夫ですよ」
横で奈海もうなずいている。
『ほんとにすまなかった。……それでじゃ、事情はいろはから聞いてはおるが、結論から先に述べよう。今の我々の力をもってしても、今すぐに君らの身体を元に戻すということはできないのだ。申し訳ないのう……』
何となくそんな感じはした。
もしも本当にそんな方法があれば、いろははもっと明るく振る舞ってたような気がしたからだ。
『ところで君らは、いろはから石のことは聞いておるかの?』
「置換石のことでしたら聞きました。でも正直僕はまだ死にたくないので、何かノーリスクな方法があるならそれを教えてもらいたいです」
『ノーリスクか。石については今も研究段階にあるものだ。解明が進めばそのリスクは下がるかもしれぬが、今すぐにというのは難しいじゃろう』
「そうですか……」
『とりあえずはのう、石のことはこちらに任せておきなさい。それよりも、今後をどうするかについて話しておきたいことがある』
「今後ですか?」
『うむ。石の影響によっていろはの運命性が弱まり、こちらの世界に戻ることができぬ状況にある。だが、幸いにもこの異世界電話を音声のみだがつなげる程度の引き寄せはできている。そのことから察するに、いろははしばらくのあいだ、運命性を高めることで再び次元の移動が可能となるだろう』
「運命性?」
『何じゃ、いろはから聞いてはおらんのか』
「え? ええ。まだ詳しくは聞いてなかったです」
『そうかそうか。てっきりもう話しておるものかと思っておったわい』
いろはは顔を赤くして下を向いている。
『運命性とはな、簡単にいうと運命を引き寄せる力のことじゃよ』
「運命を引き寄せる、ですか?」
『運命性は、その扱い方次第で、自分の意図した運命をたぐり寄せることができるのじゃ。そして、運命性を高めることは、より強い運命をも引き寄せることができるようになる。そしていずれは、いろはのように次元を超えて別の世界に自らの身体をもって踏み入ることも可能となるわけじゃ』
◇◇◇
「運命性を高めることで、別の世界にいけるようになる……?」
『そうじゃ。いろはがもう一度こちらの世界に戻るには、いろはの運命性をもってして、再び次元の特異点を引き寄せるほどに高める必要がある。そうすることで、もう一度いろははこちらの世界と行き来することができるようになるのじゃ』
「……もしかして、昨日いろはがいってた一年って、その運命性とかを高める期間のことだったのか?」
いろはは首をたてに振る。
『一年? いろははそういっておったのか?』
「はい。……それぐらいあれば元通りにできるかもっていってたよな? 奈海?」
「いってたと思う」
『ふむ……。説明の前にまずは誤解をとかねばならぬな』
「誤解?」
『その前にじゃ、君は、柳士といったかのう。うすうす感じてはおるのだろうが、いろはは少し間の抜けた子でな? うっかり屋なところがあるのじゃ。昨日、いろはから話は聞いておるのじゃが、できれば昨日の出来事を柳士からも詳細に話してもらいたいのじゃ。食い違いがあっては困るからの』
いろはは愛想笑いしていた。
奈海は僕を見てうなずいてる。
友次と百々にも話そうと思ってたところだし、この機会に全部話しておこう。
「わかりました」
僕は大きく深呼吸をする。
「昨日――」
口を開くと、みんなが僕に耳をかたむけた。
少し駆け足になってます。




