二千五百二十三夜、ばあばの社会人生活 121 ばあば就職する 121 印刷会社 94
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、ばあばがまだ若かった頃のお話をしようかねえ。
ばあばが就職をした頃のことだけれど……。
──日本語の文字の構成は、漢字よりもカナ文字のほうが圧倒的に数が多いということらしい……。
なので、少しでも早く文字を拾うということを考えると、いちいちその文字がある場所を考えることなく、カナ文字を自動的に拾えるようにならないと、文字の選択速度を上げることができない……ということらしい……。
だから、この作業は……何よりも先にカナ文字の配列に慣れる……ということの練習になる、ということらしい……。
……こうして、ばあばのお仕事に対する自主的な練習は、この作業に飽きてしまって、眠くなるまで続いた……のかな……。
とはいっても、呪文のような……意味などがはっきりとはしないような……二種類の言葉の羅列を、必要があるとはいえ繰り返して練習につなげるというのは、最も眠くなる重要な要素なのだろう……。
ばあばがお風呂を使った後のそれでなくてもリラックスし易い環境に置かれていて、眠たくならないわけがなかった……。
さらに今日は、ばあばが新しい会社に通い始める最初の日でもあった……。
そんな状況の中に一日中置かれていたばあばが、精神的に疲れていないはずもなかった……。
はっきりと言って、今日は一日緊張の連続だったといえるだろう……。
ばあばが、頑張って自主的に採字の練習をしたいと思っていても、そんなことが長く続くはずがなかった……。
ばあばのお父さんとお母さんは、のんびりとした食事の後にも二人で台所のテーブルで向かい合って座って話をしていた。
そんなときに、ばあばの部屋からは、繰り返し呟きに似た声が聞こえ続けていた。
その、意味が分からないような呟きが、いつの間にか聞こえなくなっていた……ということに二人が気が付くのに、そんなに長くはかからなかった……。
「……なんだか熱心に、繰り返し練習をしていたようだけれど……。
さっきから急に静かになってしまったようだねえ……。
あーちゃんの様子を、ちょっと見てきてくれないかい……。」
「……そうですねえ……。
疲れているのだろうから……さっさと休んでしまえばいいのに……何をやっているんだか……。」
そう言いながらお母さんは、台所とばあばの部屋の間の仕切り戸を少しだけ開けて、中の様子を覗いてみた……。
お母さんは、小さなため息を吐きながら、ばあばの部屋の中へと入っていった……。
そして、すぐに出てきたお母さんは、お父さんに伝えた……。
「……あーちゃんは……寝てましたよ……。
体を冷やさないように、ちゃんとお布団を掛けてきましたから……心配いらないですよ……。
なんだか、お仕事のことでお勉強をしていたみたいですね……。
まあ……心配なのだろうということはわかりますが……焦っても仕方がないのでしょうけれどねえ……。」
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




