二千五百二十二夜、じいじの高校生生活 1190 三年生 145 二学期から 127
今日は、じいじの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、高校生の頃のことだけれど……。
──やかんのお湯は、シャンシャンとは沸いてはいなかった……。けれど、触れないくらいにはお湯になっている様子だった……。
まだ夕ご飯前だったのでどうかなとは思ったのだけれど……。
でも、一息入れるためにも薄いコーヒーを作って、じいじは飲むことにした……。
じいじの椅子の後ろにあたる場所に置いてある本棚には、お茶用のセットが置いてある。
なので、コーヒーカップにインスタントコーヒーを茶さじ半分くらい入れて、それでじいじは我慢をすることにした……。
いくら安物のインスタントコーヒーだとは言え、確かなコーヒーの香りがするわけで……。
じいじは、その香りを楽しみながら過ぎていく時間を愉しむのがなんとなく好きだった……。
インスタントコーヒーのいいところは、常に一定の味や香りが愉しめるということだ。
……確かに、味や香りの変化を愉しむというわけにはいかないだろう……。
でも、常に一定な品質が期待できるというのは、嬉しいことだった。
この頃、町の喫茶店などでは、ネルドリップが主流だった。
このコーヒーの抽出方法にもいいところはあるのだ……。
このネルドリップで、コーヒーが淹れられた端は香りも味も華やかで楽しめる……。
しかし、いかんせん、ある程度の量をまとめて抽出するので、そのタイミングが合わないと香りが飛んでしまったような、コーヒーとは名ばかり……というような、“ なにか ” に遭遇することになるかもしれない……。
でも、そんな状態が普通だと皆が思っているのだから、何ということもないわけなのだろうけれどね……。
……じいじは、散らかっている机の上の削りカスなどをひとまとめにして、塵箱に落とし込む……。
作業途中の版画の原版を眺めながら、作業中に浮き上がってきて、剝がれそうになっている下絵を写した雁皮紙を、爪先でぺりぺりと剝がしたりしながら……。
そんな意味がないことをしながら、時間がゆっくりと過ぎていくのを体全体で愉しむ……。
じいじは、最近ではこんなにゆっくりとできたことがなかったような気がする……。
なんだか……べったりと張り付いていたような心の疲れが、少しづつ薄紙が剝がされていくように軽くなっていくような気がする……。
コーヒーカップから立ち上る湯気の様子を眺めていると、今日はこの辺で作業を止めておこうかなあ……という気持ちになってくる……。
こうしたゆったりとした気持ちになれるのならば、版木に彫刻刀で手入れをしていくような作業も、悪くないかもしれないなあ……って感じるのだ……。
一時の間であっても、日頃の忙しない気持ちを落ち着けられるのであれば、今が何物にも代えがたい時間なのだろうと感じてしまうのだ……。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




