二千五百十八夜、じいじの高校生生活 1188 三年生 143 二学期から 125
今日は、じいじの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、じいじが子供の頃のお話をしようかねえ。
まだ、高校生の頃のことだけれど……。
──今度機会があって、部屋に置くストーブを買い替えるようなことがあったのならば、赤外線反射型のストーブを使うことを考えてみたほうがいいのかもしれないなあ……。
時期的には、今が売り出しの最盛期なのか、テレビでは盛んに新型のストーブのテレビ CM が行われているようだ……。
寒さに弱いところがあるおばあちゃんも、ストーブの前面にいればかなり温かいのだろう、赤外線反射型のストーブのほうが使い勝手が良いのかもしれないしねえ……。
それに今のストーブは、石油を給油する際には本体を動かさなければいけないので、どうしても不便を感じてしまうようなところがあるしねえ……。
じいじは、ストーブの炎が青く安定した後になってから、そこを離れて自分の机のあるところまで移動をした。
机の上で乾燥させていた版画の原版用の版木は、糊で裏張りしてあった下絵も白くきれいに乾いているようだった……。
木版画は、下絵の通りに仕上げようとすると表と裏を逆にしなければいけない……。
下絵の中に文字や数字が含まれている場合に下絵のままで転写をすると、版画全体が裏から見た状態の印刷結果になってしまう……。
それを避けるためには、下絵を転写したものを裏返した状態で版木に糊付けしなくてはいけない……。
下絵を転写するときに面倒だからといっても画用紙を使うわけにはいかない……。画用紙の裏から下絵を見ることができなくなってしまって、彫刻刀で彫ることさえ難しくなってしまうだろうからだ……。
だからじいじは、お正月に年賀状を版画で創るために、下絵転写用の薄くて丈夫な和紙を買いそろえていた。
だから、じいじはその和紙 " 雁皮紙 " に下絵を転写して、それを裏返しの状態にして版木に糊付けをしていた……。
下絵を転写する際に使う用具は、基本何を使ってもいいのだ。しかし、じいじは、転写をする用具の自由度があまりない、墨と筆を使うことにしている……。
一度乾くと多少水に濡れても滲まないということもあるのだけれど……。
じいじはそれよりも、お習字がへたくそなじいじの手が醸し出す、独特のタッチが版画には合っているような気がしていたからだ。
それに、きれいな直線を引いたところで実際に彫刻刀で削り出す線は、どうしても、うねうねとうねってしまうだろう……。
ごく普通の線にしても、一定の太さや幅を彫り出すことが難しい……。
だったら……じいじは、彫り上がった後の彫り跡の勢いなどの、他の要素を面白がっていたほうが楽しいと感じている。
あまり切れない彫刻刀を使っていると、彫り残してしまったり、線や面の輪郭を切り飛ばしたり、彫り過ぎてしまったりもするのだから……。
そんなことをいちいち気にしていたら、版画など創ろうとしないほうが、よほど心の平安にはいいような気がする……。
……じいじは、机に向かう……。
じいじが持っている彫刻刀は、刃の種類が五種類ある、ごく普通の五本セットのものだ……。
じいじは、その中でも、一番鋭い形をしている、切り出し刀という彫刻刀を最初に握った……。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




