二千五百十三夜、ばあばの社会人生活 116 ばあば就職する 116 印刷会社 89
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、ばあばがまだ若かった頃のお話をしようかねえ。
ばあばが就職をした頃のことだけれど……。
──そういえば……ばあばは直接見てはいないのだけれど、七月にはアポロ宇宙船の月着陸が世界中に放送がされたらしい……。
空に浮かんでいるあの月まで人間が行って、なおかつ、そこからの生の映像が私たちのところまで届けられる……というのは、すごいことなのだとばあばは思う……。
ただ、ばあばにとっては、その月着陸ということ自体があまりにも日常とはかけ離れていることだった。
だからなのか、その時には、ばあばはピンと来てはいなかったと思う……。
あれから五十年余り経った現在でも、正直言って、ばあばにはピンと来てはいないところがあるのだけれどなあ……。
世界的に言っても、月着陸というのは確かに偉業なのだろうとは思う……。
それも生身の人間を月まで送って、その上着陸をさせるというのは、大変な危険が伴うことなのだろうとは思う……。
でも、現在では、そのような危険を冒してまで人間を月まで送るということについては、必要性が薄れてきてしまっているのだろうか……とも思う……。
あの頃に比べても、月着陸に関する世界中の情熱が、それほど高いとは言えないような気がするからだ……。
それに、あの頃のような国の威信を掛けて取り組む……というような姿勢が、今ではどこの国にも伺えない……というようなことになってきているのではないのかなあ……とも、ばあばは思う……。
確かに、月の広大な大地には、たくさんの資源が埋蔵されて眠っているのかもしれない……。
しかし、それが開発できるのかどうかということになると、話は全く別なことになるのだろうと思うのだ……。
経済的な採算性のことを考えると、月から運んでくるようなことでは、全く割に合わないのだろうと思う。
それよりもまだ、海の底に眠っている資源を開発するほうが、よほど投資効率が良いのだろうかなあ……とも思う……。
それでも……まだどこの国も、本気になって海底の資源開発に取り掛かろうとするところはないのが現状なのだろうかな……とも思う……。
そんなことをあわせて考えてみると、月の資源が云々などということは、当分先の話になりそうだなあ……と、そういう判断になりそうだった……。
……いやいや……これはばあばが考えたことではなかった……。
ばあばが前の座席で外を眺めているときに、高校生の男子のグループが、バスの一番後ろの席の辺りで盛んに討論をしていた……という、そういう話だった……。
それをばあばが、さも自分で考えたように話をしてみた……。
……と、そういう……話題の横取りをしてみただけ……という、ずるいことをしてみた……と、そういうことなのだ……。
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




