二千四百七十九夜、ばあばの社会人生活 99 ばあば就職する 99 印刷会社 72
今日は、ばあばの番です。
眠れないのかい、それは困ったねえ。じゃあ、少しお話をしてあげようかね。どんなことがいいかな。何がいい?
「…………。」
そうだねえ、じゃあ、ばあばがまだ若かった頃のお話をしようかねえ。
ばあばが就職をした頃のことだけれど……。
──Iさんに言われたばあばは、もう一度、暗室の中へと行くことになった……。
ばあばは暗室の中で、もう一度印画紙の箱の確認をして、それから暗室内の蛍光灯を点けた……。
そして、Iさんが大きな計量カップに、バットから定着液を流し入れるのを注視していた。
そして、専用の比重計をその中にゆっくりと浮かべる……。
バットの中に入れてあった時には気が付かなかったのだけれど、定着液には薄い黄色の着色と、わずかな濁りがあるように感じた……。
「……定着液を作った時には、比重計の数値は、1.050~1.080 くらいなの……。
……今は……1.09よりもちょっとだけ多いくらいかな……。
これが、1.11 を超えてしまうようだと交換をしないとダメみたいだから……。
その頃になると、この液の色がもっと黄色味が強くなって、濁りも濃くなってくるらしいからね……。
以前、交換をするときに、製版の定着液の状態を見せてもらったことがあるのよ……。
その時には、はちみつが強く濁ったような状態だったからね……。
調合したての時には、透明でさらさらしていたように見えた定着液が、あんなふうになるのは信じられなかったのだけれどねえ……。
さすがに……私たちは、あそこまでは怖くて使い続けることができないわよねえ……。」
Iさんは、大きな計量カップに入れていた定着液を、今まで入れていた専用のバットに戻した。
計量カップを流水で洗い流しながら、何かを考えているようだった……。
「……まだ少し早いようなのだけれど……そろそろ気温があまり上がらなくなってくる頃だし、現像液の恒温器の準備をしておきましょうか……。」
そう言いながら、Iさんは、棚の下に押し込んであった新聞紙の包みを引っ張り出した……。
テープで止めてあったそれを開くと、ステンレスらしい金属製の四角な箱が出てきた……。
それをよく見ると、正面らしき部分には、メモリの付いたダイヤルがついているようだ……。
後ろ側には、電源コードが付いている……。
大きさの割には、なんだか軽そうな、バットと同じような大きさの、五~六㎝くらいの厚みの箱のようだった。
「……これはね、これから寒くなってきて、現像液の液温が上がらなくなってきたときに、現像管理がより正確にできるように、現像液の液温を一定に保つためのものなのよ……。
そうしないと、うまく現像濃度を上げることができなくなってきてしまうからね……。
これからまだまだ寒くなってきて、現像に普段よりも時間が掛かってしまうようなことになる前に、準備をしておかなくてはいけないからね……。」
Iさんは、そう言いながら、固く絞った雑巾できれいに拭ったそれを、現像液のステンレスバットの下に敷き込んだ。
「……今はまだ、現像にそれほど時間が掛かってはいないので、電源は入れなくてもいいかもしれないわねえ……。
でも急にこれ以上寒くなってしまうと慌てることになるかもしれないからねえ……。
準備だけは早いほうがいいだろうからね……。」
おや、眠たくなってきたかい、それじゃあ、おやすみ、いい夢を見てね。
良い夢に恵まれますように、おやすみなさい。また次の夜に……。




