お風呂での過保護な世話
レオン、さすがに風呂くらいは一人で入れるって!」
「却下だ。湯船で倒れて溺れでもしたらどうする」
そう言って、レオンは俺の抗議を完全に無視し、湯気が立ち上る大理石の浴室へと俺を抱き上げたまま連れていった。
レオンの私邸にある広大な浴室。その中央にある浴槽には、贅沢にも身体を癒やす薬草の香りが漂う温湯が満ちている。
レオンは俺を濡れた床に立たせることすら拒み、大理石の椅子にそっと座らせると、自らも服を脱ぎ捨てて素肌を晒した。15年前よりも遥かに逞しく、無数の戦傷が刻まれた彼の肉体が間近に迫り、それだけで目のやり場に困ってしまう。
「……まずは髪からだ。目を瞑っていてくれ」
レオンの大きな、剣を握り続けて硬くなった手のひらが、俺の頭を優しく包み込む。
温かいお湯で髪を濡らし、きめ細やかな泡で丁寧に頭皮をマッサージするように洗っていく。その手つきは驚くほど繊細で、まるで壊れやすい宝物を扱っているかのようだった。
「目が沁みないか? 痛むところはないか?」
「うん、大丈夫……気持ちいいよ」
「そうか。お前の髪にこうして触れるのも、15年ぶりだな……」
レオンの低い声が、浴室の湯気に優しく反響する。
シャワーで泡を綺麗に流したあと、彼は今度は柔らかい布に石鹸を含ませ、俺の身体を洗い始めた。首筋から鎖骨、そして胸元へと、這わせるような手つきで布が滑る。
「レオン、そこは自分で――」
「大人しくしていてくれ。お前の身体の隅々まで、本当に傷が残っていないか、俺の目で、この手で確かめさせてほしいんだ」
琥珀色の瞳に宿る熱は、過保護を通り越して、どこか執着に満ちた色を帯びていた。
谷底に落ちたときの傷跡は、俺の聖人の力ですべて消え去っている。それなのに、レオンの指先は、かつて傷があったであろう背中や腰のあたりを、愛おしそうに、そして飢えた獣が縄張りを主張するように、何度もなぞり、 撫で上げていく。
「ん……っ、レオン……くすぐったい、から……」
「くすぐったいだけか? 聖。お前の身体が、さっきから俺の指に小さく 震えているが」
耳元で意地悪く囁かれ、首筋に熱い唇を押し当てられる。水音が響く浴室の中で、肌と肌が擦れ合う温度が、見る見るうちに跳ね上がっていくのが分かった。
「……これ以上は、湯船に浸かってからにしてくれ」
「そうだな。お前がのぼせてしまっては困る」
レオンは俺を 抱き上げ、 薬草の浮いた湯船へと一緒に浸かった。
温かいお湯の中で、レオンは俺の背後から包み込むように抱き締め、その胸に俺の背中をぴったりと密着させる。
「聖。二度とお前を離さない。この世界の誰も、お前を俺から奪うことはできない。……一生、俺の腕の中で溺れていてくれ」
背中越しに伝わるレオンの激しい心臓の鼓動と、耳元に注がれる重すぎる愛の誓い。
お湯の熱さのせいだけではない熱に浮かされながら、俺はレオンの過保護な腕の中に、 心も身体も深く沈めていった。




