その後~甘やかしが止まらない
15年の歳月を経て再会した二人の夜は、互いを求める強い想いに満たされていました。レオンの強い独占欲と、それを受け入れる聖の深い情愛が交錯し、長い孤独の時間を埋めるように静かに夜が更けていきます。
窓の外では戦いのあとの喧騒が続いていましたが、天蓋付きのベッドの中だけは、二人だけの確かな世界でした。かつて失った温もりを確かめ合うように、二人は夜が明けるまで静かに寄り添い続けました。
翌朝、俺の身体の傷は『真の聖人』の治癒力によって完全に塞がっていた。
「よし、これならもう普通に動けるな」
ベッドから下りて自分の服を着替えようとした、その瞬間だった。カチャリと静かにドアが開き、朝食のトレイを持ったレオンが入ってきた。俺が床に立っているのを見た瞬間、彼の琥珀色の瞳が凍りつく。
「……聖、何をしている」
「え? いや、もうすっかり元気になったから、着替えようと思って」
言い切る前に、レオンはトレイをテーブルに叩きつけるように置き、瞬時に俺の元へ踏み込んできた。そのまま軽々と俺の身体を横抱き――いわゆるお姫様抱っこで抱え上げる。
「わっ!? レオン、下ろして!」
「駄目だ。まだ安静にしていてくれと言ったはずだ。傷が塞がって見えても、内臓や骨、魔力回路にどんな負荷が残っているか分からない」
レオンは俺を優しくベッドへ戻し、手早くシルクの毛布を胸元まで掛け直した。その手つきは極めて丁寧だが、一切の反論を許さない堅固さがある。
「着替えなら俺がする。というか、しばらくは寝間着のままでいい。……いや、むしろ何も身に着けない方が、傷の経過を観察しやすいか?」
「バカなこと言わないで! 恥ずかしいだろ!」
「冗談ではない。俺は大真面目だ。15年前もお前はそうやって無理をして、俺の目の前で……」
レオンがふっと悲しげに視線を落とす。その顔をされると、俺はもう何も言えなくなる。15年間の彼のトラウマの深さを思えば、多少の過保護は受け入れるしかないのだと諦めた。
「わかった、大人しくしてるよ。……じゃあ、朝食を食べてもいい?」
「ああ。俺が食べさせる」
「は?」
レオンはベッドの脇に腰掛け、スープの入った器を手に取った。そしてスプーンですくい、丁寧に息を吹きかけて俺の口元へと運んでくる。
「レオン、手はどこも怪我してないから自分で食べられるって――」
「聖、あーんだ」
「……」
三十路の男が受ける仕打ちではないと思いつつも、大真面目で、どこか必死な眼差しを向けてくる隊長クラスの威圧に抗えず、俺は大人しく口を開いた。温かいスープが身体に染み渡る。レオンは俺が一口 飲み込むごとに、嬉しそうに、愛おしそうに目を細めた。
「美味しいか?」
「うん、すごく美味しい」
「そうか。お前が咀嚼して、飲み込む姿を見られるだけで、胸が震える。……お前が生きている。俺の前にいる。それだけで、俺の全人生が報われた気分だ」
スープを一口運ぶたびに、そんな重すぎる愛の言葉がもれなく付いてくる。
食後、俺の唇の端についたスープを、彼は指ではなく自身の唇で優しく吸い取るように 舐めとった。
「レオン……っ、本当に過保護すぎ……」
「これでも自重している方だ。本当は、お前をこの手で片時も離さず抱き潰して、俺の執着をその肌の奥深くまで刻み込んでしまいたい。……お前が二度と、俺の手の届かない場所へ行ってしまわないように」
耳元で囁かれた低く甘い声に、背筋がゾクゾクと震える。
冷徹な騎士団隊長の皮を脱ぎ捨て、狂気的なまでの過保護と独占欲を隠そうともしなくなった元・新人騎士。俺は呆れつつも、その過剰すぎる愛に、どうしようもなく満たされていくのを感じていた。




