部下とのハプニング
お風呂から上がり、レオンに新しい最高級のシルクの寝間着を着せてもらった俺は、相変わらずベッドの上で「絶対安静」を言い渡されていた。
そんな時、静寂を破るように、寝室の重厚な扉が激しく叩かれた。
「隊長! 隊長失礼します!! 緊急事態です、神殿の最高司祭どもが『真の聖人』の行方を追って、この私邸の門前まで押し寄せてきており――」
ドタバタと入ってきたのは、レオンの右腕である聖騎士団の副隊長、カイルだった。いつも冷静な彼が、血相を変えて部屋に飛び込んでくる。
しかし、カイルはそこで言葉を失い、完全に石化した。
目の前に広がっていたのは、大陸最強と恐れられる氷の騎士団第一隊長が、ベッドの上の男(俺)に、細かく切った極上の果実を「あーんだ」と甲斐甲斐しく口に運んでいる、世にも奇妙な光景だったからだ。
「……た、隊、長……? その、そちらの……『15年前の死者に酷似した、ただの一般人のはずの男』を、なぜそのように甘やかして……」
「カイル」
レオンの声が、一瞬で氷点下まで吹き飛ぶ。
俺に向ける時の甘い声はどこへやら、カイルへと振り返ったレオンの琥珀色の瞳は、冷徹極まりない「鬼の騎士隊長」そのものだった。
「ノックの回数が足りない。それに、俺の部屋に勝手に入るなと言ったはずだ。聖が驚くだろう」
「い、いや、ノックは3回しましたし、緊急事態で……! って、え? 聖? 今、その男のことを聖と呼びましたか……!?」
カイルは目を見開いた。15年前、レオンが新人の頃に失った「最愛の聖人」の名前を、隊長が今、目の前の男に呼んだのだから当然だ。
「そうだ。俺の、唯一無二の恋人だ。そして――神殿が探している『真の聖人』でもある」
「なっ、なんだってぇぇぇーーーっ!?」
カイルの絶叫が寝室に響き渡る。
レオンはそんな副団長を完全に無視し、俺の肩をそっと抱き寄せ、これ見よがしに俺の額に深いキスを落とした。あまりの独占欲の誇示に、俺の顔が一気に火を噴く。
「レオン! 人の前で何やって――」
「構わない。カイル、門前の神殿の犬どもにはこう伝えておけ。『真の聖人などここにはいない。もしこれ以上、俺の私邸に踏み込もうとするなら、神殿を叩き潰す』とな」
「だ、隊長、それはさすがに暴論が過ぎるというか、公私混同が極まって――」
「公私混同ではない。聖は俺の命であり、全てだ。聖を脅かすものは、国であれ神であれ俺が全て斬る。……早く行け」
凄まじい威圧感と覇気に圧され、カイルは「ひぃっ」と短い悲鳴を上げて、脱兎のごとく部屋から逃げ出していった。
「……もう、レオン。カイルが可哀想でしょ。あんなに脅したら、神殿が大騒ぎになっちゃうよ」
「問題ない。お前を二度と失わないためなら、俺は世界の全てを敵に回しても構わないんだ」
レオンは俺を再びベッドに押し倒し、今度は逃がさないように深く唇を重ねてきた。
部下に見られても一切動じないどころか、周囲を牽制するために独占欲を爆発させるレオン。俺は彼の重すぎる愛に、あきれつつも、心地よく蕩かされていくのだった。




