恋人との再会
「聖……っ! 聖!!」
静寂が戻った不気味な谷底に、狂ったような叫び声が響き渡った。
固い岩場を、鎧の重みも厭わずに転げるようにして降りてきた男――レオンハルトは、血の海の中に横たわる俺の姿を見つけるなり、その場に膝から崩れ落ちた。
「嘘だ……、頼む、嘘だと言ってくれ……!」
あの冷徹で、付け入る隙のなかった聖騎士団長が、今は見る影もなく取り乱している。彼は震える手で俺の身体を抱き起し、壊れ物を扱うように自身の胸へと抱き寄せた。
「あ、が……っ」
動かした身体の激痛に、俺の口から短い悲鳴が漏れる。それだけでレオンの顔が絶望に歪んだ。
「すまない、すまない聖……! 俺が、俺がもっと早くお前だと気付いていれば……いや、気付いていたんだ! お前が『聖』だと、最初から分かっていたのに……!」
溢れ出したレオンの涙が、俺の頬にポタポタと落ちて、こびりついた魔物の返り血を薄めていく。
「……じゃあ、なんで、あんなに冷たく……」
掠れた声で問いかけると、レオンは俺の血塗れの手を握り締め、自身の額をそこに押し当てた。
「15年前、俺のせいで、お前をこの谷底へ落とした……。あの日から俺は、お前を護れなかった自分を呪い続けてきた。だから、再びお前が現れた時、信じるのが怖かったんだ。もしまた俺のせいで、お前を失ったら、今度こそ俺の精神は崩壊すると思った……」
レオンの身体が、子供のように激しく震えている。
「それに、今のお前は『聖人』ではないただの人間として扱われていた。俺が下手に執着すれば、お前が周囲から余計な疑いをかけられ、政治の道具に利用されるかもしれないと……。遠ざけることしか、お前を護る方法が思いつかなかったんだ! 頼む、目を開けてくれ、聖……!」
冷徹な態度の裏にあった、狂おしいほどの後悔と、あまりにも不器用な愛情。
それを知った瞬間、身体の痛みなんてどうでもよくなるほど、胸の奥が温かい光で満たされていくのが分かった。
「ばか……。俺は、生きてるよ、レオン……」
俺は残された最後の力を振り絞り、彼の頬に手を添えた。
「15年前も、今も……俺はお前を護りたかっただけだ。泣くな、俺の騎士様……」
「聖……っ、ああ、聖……!」
レオンは俺を強く、だが痛ませないように優しく抱きしめ、何度もその髪や額に口づけを落とした。
魔物を一瞬で殲滅した俺の『本物の聖人』の力が、今度は俺自身の傷を内側からゆっくりと癒やし始めている。全快には時間がかかるだろうが、もう死ぬことはない。
15年の歳月を経て、俺たちはようやく、本当の意味で再会することができたのだ。




