7話 レイ・オール・ユア・ラブ・オン・ミー あなたの愛を全部わたしに
「…………」
映像に映っていた顔は見慣れたものだった。
もうどうが銃を抜きながら走ってくる。きつしがモニターを指さすと、舌打ちをして銃を腰に戻す。エレベーターのドアが開く。
「何の用だ」
もうどうは衛星電話を机に投げ出して椅子に座ってキーボードを叩いた。
「そんな風に言わないでよ」
利恵菜は駆け寄ってきてもうどうの肩に手を置いた。
「どうしてここを知ってる」
「教えてくれたじゃない」
「パスコードは」
「それも教えてくれたじゃない」
もうどうはため息をついた。
水の流れる音が一層強くなった。
「いろいろ大変だったんでしょ? 隕石に宇宙人に。普段は怒らないことでしょ」
利恵菜はもうどうの隣に座って衛星電話に手を伸ばした。
「触るな」
もうどうは語気を強めた。きつしは衛星電話を取り上げる。
「何の用なんだ。見ての通り俺たちは忙しい」
言いながらもうどうはきつしの方を見た。エレベーターの前では鈴音が気まずそうに待っている。
二人は知り合いのはずだがどうしてそう固まっているのか。
「早く帰れ」
もうどうは立ち上がった。
利恵菜は少しショックを受けたのか俯きがちになった。
「昔はそんな風じゃなかったのに」
利恵菜の声が水の音に重なったがはっきりと聞こえた。もうどうは水たまりで立ち止まった。きつしも体を硬くした。
昔はそんな風じゃなかった。よくそんなことが言えたものだ。どうしてもうどうがこんな人間になってしまったのか知らないはずがないのに。この女だって悲しんでいるのだろうに。
もうどうの背中は燃えている。いつも、沙織が消えてから。悲しみに燃えている。確かに昔のもうどうは優しかった。
誰に対しても何に対しても親しみがあった。ココロがあった。大切な人が去る。ただ去るだけならまだ良かったのに。
もうどうの才能が彼女を殺したようなものだ。
もうどうの背中は燃えている。何も知らない鈴音は気まずそうにエレベーターの前に立ちすくんでいる。赤ん坊が泣き出す。水は流れていく。
「出てけ、三人とも」
もうどうは渡り通路へ消えた。
「立って」
きつしが言うと利恵菜はぶっきらぼうに
「言われなくても」と吐き捨てた。
きつしは利恵菜の目を見すくめた。利恵菜はさっさとエレベーターへ歩いていく。憤りは確実にココロに根を下ろしていく。きつしはバッグを担いでエレベーターへ歩み、キーパッドに指を押し当てた。
「1216」
ドアが開く。
「い、い、い、一応言っとくけど」
きつしは開口する。
「なに」
利恵菜は少々憤った声を出した。
「今後も、も、もうどうと関わるなら発言には気を付けて」
「なに? もうどうの何を知ってるのよ」
利恵菜は声を荒めた。どうしてこんな風に言えるのか。きつしは分からなかった。
「は?」
「わたしは小学生の頃からもうどうと一緒なの。わたしはもうどうを理解している」
「そんな低次元な話はしてないよ。ど、ど、どうしてもうどうの傷を抉るようなことを言うんだ」
利恵菜は何も言わなかった。鈴音が肩身の狭い思いをしているのは申し訳なかったがそれよりもきつしは利恵菜
が憎かった。
更衣室を出るときつしは鈴音の肩を抱いて早足で去った。




